表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
439/572

第438話「常夏の夢」

「なんだ、エミリアか。魔物の襲撃かと思った……」


 何の前触れもなく現れたエミリアに驚いたヨシアキは、腰が抜けるようにしてソファーに沈んだ。


「ヨシアキさん? ああ、丁度いいところに」

「は? 俺?」

「ティナさんの魔力の件で思い当たる原因があったので、確認しに来たのです。ヨシアキさんにも関係することですから、合わせて聞いてください」


 ほう……。


「ところで、ミナトさんは凄い鎧姿ですね」

「刺激的だろう? さっきまでコレの性能を調べてたんだ」

「確かに刺激的ですね。昔はマラデク周辺の遺跡で良く発掘されたそうですよ。最近では聞かなくなりましたが……」

「ドンピシャだな。まさにそれ。やっぱり、マラデク周辺には何かあんの?」


 いきなり話が脱線したように思えるが、少し気になるのでここは話を聞いておこう。


「あの一帯は、古代の魔術師たちが自然環境を変える実験場にしていたんですよ」

「あ、その話は学院生向けの教本で読みました」

「ええ、学院では基礎知識として教えています。有名な伝承なので魔術師でなくても知っている人は多いですよ」

「うんうん、それで?」

「オルステイン王国の冬の厳しさは、皆さんも骨身に染みているかと思います。しかしそれは、古代エスタモル王国の時代でも同じだったようです──」


 エミリアの話によると、毎年のように雪の下に埋まるマラデク周辺の広大な平地を活用するため、魔法による自然改造の実験が行われたらしい。

 当初は慎重に進められていた実験だが、世代が変わるごとに内容もエスカレートしていき、最終的には常夏とこなつの大地を作る夢へと変貌へんぼうげてしまう。

 勿論、いかに強大な魔力で環境を制御しようとも、大規模な自然改造には無理があり、計画は失敗してしまった。


 その名残りかは不明だが、マラデク周辺の土地では農作物の育ちが良い場所が無数にあり、季節を問わずして様々な作物を収穫できる土地がたくさんあるそうだ。

 ただ、実験の爪痕つめあとも相当なもので、マラデクの少し手前にある広大な湿地帯は、無茶苦茶な自然改造による環境破壊の結果だとも指摘されている……。


「マラデクの町までテレポートしたら、季節外れの野菜が大量に手に入るけど、そのせいなのね」

「そうなんです。ちなみにあの湿地帯ですが、南の海を再現しようとして失敗した名残りとも言われていますね」

「そっか……。ミナトに着てもらった鎧も、当時の魔術師が常夏とこなつの夢を描いて作った作品なのかも知れないな」


 ただの如何わしい鎧だと思っていたが、実は古代のロマンを秘めた魔道具なのかも。





「……話が逸れてしまいましたが、ティナさんの魔力のことです」


 俺たちは雑談をやめて、エミリアに注目する。


「皆さんはこの世界に召喚されたとき、少なからず『大悪魔レストアレム=イン=カーベル』の魔力をその身に宿しているのだと思います」


 それはそうだろうな。

 この世界に召喚された人間は、たとえ元の世界で不治の病に侵されていたとしても、全て正常な状態に回復した上で召喚された。

 召喚された者の中には、姿形がまるっきり別人になってしまった者もいるくらいだ……。


「恐らくですが、ティナさんの人間離れした魔力の量は、大悪魔の魔力……そうですね、わかりやすく言うと、消化不良のまま体内に残ってしまった魔力で、強力な魔法を使っていたんだと思います」

「それって、レスターの残りカスで魔法を使い続けていたって事ですか? 本人の魔力じゃないから回復しない、使い終わったら終了ってことでしょうか?」


 言い方は酷いが、エミリアの説明だとユナの理解は正しいだろう。


「ティナさんに限ったことではありません。例えば、自然治癒の限界を超えるような怪我をしても、何故か勝手に治ったりとか、そういう経験はありませんか?」

「あ、あるわ……」


 ヨシアキが小さく手を上げて応える。


「右手の指を見てくれ。この辺だが……うっすらと跡が残ってるだろ? 裏町のチンピラに斬られて指が皮一枚で繋がっていたときだ。小便をちびりながら指をくっつけようと押さえていたら、五分くらいで繋がるっていう珍事件が起きたんだ。あ……最近は傷の治りが遅く感じるから、もしかして俺の治癒力も……」

「…………」


 ヨシアキの話は今初めて聞いた。

 まあ、俺たちは俺たちで色々と話していない事実もあるからお互い様だが。


「やはりそうですか……ミナトさん、ユナさん、そしてサキさんには、そういう覚えがありませんか?」

「……俺は特に思い付かないな」

「私も特に……いえ、実は体力に自信が無くて、旅行に出た先でもよく寝込んでいたんですけど、こっちの世界に来てからは一度も寝込んだりはしてないですね……」


 これも初めて聞いたぞ。

 ユナが世界を見て回りたいと言っていたのは、こっちに来てから体力が付いたせいかな?


「わしも特にないの。もしかしたらヨシアキと同じ体質やも知れぬが、大事に至る前に魔法で治しおるから、わからんわい」

「それを言ったら俺たち全員わからんな。かすり傷でも回復魔法使ってたし」


 今のところヨシアキの事例しか確認できていないが、これはエミリアの考えが的中したと見ていいのかな?

 もしもそうなら、ティナの魔力は一生戻って来ないって話になるんだけど……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] つまりレスターから搾り取ればいいんですね?
[一言] どうにかなると良いんですけどね……
[一言] そんなところな気はしてました。 他の住人と比べて便利に使いすぎていた感じはありましたからね・・・・。 ただし、しょせん元がひ弱な現代人。 いくらそこそこ慣れてきたとはいえ、ここでいきなり取り…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ