第443話「ミスリル銀の加工」
ナカミチとサーラが工房を出て行った後、俺はウォンさんに壊れた「偽りの指輪」を見て貰っていた。
「こりゃまたグチャグチャにされたの。しかし形だけ整えても本来の機能は戻らんじゃろうな」
「やっぱり難しいか……」
「潰れて判別できんが、装飾に見える模様も全て意味のある魔法文字じゃろうから、せめて元の状態がわからん事には彫り直しもできまい」
この指輪を鑑定したのはエミリアだが、流石に細かい模様までは書き写してないだろう……。
ミスリル銀の加工にもっとも秀でているドワーフがダメだと言うのなら、残念だが諦めるしかなさそうだ。
残念だが…………。
「ダメ元で修正するなら勿論構わんのじゃが、ミスリル銀は加工するだけでも一苦労での。この工房で修正したら、黒……いや、暗い紺色に変わってしまうじゃろうな」
ミスリル銀で作られた偽りの指輪は、元々光沢のある青白い色をしていた。
今はもう滅茶苦茶に潰されて、当時の輝きは失われている。
「一度壊れたら、色味も変わってしまうんだな……」
「そうではない。意外と知られておらんが、ミスリル銀は加工する時の温度で金属の色味が変わるんじゃ。温度が低ければ炭のように黒くなる。わしは見た事ないが、伝説では七色に輝くミスリル銀の鎧があるらしいわい。実在するかは知らんがの」
いまいちピンと来ない話だが、仕上げの焼き入れで色味が変わるそうだ。
この工房で扱える火力だと、どんなに頑張っても暗い紺色の色までしか出せないらしい。
元の青白い輝きを再現するには、全く温度が足りないと言われてしまった。
「里にある巨大炉を使えば、もしかしたら再現できるかもしれんが、それでも保証はできんの」
手詰まりかな、これは……。
ちなみに存在が確認されている色の中では、白色がもっとも高い温度で再現できる色のようで、有名な所だとオルステイン王家が所持している白の聖剣がその一つらしい。
まあ、現在の技術で再現できるのは水色辺りが限界らしいのだが。
それもドワーフの集落にある古い炉を使って、ギリギリ作れるかどうかの瀬戸際だという──。
偽りの指輪は仕方がないという結論に至ったが、金属加工の話が出たついでにアーマード・ドラゴンの殻についても聞いてみた。
「──そんなわけで、40個近い殻があるんだけど」
「ほう、そりゃ凄いの。あれに組み付かれたら相当に難儀じゃからな……」
ウォンさんは過去にアーマード・ドラゴンと戦った事があるのか、感慨深げに言う。
「一番手っ取り早いのは、すぐそこにある工業ギルドに持って行くことじゃ。それだけの量があればまとまった金になる。買い叩かれんように、商人を雇った方が良かろう」
ううむ……。
冒険者の宿では足元を見られる事も無く過ごしてきた俺たちだが、やはり畑違いの取り引きとなれば、相手の善意だけにお任せする訳にもいかないのか。
これは後でみんなと相談して決めよう……。
その後、俺は暫くナカミチの帰りを待っていたが、日が暮れるとこっちが家に帰れなくなるので、ウォンさんにお礼を言って工房を後にした。