第426話「会議②」
とりあえずティナの状態は把握できた。次は失った装備品を確認しておこう。
何を置いても、まず筆頭に上がるのは「偽りの指輪」だ。
これがないと「精霊石」の大量生産が難しくなる上、俺たちの切り札でもある「魔法の矢」を作ることが出来ない。
決定的な戦力の要を失ってしまった。
正直な所、冒険者の看板を下ろすかどうかを真剣に考えないといけないレベルだ。
「俺、全部燃エタゾ。ミナトハ、穴ダラケダナ。ユナハ、モット穴ダラケ」
グレンはサラマンダーと格闘して、身に着けている物が全て燃え尽きた。
ショートソードとサキさんが作った服なら、後日同じものを用意できると思うが……。
リピーターボウに関しては、輸入先まで行かないと手に入らないだろうな。
もっとも、専用に作った魔法の矢を使うのが前提だったので、偽りの指輪を失った今、改めて買い直す必要はないか。
「他に失った武器と言えば、俺のカスタムロングボウだな」
「ですね」
消耗品に関しては、家の在庫も含めて、魔法の矢は全て使い切った。
手持ちの精霊石は随分減ったが、家に置いてきた精霊石を合わせればまだ余裕がある。
魔霊石の方は、半端に魔力が残っているものが二つのみ……。
「そういえば、今の状態で魔霊石って作れないのか?」
「作れないわね。精霊石と違って、魔霊石は自分の魔力を水晶石に込めて作るのよ」
「それなら、精霊石は作れるんですか?」
「精霊石はその辺に漂っている精霊力を封じ込めて作るから、精霊力感知に使う魔力が続けば作れるわよ」
偽りの指輪ならともかく、魔術師が精霊石を作る場合、作り終えるまでずっと精霊力感知を働かせる必要があるからな。
帰りの道中でも、要所要所で精霊力感知を使っていたティナの魔力は、すでに限りなくゼロに近い状態だろう……。
「魔法もダメであるが、キャンプ用具も全滅だの。気が重いわい」
「防寒シートと調理道具一式は結構痛かった。ロープとかの基本装備も大体やられたしな」
「魔道具は手荷物と一緒だったので無事でしたね」
「タオルや替えの下着も手荷物に入っていたから助かった」
「けど、着替えの服は全部持っていかれたわよ」
しかも一着だけになった俺の服は血まみれになったから、今は着替えもなくて、下着の上に直接毛皮のコートを着るという変態仕様になっている。
ユナも同じようにやられたけど、脱いだアウターを敷き布団代わりに使っていたおかげで、無傷の服が一枚残っていたんだよな。羨ましい。
ちなみに寝る時は防具を付けていなかったので、俺の胸当てとユナのスケイルアーマーは無事だった。
「ミナトの服だけでも買って来ないといけないわね……」
この恰好では街中を歩きたくないし、ここはティナに任せておこう。
「あとは山林地帯で活動した日数だが、予定より一週間もオーバーしてしまった」
「ここまで日が経つと、改めて正月という気分にもならぬ。わしは外の銭湯で溜まりに溜まったものを捻り出してくるわい!」
サキさんも相当なストレスを溜め込んでいるようだ。
ストレスを溜めるのは良くないぞ。久しぶりに羽を伸ばしてこいよな。
今現在の状況を把握した俺たちは、とりあえず夕方までを自由時間とした。
ティナは俺の服を買いに、サキさんはストレス発散のために、それぞれが街に向かう。
流石に火の悪魔であるグレンは人前に出せないので、宿の部屋で留守番だ。
「外ハ寒イカラ、出タクナイ!」
出たくないなら好都合。好奇心満々の悪魔じゃなくて助かった。
「ユナは行くところないのか?」
「私は特に──。今のうちにエミリアさんと連絡取れませんか? 年末年始のゴタゴタも収まる頃ですし。ここは詳しい説明を避けて、とにかく直接来るように話してください」
そうしよう。
確かこの宿の名前は……。
「冒険者の宿がいいです。あそこなら分かり易いですし、大した説明もいりません」
エミリアから貰ったテレパシーの護符は、話せて三分が限度だと聞いている。
良く考えてから使わないと、肝心な所で効果時間が切れてしまうぞ。
待ち合わせ場所は冒険者の宿、とにかく一度こっちに来てもらえるように話そう。
「じゃあ、使ってみる……」
名刺サイズの分厚い護符には、両面に複雑な魔方陣が描かれている。
手描きで仕上げた手間ひまを考えると、今からこれを破るのは忍びない気持ちになる。
破らなくても魔法の効果が現れる仕組みなら良かったのにな……。