第440話「それぞれの用事」
色々話をしていると、すっかり夕食時を逃してしまった。
話の続きは後日ということで、エミリアが帰った後は、俺たちもテレポーターを使って公都エルレトラの宿に戻った。
「とりあえず家の方は何とかなったし、明日には宿を引き払おうと思う」
「馬はどうするんですか?」
「夕食を頼むときに宿のカウンターで聞いたんだが、街の外れに馬を預けられる小さな牧場があるらしい。馬はそこで面倒を見てもらおう。テレポーターは上手く人の目から隠して、いつでもエルレトラと行き来できるようにしておきたい」
宿で食事と風呂を済ませた俺たちは、今後の方針について話し合っている。
ティナの魔力が戻らない以上、馬二頭を王都までテレポートさせることは不可能だ。
馬に乗って王都まで戻るには、相応の日数と危険が付きまとう。
遠回りにはなるが、東ルートで戻る方が安全だというところまでは調べた。
最終的にどうするかを決めるには、もう少し時間が欲しいと考えている。
「明日は特にやることもありませんし、馬は私が何とかします。せっかく公都にいるんですから、もう少し街の様子も見たいですし」
「わかった。テレポーターの隠し場所も含めて、その辺はユナに任せる」
「わしらは家に戻って待機かの?」
「エルレトラでやりたいことが無ければ、そうなるな」
どちらにせよ、今日はもう解散だ!
雪かきで疲れているし、ゆっくり休んで明日に備えよう。
翌日、朝食を済ませてエルレトラの宿を引き払った俺たちは、ユナと馬を残して王都の家に帰ってきた。
「よしよし、あれから雪は積もってないな」
昨日は雪かきをしたそばから雪が降り始めていたが、幸い積もるほどではなかったようだ。
「わしは家の裏手に埋まっておるアーマード・ドラゴンの殻を掘り出してくるわい」
「大丈夫か? 途中から数えてないが、40個近くあったような気がするぞ」
「今ならエミリアがほじくった穴を目印に出来るわい。これから要りようになるかも知れんからの」
それなら殻の回収はサキさんに任せよう。
あれだけアーマード・ドラゴンの解体を嫌がっていたはずなのに、殻だけになると平気なのな……。
そういえば、神殿からお呼びが掛かっていたはずだけど、そっちの方はいいのか?
「まだ手紙の内容を読んでおらんが、先にそちらを済ますかの……」
「それなら途中まで私も行くわ。食材を買って来なきゃいけないし、ダメにした調理器具も買い直さないと」
二人ともお出掛けか。
俺はどうするかな……。
グレンと留守番してても良いんだけど、久しぶりにナカミチの工房まで行ってみるか。
これから先、無尽蔵に精霊石を作ることは出来ないから、早めに伝えておかないと……。
今まで便利に使えていた物が、ある日突然ダメになった報告をしに行く訳だ。
こういう話をしに行くときは気が重い。
これはユナには任せられんな。俺が行こう……。
ああそうだ、ぐちゃぐちゃに変形しているが、偽りの指輪も持って行こう。
ミスリル銀の指輪なので難しいだろうが、せめて形だけでも直せないものか。
グレンに家の留守を任せた俺たちは、強面親父の宿を過ぎた所まで一緒に歩き、そこから別々の道に分かれた。
俺は王都の南東に位置する工業区を目指す。
しかし、ユナから教わった近道を歩いているのだが、人通りの少ない裏道は除雪が行き届いておらず、ドレスの裾をたくし上げて歩く始末。
先日ティナが買ってきたドレスがすっかり気に入ってしまい、今日は髪型にも気合を入れたのだが、こんなことなら素直に大通りを行けば良かった。
結局、ナカミチの工房までに要した時間は、普通に大通りを歩くよりも遅くなった。
カンカンカン──。
「はーい、開いてまーす!」
工房のドアに備え付けられたドアノックを叩くと、サーラの返事が聞こえてくる。
俺は遠慮なくドアを開けて、工房の中に入った。
「おっ、ミナトじゃねーか」
「ニートの娘か。久しぶりじゃの」
作業中の二人、ナカミチとドワーフのウォンさんがこっちを向く。
「もうちと待ってくれぇよ。あと少しで終わるんじゃわい」
作業場の床には、何に使うのかさっぱりわからない鉄の部品が並んでいる。
「王族や貴族様が使う高級馬車の骨組みなんですって」
俺の顔色を察してか、サーラが説明をしてくれた。
「外は冷えたでしょ? 熱いお茶を出しますから、奥の部屋にどうぞ」
「ああ、ありがとう」
雰囲気的には仕上げと確認の工程だな。
作業場に居ると邪魔になりそうだから、ここは奥で待っていよう……。