第407話「不気味な音」
不気味な音から逃げるようにして、一時間ほど先に進んだだろうか?
案の定、辺りは真っ暗になってしまった。
この辺りは手前の山で夕日が隠れてしまうから、日没の時間が少し早いのだ。
「魔法のランタンだけじゃ心許ないな。解放の駒も使おう」
昼間の一件で、俺が作った精霊石に対する信頼は揺らいでしまったが、正しい使い方をしているうちは安全だと信じたい。
解放の駒は、例えるなら安全性の高いカセットコンロのようなもの。
対して魔法の矢と魔法の弾は、満タンのガスボンベに穴を開けるような行為に等しい。
冷静に考えると、今まで随分危険な使い方をしてきたものだ……。
「普通に使うだけなら大丈夫……」
俺は自分にも言い聞かせるように声を出しながら、解放の駒で明かりを灯す。
しかし、不気味な音──。
それなりに移動したつもりだが、立ち止まって暫く経つと、また同じ音が聞こえ始めた。
「もうここで良いわい。うるさいだけであろう?」
これ以上進んでも、恐らく音は鳴りやまない。
サキさんはそう結論付けたのか、馬から降りて枯れ枝を拾い始めた。
こうなっては仕方がない。
俺も馬から降りて、キャンプの準備を始めることにした。
キャンプの作業分担だが、食事はティナが担当し、寝床の地下室掘りは俺が担当する。
現在の状況では調理と穴掘りのウエイトが重いので、ユナとサキさんの二人はそれ以外の作業を全てこなしている。
ちなみにグレンは火の係りだ。今日は風呂を作れそうにないが、ティナの魔力が戻らない現状では、グレンの発熱能力はかなり役に立つ。
「…………」
音がうるさくて不快な中、俺は土の精霊石を使って、今日も寝床の地下室を掘っている。
が、なかなか魔法に集中できない……。
蚊の羽音を低くしたような音は、いよいよ俺にまとわりついてきた。
「痛っ!」
俺の手の甲が、何かで切り裂かれたのではないかと言うくらいの、激しい痛みを感じた。
「どうしたんですか?」
「何かで切ったかも。かなり痛いし血が……」
俺は咄嗟に手の甲を強く押さえたが、それでも血の雫は指先を伝わり、ボタボタと地面にこぼれ落ちる。
「やはり何か居るようだの」
「これは絶対に幽霊じゃない……!」
何者かの攻撃であると確信した俺は、精霊力感知で見えない敵の居所を探す。
「そこか!?」
俺は血だらけの手を振り抜いて、怪しいと思われる場所に自分の血を浴びせてやった。
「斬ります!」
空中に留まる不自然な血しぶきを見たユナは、黒曜石の魔剣で空間を斬った。