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第456話「図書館再び②」

 図書館の地下一階の広さは、地上の半分にも満たないと思う。

 だが、一般には公開されていない書物ばかりが置かれている事を思えば、相当な量の知識が眠っているに違いない。

 俺は精霊関係の本棚から、生命の精霊に関する本を探している。

 しかし、いくら探せど生命の精霊を専門に扱う本だけは見当たらなかった。


「むう……」


 俺は小さく唸りつつも、それらしい本を手に取る。


「…………」


 本当は片っ端から本を持ち運びたいところなんだが、図書館の蔵書は大きくて重たいものばかり。

 ここにある殆どの本は、魔術師や賢者の研究内容を清書せいしょしたものだ。

 清書せいしょのさいには品質が良く若干大きなサイズの羊皮紙が使われるので、本の厚みによっては下手な鈍器よりも重さがある。

 魔術師なら浮遊の魔法で簡単に運べるのだろうが、俺はそうもいかない。

 この図書館にはキャリーカートのような備品も見当たらないし……。


「……………………」


 こうなったら居直って、この場に本を広げるまで。

 昨日も同じようなことをしたが、幸い周囲の本棚には人影もないので、迷惑にはならんだろう。


 …………。


 ………………。


 ……………………。


 これは──。

 終わりが見えそうにないな……。


 普段わからないことがあれば、エミリアに聞くことで殆ど解決してきた。

 エミリアが知らない知識でも、数日後には調べた結果を教えてくれることも多かった。

 あまりにも簡単に解決してくれるからナメていたが、まさかネットに頼らない調べモノがこんなにも大変だったとはな……。

 これは下手をすると、何日どころか何週間も図書館に通い詰める生活になりそうだな。

 まあ、そんな生活が許されるのは、学者や学徒くらいだろう。





 ──複数の本に書かれている情報を整理すると、具現化した生命の精霊は、現れる場所や状況に応じて姿形が変わるという事がわかった。

 俺たちが見たのは白い角を生やした半透明の鹿の姿だが、白い大蛇として描かれている本や、とらえ所の無い白い物体だと説明している本もある。

 どうやら体の一部、もしくは全体が白いという特徴だけは共通するらしい。

 そして最大の謎とされているのは、他の精霊が知性を持たない振る舞いをするのに対して、なぜか生命の精霊には知性的な行動が見て取れることだ。


 どちらにせよ、会おうとしても都合よく会える存在ではない事と、精霊が発する言葉の意味もわからないので、どの本にもあまりページが割かれていない。

 興味の対象ではあるが、調べる機会が少なすぎて書くことがないと言うのが実状のようだ。

 個人的に気になった部分としては、生命の精霊が現れた場所には動植物の異常成長が確認できたという本もあれば、近くに居合わせた大型動物がみるみる小さくなり若返ったという記録もある。

 しかしそれは、あくまでも観察止まり。

 どうしてそうなるのかなど、具体的なことは何一つわかっていないようだ。


 どうしたものかな……。

 別に精霊の研究がしたい訳でもないし、この辺りで切り上げておくべきか?


 俺は絨毯の上に広げた本を片付けて、読書スペースがある場所まで戻ることにした。





 一旦、読書スペースに戻った俺は、ティナの姿を探して合流する。


「半透明の鹿は具現化した生命の精霊で間違いなさそうだが……それ以上を調べるのは難しい」


 俺は小声でティナに話した。


「こっちは面白い本を見つけたわ」


 ティナも小声で俺に話す。

 その本では、古代の魔術師たちが急速に力を失いつつある状況の中、それでも繁栄の維持を続けるために考え出された様々な方法がまとめられていた。

 今でも使われている実用的な方法から、迷走した挙句に意味不明な行動など実に様々だ。


 以前エミリアから貰ったテレパシーの護符や、魔道具屋で売っている魔法の矢、そして俺たちが書き写した魔法陣などは、この時期に編み出された手法らしい。

 本の説明の中では、偽りの指輪によく似た効果の魔道具も記載されていた。


「この辺から面白くなるのよ」


 ティナが開いたページは、いわゆる「珍兵器」や「失敗作」の魔道具を紹介した項目だ。

 日々衰える魔力を補うために、前後左右にアンテナを取り付けたヘッドギアを被り、大気中に漂っている魔力を引き寄せる試みとか、魔界と繋がるトランシーバーのような魔道具を作って、魔界から直接魔力を補充するような方法まで──。

 最後のトランシーバーに関してはネタ扱いの魔道具ではなく、当時は最有力候補の一つとして期待されていたようだ。


「何がダメだったんだ?」

「魔力を取り出すところまでは成功したみたいだけど、魔界の魔力を直接扱うことが出来なかったそうよ」


 その解決策として生まれたのは、無理やり使い魔にした悪魔たちに魔道具を使わせながら、使い魔を経由して永久に魔力を吸い上げるというシステムだ。

 だがそれは、使い魔の魔力が術者の魔力を圧倒する結果となってしまい、のちに悪魔たちから大反乱を起こされたと書かれている。


「昔の人、ホントろくでもない事ばかりしてるよな」


 エスタモル時代の終焉とともにすべての悪魔が滅びなかったのは、魔界から魔力を補充できる魔道具が存在したせいもあるだろうな。


「もしこの魔道具が手に入るなら、ちょっと試してみたいのよ」

「人も悪魔も同じ魔力だと考えていたが、これを読む限り違うみたいだな。使い魔の契約をした者同士なら互換性が生まれるのか? それとも一度体内に取り込んだ魔力なら同じ性質になるのか? ちょっとわからんが、試す価値はある」


 いつもの調子で話し合っていると、ついつい声が大きくなってしまい、こちらに集まる視線が痛くなってきた。


「今日は終わりにしましょう。この本は借りていくわ」

「そうしよう……」


 俺とティナは逃げるようにして図書館を後にした。


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