第453話「悪魔の魔力、ユナの冒険①」
「グレン、起きてるか?」
俺は炎々と燃える暖炉に向かってグレンを呼ぶ。
「ウムゥ……」
グレンは全身を灰まみれにして、暖炉から顔を出す。
今まではティナが魔法の火を燃やしていたので灰なんて出なかったが、新しい薪から出る灰と煙には、流石のグレンも快適とはいかなさそうだ。
「ちょっと聞いてみるが、グレンの魔力って、どうやったら回復するんだ?」
「コノ世界ダト、契約シタ魔術師カラ魔力ヲ貰ウ。火ノエネルギーヲ魔力ニ変エル」
悪魔の事は悪魔に聞けと思ったが、これだと参考にならんなあ。
「魔界ではどうしていたの?」
「強イ悪魔ノ配下ニ付イテ魔力ヲ貰ウ。魔法ノ火ニ覆ワレタ岩山モアル……」
どちらも変わらんじゃないか。
まあグレンの場合は、基本的に火と熱があれば何でもいい感じだろうか?
活火山の近くで生活したら、魔力切れとは無縁になりそうだ。
「前に見た青い悪魔みたいに、明らかにこの世界で生き延びてきた悪魔もいますよね? そういう存在からヒントを得るのが良いと思います」
それはそうだが、あの青い悪魔はもう討伐してしまったし、魔法の矢も使えない状態で別の悪魔を探すのは怖すぎる。
どこかに人語を喋れて、なおかつ友好的な悪魔がいればいいんだが。
いっそ冒険者の宿に依頼でも出してみるか?
人間に紛れて生活してる善良な悪魔を紹介してくださいって──。
「そろそろ晩ご飯の支度するわね」
俺がくだらない冗談を言ったところで、とりあえずこの話は終わりとなった。
「ミナトさん、明日の朝に銀貨3万枚を都合してください」
俺が洗濯物を畳んでいると、ユナが資金の要求をしてきた。
何に使うのか知らんが、銀貨3万枚と言えば結構な金額だぞ。
「エルレトラは良い馬が手に入るんです。とりあえず二頭買います」
とりあえずって……。
エルレトラの牧場に預けてある白髪天狗とハヤウマテイオウはどうするんだ?
「あの二頭はいずれ王都に戻しますよ。新しく買う馬はバハールの草原を抜けてから、ダレンシア王国の貿易都市で売る予定なんです。今の時期ならエルレトラの約三倍の値が付くそうですから、途中で一頭失っても元は取れるんですよ」
ちょっと何言ってるのか良くわからないから、俺はなるべく丁寧に話を聞いた。
どうやらユナは、エルレトラ公国から馬で南下してバハール地方を縦断し、一人で南のダレンシア王国まで行くつもりらしい。
「冬のバハール地方は安全なルートを確保できないと言われているんですけど、私なら抜けられます。テレポーターがあるので昼間は家で休めますし、暗視のイヤリングがあれば真夜中に移動できますから、月が隠れる周期に合わせるとやりたい放題ですよ」
ユナはどこから取り出したのか、プランとルートを書いた紙を俺に見せた。
「………………」
なるほど、単なる思い付きや気まぐれでやろうとしている訳ではなさそうだが。
「流石に一人はな……なにかあったときに困るし……」
「違うんです。一人だから安全なんです。もしも人を増やすなら人数分の暗視のイヤリングが必要ですし、逸れないように気を使うと周囲の異変に気付けません。危険な部族に見つかったとき、一人なら馬を囮にして逃げられますけど、リーダーが認識してから指示を出すまで待っていたら間に合いません」
うーん……。
これがサキさんなら、そこまで言うなら一人で行ってこいの一言で済むんだけど、正直言って半年前まで中学生をしていた女の子の冒険にしてはあまりにもハードルが高過ぎないか?
「俺は責任が持てないから賛成したくないけど……」
この話は夕食の席まで保留になった。
とはいえ、サキさんは男だから別に良いけど、ユナは女の子だから危険な行為はダメなんて理屈は通りそうもない。
話の流れで討伐に出掛けたサキさんとは比べ物にならないほど、しっかり練られたプランもあるから余計だ。
反対する方もそれなりの根拠を出さないと説得力に欠ける……。
さて、どうしたものか。
そんなことで悩んでいると、広間のテーブルにはエミリアの姿があった。
ということは、そろそろティナが食事を運んでくる頃だな。
……話題から逃げる訳ではないのだが、とりあえず運ぶのを手伝いに行こう。