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第442話「ナカミチ工房の一幕」

 折角ここまで来たんだから、ウォンさんが帰ってくるまで待たせてもらおう。

 待っている間、俺はドワーフ族について気になっていた事をナカミチに質問する。


「ドワーフの職人が特別凄いっていう風潮はどこから来てるんだ? 人間だって神業的に仕上げてくる職人はいるんだし、そこまで特別かなと思うんだけど」

「そうだなあ……。やっぱり筋力、体力、集中力がズバ抜けてるんだよ。普通の人間がドワーフ族に並ぼうとしたら、極限まで体を鍛えねーと無理だ。でもよ、手先の器用さは人間の職人とそこまで変わらんと思うね」


 器用さは人間と変わらんのか。

 ドワーフと言えば持ち前の器用さにあると思っていたのに、ちょっと意外だな。


「ドワーフが群を抜いて器用に見えるのは、簡単に言っちまえば工法や感性が人間と違うんだ。例えば作りたい物をイメージしたら、どの部分を何ミリ切ったり削ったりすれば良いのかを感覚で理解してる節があるなぁ。一切の迷いがねーっていうの? これが人間だったら達人の領域だろ。だからドワーフに設計図なんてシロモノはいらねーんだ」

「そこまで能力差があるのか。もしもドワーフが本気を出したら、人間の職人は淘汰されるんじゃない?」

「その辺は心配いらねーな。ドワーフは自分で閃いたモノや、手に取って確かめたモノなら問題なく作れるんだが、自分の知識にないモノは言葉で説明しても理解できん。例えばここにある蒸気機関の設計図な、こんな数字まみれの設計図を見せてもダメなんだよ」


 生まれたときから職人としての素質を備えた種族にも、意外な弱点があった。


「それだと古い文献を読んで、失われた技術を再現する仕事も難しいかな?」

「そういうのは人間の仕事になる。良くも悪くもドワーフには職人然とした文化しかない。あいつらが親方をやっても人間の職人は育たねーしな」


 ああ、そうか……。

 そもそも身体能力が違う生き物から、自分の手を見て覚えろと言われても、あまり参考になりそうもない。


「ヒトの先祖が猿だとしたら、ドワーフの先祖は妖精だもんな。エルフ族もそうだけど、意思疎通ができるだけでも有難いと思うべきか」


「だなー。個人的にはドワーフ族の職人がもっと増えてくれれば良いと思う。この世界の産業は手作業で成り立っとるんで、慢性まんせい的に職人の数が足りねーんだ」


 俺とナカミチがドワーフ族の話で盛り上がっていると、ウォンさんが帰ってきた。





「いやはや、まいったわい! ナカミチよ、今し方ギルドの人間から文句を言われたぞい」


 工房に帰ってくるなり、ウォンさんはナカミチに詰め寄った。


「おまえさんが発明したピーラーやら洗濯バサミやらの模造品が、もう既に相当数出回っとるようなんじゃが、粗悪なピーラーで怪我をしたり、一度つまんだら開きっ放しになる洗濯バサミとかの、そういうのが増えとるんで、何とかしてくれと言われたわい」

「なに!? 形だけ真似してるからそうなるんだ。こっちは遊びじゃねーんだから、ガラクタ作ったやつに責任取らせろって文句言ってきてやる!」


 ウォンさんの話を聞いたナカミチは、前掛けを地面に叩き付けて立ち上がった。


「その通りじゃ! ギルドの職員め、最近特に無理難題を吹っ掛けてくる事が多いからの。これ以上ナメられんように焼きを入れてやるわい!」


 今度はウォンさんが、巨大な金づちを持って立ち上がる。


「っていうか、収穫祭からそれほど日は経ってないのに、もう模造品が出回ってるのか? やっぱり著作権がない国はやったもん勝ちになるんだな」

「いやミナト、意外に思うかも知れんが、王都の組合に入っていれば、発案者が権利を独占できる制度は一応あるんだ。でも今回は誰が作ってもいいって事にしたんだよ」

「どうするかの? 人の生活が便利になる思うて制限せんかったのに、わしらが作った物まで欠陥品扱いされたらかなわんぞい」


 勢いで振り上げた金づちを置いて、ウォンさんは地面に座り込んだ。


「その話が本当なら、お店から叩き返された不良品の山を抱えている工房もありそうね」

「そりゃまあ、あるだろーな……」


 サーラの問いに、ナカミチは腕組をして答える。


「その不良品の山、うちで安く引き取れないの? 鉄はともかく、木の部分は燃やすしかないと思うから──」

「お……? な、る、ほ、ど。ピーラーは刃の部分、洗濯バサミはどうせバネ材の欠陥だ。木の部分だけ買い叩いて、金物かなものをこっちで作れば行けるかもしれねーなぁ」

「ギルドから何とかするように頼まれているなら、話も通りやすいはず……」

「おお、組合が仲介してくれるなら、職人同士でいらん角が立たんで済む。早速話を付けに行こう。ああそうだ、ミナトからウォンに聞きたい事があるみたいなんで、ちょっと聞いてやってくれ!」


 ナカミチは防寒着を手に取ると、サーラを連れて工房を飛び出した。

 腕のいい職人といえども、ある程度の商才が無ければ儲からない。

 今日はそんな一面を見た気がする。物を作って終わりって訳にはいかないんだな。


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― 新着の感想 ―
[一言] なんか当たり前にドワーフ=生産職って思い込んでましたが、それが人間と比べてどうか、というのはあまりよその作品には出てこないので面白いですね。
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