第409話「精霊力」
俺は自分の前方180度を強く意識して、精霊力感知を行う。
「サキさんの手前、地面に並んで二体……」
「うむ」
「俺から斜め右、木の奥に一体……」
「ほう……」
相変わらず姿を消しているが、羽音で位置がバレるのを警戒してか、全て地面に降りている様子だ。
真後ろを任せているティナの様子も気になるが、まずは前方の三体をどうにかしよう。
「…………」
どのような攻撃が有効か、ポケットから取り出す精霊石の種類を決めあぐねていると、サキさんの手前にいる一体から風の精霊力が飛んできた。
「毛皮が……」
幸い下にも上着を着込んでいたので助かったが、厚手の毛皮がパックリと裂けてしまった。
今飛んできたのは風の精霊力だ──。
以前、風の精霊に襲われた時も同じ攻撃を受けたが、かまいたちのような現象で切り裂く能力があるのか?
「え!?」
かまいたちの次は、突如地面から生えてきた植物の蔓が、俺の両足に絡み付いて動けなくなった。
本来は魔術師の領分ではない種別だが、俺とティナなら力の源を理解できる。
これは植物の精霊力に違いない。
もっとも、植物の精霊力で実体のある植物を出せるとは思わなかったが……。
しかし、攻撃の一つ一つは致命傷にならないが、姿を消していることも手伝って、非常にやりづらい相手だ……。
「ミナトよ、見えんのだけでもどうにかせい!」
「そうだな……」
サキさんの無茶振りには困ってしまうが、至極まっとうな要求でもある。
冷静に考えると、奴らが姿を消しているカラクリは、光の精霊力によるものだ。
これは俺たちが使う幻影の魔法と同じ原理で間違いないと思う。
光の精霊力で姿を消しているのなら、闇の精霊力をぶつけてやれば対消滅するはずだ。
「手前の二体は引っ掴んででも始末しろよ」
俺は闇の精霊石に持ち替えて、小人がいるであろう場所に闇の球体をぶつけてやった。
姿の見えない小人に勢いよくぶつかった闇の球体は、その場でボワンとはじけ飛ぶ。
それと同時に、一瞬だけ小人の姿が露わになった。
「捕らえたわい!」
目にも止まらぬ速さで駆け出したサキさんは、小人の一体を魔剣で切り裂き、もう片方の小人を、空いた左手でわし掴みにした。
「生かしておく余裕がない!」
俺が叫ぶと、サキさんは魔剣から手を放して、鎧の胸部にマウントしてあるダガーを抜く。
「フンッ!」
小人がサキさんの手から逃れるよりも早く、サキさんのダガーは小人の首を跳ね飛ばした。
「今度はなんだ!?」
サキさんが一瞬で二体を片付けたので、とりあえずは胸を撫でおろしたのも束の間。
俺の足に絡み付いたままの植物の蔓が激しく燃え始める。
「そんなもの、引き千切ってやるわい!」
俺は空いている方の手でサキさんを制すと、水の精霊石から圧縮した水を制御して、燃えさかる植物の蔓を消火した。
重ね着と分厚い防寒ブーツのおかげで、多少熱い思いをする程度で済んだ。
「……ようやくわかった。俺を狙っているんだな?」
言葉が通じる保証はないが、俺は木の影に隠れている最後の一体に向けて言い放つ。
俺の言葉に答えたつもりなのか、返事の代わりに風の精霊力が襲ってきた。
「同じ魔法を二度も食らうか!」
俺は右腕に装備しているヒーターシールドで受け止めようとしたが、小人が放った風の精霊力は軌道を変えて背後に回り込み、俺の背中を切り裂いた。