第429話「王都の家に帰ってみた①」
すっかり夜も遅くなってしまったので、俺たちは先に宿の酒場で夕食を頼んでから、ゆっくりと風呂に浸かった。
風呂まで済ませた俺たちは、ツインルームの部屋に集合している。
「エミリアの話では、テレポーターが使えるようになったらしいが……」
「着替えも取りに行きたいですし、私が試してみますね」
床に置いたテレポーターにユナが乗ると、その瞬間、ユナの姿が消えた。
「本当に復活してるな。どれどれ……」
俺がテレポーターに両足を乗せた瞬間、目の前の景色が暗転する。
「真っ暗だな」
「ミナトさんですか? ここは照明がないですから、魔法のランタンを使いますね」
ユナが魔法のランタンを光らせると、ガレージの中が見渡せるようになった。
「やっと帰って来たわね」
後に続いたティナとサキさんも、半月ぶりの我が家に胸を撫でおろしている。
「よし、着替えも必要だが、家の中くらいは確認しておこう」
俺たちは手分けをする事も無く、ゾロゾロと家の中を見て回ることにした。
まずはガレージの中だが、ここは特に変わった様子も無さそうだ。
続いて俺たちは、広間に移動した。
「ここも変わりないの」
「よく見ろ。暖炉に雪が積もってるぞ」
「なんと!?」
煙突のフチに積もっていた雪が、何かの拍子に落ちてきたんだろう。
留守にして熱源が無かったにしても、暖炉の中に積もった雪は衝撃的だ。
「グレン、暖炉に火を起こしてくれ。何もせずに帰る予定だったが、ここは冷えるにも程がある」
「ワカッタゾ」
グレンは暖炉の脇に積んである薪を両手に取って、火を起こす準備に取り掛かった。
いつもならティナが魔法の火を揺らめかせているんだけど、現状ではそうもいかん……。
「湯沸し器とドライヤーが気になりますね」
「そうね。魔法で取り寄せようとしても、出来なかった原因が知りたいわ」
俺たちはティナとユナの後に続いて、風呂場に移動した。
「これはいけませんね」
信じられないことだが、風呂場の床が凍っていた。
ここに来る前、最後に景気よく水を流したのが原因だろう。
戸締りをして換気が悪くなったせいで、翌朝まで残っていた水分が凍ったんだ。
「足元滑るわよ。気を付けて」
俺は滑って転びたくないから、風呂場の入り口で待機している。
「湯沸し器とドライヤーの足が、凍った床と繋がってますよ」
「ほんとね……」
これが魔法で取り寄せ出来なかった原因か。
何ともお粗末というか……。
相手は氷だが、床と足が接着剤で繋がっているようなものだ。
これは盲点だったな。一つ勉強になったわ。
「凍った床も風呂を沸かせば元に戻るだろう。今は諦めて次に行こう」
俺たちは隣の調理場に移動した。
調理場では、特にこれと言って変わった所はない。
しいて挙げれば、魔法で取り寄せるために用意しておいた食材が凍っていることくらい。
「むぅ?」
「どうした?」
「小便に行きたいと思うたが、勝手口のドアが開かんわい」
そんな馬鹿なと思ったが、勝手口のドアはびくともしない。
「まいったな。これは。凍ってるのかな?」
「玄関の方も見て来るわい」
サキさんは広間に戻って玄関の扉を開けようとするが、こちらも開かなかった。
「力任せにやらないでよ」
「壊さないでくださいよ」
「わかっとるわい! ……これは駄目だの」
駄目か。
これは……雪に押されているのかな?
「ガレージの奥のドアならどうですか? あそこはスライド式なので」
「うむ」
ユナの提案で、俺たちはガレージの奥にあるドアを開けに行った。
「開くか?」
「開きそうだわい」
「ちょっと待って、閉めて!」
ティナが止めるよりも早く、サキさんは半分くらいドアを開けてしまった。
「ああー、これは駄目だ。アウト。サキさん閉めろ」
「ん……? お……? こやつめ、今度は閉まらんわい!」
遅かった。
スライドドアを開けた瞬間に見えた、視界を覆い尽くす白い壁。
雪だ──。
ドアを開けることで微妙に雪が侵入し、今度はドアが閉まらなくなった。
「仕方がない、ドアの上まで真っ白ってことは、少なくともその高さまで雪が積もってるってことだ。ここはもういいから、とりあえず二階に行ってみよう」
俺たちは閉まらないドアを諦めて、家の二階に上がってみた。