第418話「軍の野営地」
野営地の中は兵隊のほかに、冒険者と思われる一団も確認できる。
ぱっと見ただけでも、兵隊含めて三十名を超える大所帯だ。
見張りの兵士は随分と弛んでいたが、この戦力で安心しきっての振る舞いだったのだろう……。
「姉ちゃんも冒険者けえ? 随分と物騒なもん持ってんなあ!」
良い具合に酒の入った男が、馴れ馴れしく絡んできた。
こういうのが苦手だから、普段はサキさんに丸投げしているんだけど……。
「こんなところで暴れようってんだ、そら物騒にもなるわな」
俺は背中に背負っているミスリル銀の大剣を、鞘ごと片手で振り抜いてから、肩に掛け直した。
「全く、全くだよ、ハハハ……」
物騒だと指をさした大剣が、軽々と扱われているのを見て、男は言葉の勢いを失う。
ミスリル銀の大剣は非常に軽い上、重量変化の護符まで取り付けている。
だが、この場でその事実を知っているのは、今のところ俺だけだ。
どうしようもない怪力女だと思われてしまっただろうが、今はその方が都合がいい。
「食材と物資を補給しに来たんだけど、誰に言えば良いんだい?」
俺は先日一緒に冒険をしたシャリィの態度を真似ながら、絡んできた男に質問する。
ここで背中を丸めて黙ると、構いたがりの連中に捕まってしまうからな。
何も告げずに勢いで来た手前、ここはさっさと用件を済ませて戻らないと……。
「メシとブツは入り口の横ンところだ。樽の前でイビキかいてる髭オヤジがいるから、蹴り飛ばして起こしな」
俺の質問には、最初に絡んできた男ではなく、焚き火の前で鎧を直している別の冒険者が答えてくれた。
軍の野営地は、元々街道を作るための拠点として整備された土地だ。
不幸にもこの辺りは魔物の勢力が衰えず、現在では街道工事の代わりに、地道な魔物討伐が行われている。
俺たちはその身をもって思い知ったが、やはり前人未到のエリアが多いこともあって、普段の冒険では出会わないような魔物が、まだまだひしめいている事だろう。
「売ってる物を見せてくれない?」
大きな荷台と樽が並んでいる所に、イビキはかいていないが髭のオヤジが座っていたので声を掛けた。
「好きに見てくれ。この荷台と樽の酒は全部ウチの商品さ」
髭のオヤジは立ち上がると、荷台に掛けてあるシートを捲ってくれた。
何やら雰囲気からして、行商人というよりは、町の商人といった感じが強い。
「ロングボウに使える矢と……」
武器に関しては、標準的な剣と矢があるくらい。
あとは丈夫な革ひもや弓の弦、大小のクサビなど、補修に使うような小物ばかりだ。
とりあえず、矢を20本ほど買っていこうか……。
「あとは食料」
燻製にした肉の塩漬け……いわゆるハムだが、それを適当に何個か……。
干し肉と一緒に干し野菜も買っていこう。水で戻せる野菜は重量も少なくて便利だ。
あとはチーズを少し。
日持ちさせる用のカチコチのパンもあるが、どうしようか?
試しに買っていくかな。
「テントとかは置いてないの?」
「あんな嵩張る物は扱っていない。雨漏れや破れを直すシートならあるがね」
流石にないか。
「じゃあこの水袋を買うから、適当に酒でも詰めてくれる?」
「果実酒と蒸留酒があるけど、どっちにする?」
サキさんの土産になるかと思って注文したが、正直俺が飲むんじゃないからわからん。
まあいいや。どうせ1つじゃ足りないだろうから両方貰おう。
しかし、食料を四人分買うと結構な量になったな。
「そこの背負い袋も一つ貰う」
「いいとも。これで全部? それなら──しめて銀貨750枚」
「ほい。じゃあ、金貨15枚で」
結構割高だが、数日掛けて兵士に護衛されながら運んでくる事を思えば、採算が取れているのか微妙なところだ。
いや、採算は取れて無さそうだなあ……。
公都エルレトラの商人たちで、義務的に持ち回りをしている感がハンパなく出ているんだよな。
「……………………」
そして、買い込んだ荷物が思いのほか重かったので、髭のオヤジに馬の所まで運んでもらったのは言うまでもない……。