第425話「会議①」
宿の部屋を確保したのも束の間、あまりのんびりしていると浴場が閉じてしまう。
俺たちは急いで風呂の支度をした。
「高めの宿だから、必要な物は揃っているはずだ。着替えと洗濯物だけ持って行こう」
「わしはもう行くからの」
サキさんは我先にと部屋を出て行く。
「グレンは暖炉に火を入れて、部屋の中を暖めておいてくれ」
「ワカッタ!」
サキさんに続いて俺たちも部屋を出た。
洗濯物を宿のクリーニングに出した俺たちは、滑り込みで風呂に間に合った。
遅い時間なので、浴場は俺たち以外に誰もいない。
もう火が落とされているのか、浴槽のお湯は減る一方だ。
それでも俺たちは念入りに全身を洗ってから、湯船に浸かった。
「大変な目に遭いましたけど、とりあえずは落ち着けそうですね」
「だなあ。色々考えないといけないこともあるが、とりあえず今日は考えるのをやめよう」
「それもそうね……」
予定を一週間も押した挙句、サバイバルを強いられる羽目になるとは……。
大半の装備を無くして、魔法も満足に使えなくなり、立て続けに敵から襲われるし、冬の寒さが身に染みるわ、帰る途中ずっと憂鬱だわで本当に大変だった。
それもようやく終わりを告げる。
生き返るとはまさにこの事だな──。
風呂から上がった俺たちは、宿のカウンターで適当な料理を頼んでから部屋に戻った。
「サキさんはまだか?」
「戻ッテ来ナイゾ」
まあいい。そのうち戻ってくるだろう。
俺たちは部屋で料理を待つ間に、風の精霊石で髪を乾かすことにした。
サキさんが部屋に戻ってきたのは、注文した料理が運ばれてきた後の事だ。
「酒場に寄ったら、もう閉まっとったわい。酒だけは買えたがの」
「そんな事だろうと思いました。ちゃんと五人分ありますよ」
五人分と言っても、グレンを含めた五人分ではない。サキさんが二人分を食うのだ。
グレンは調味料を使った料理が苦手なので、適当に野菜や果物をかじっている。
「あ……」
「どうしたの?」
「部屋が広いと思って一つしか取らなかったけど、よく考えたらツインルームだったわ」
なんでわざわざ二人部屋を取って四人で泊まってるんだ……。
失敗だった。明日以降も泊まる事になりそうだから、もう一部屋借りないとな。
「今晩はベッドを繋げて四人で寝ればいいわよ」
そうだな。
ようやく宿のベッドで眠れるのに、誰かが床で寝るような事だけは避けたい。
──何時寝たのかも記憶にないまま、気が付くと朝だった。
やはり相当疲れが溜まっていたのだろう。
いつもは一番早起きのティナでさえ、起きるのが少し遅めだった。
「まずは朝の支度を整えて……下の酒場で朝食かな」
「一人部屋を追加で押さえておきませんか?」
「ああ、忘れる所だった」
俺たちは身支度を整えてから、一階の酒場で軽めの朝食を済ませた。
食事を済ませて再び部屋に戻ってきた俺たちは、今後の事について話し合った。
「今年の抱負はまた次の機会にしよう。まずは現状認識をまとめておきたい」
部屋のテーブルを囲み、ちょっとした会議の様相だ。
みんなの視線が集まったところで、俺は話を続ける。
「まずはティナの魔法が使えなくなった件について。現状ではどんな感じなんだ?」
「魔法自体は使えるのよ。魔霊石でも精霊石でも、魔法の源になる力があれば……」
「魔力が回復しないだけですか? 普段はどうやって回復させているんですか?」
「今の問題は魔力が回復しないことよ。普段なら時間が経てば自然に魔力が回復するわ。特に眠っている時は回復が早いわね」
「しかし、もう回復せんのであろう?」
「しないわね……」
「何というか、壊れたバッテリーみたいな症状だな……」
今ならまだ精霊石のストックに余裕があるから、何もかも駄目という訳ではないが。
ただ、精霊石で魔法を使う時は、魔道具の魔力向上効果や、魔法の杖による威力向上効果が一切乗らないんだよな。
だから俺が大怪我をしたとき、生命の精霊石では間に合わなくて、虎の子の魔霊石を一つ消費した訳だし。
まあ、魔力と精霊力は異なる存在だから、この辺は仕方がないんだけど……。