第403話「失敗は繰り返すもの」
ゴブリンの集団を壊滅させた俺たちは、ただひたすら西へと進む。
謹賀新年、元旦の一発目にしてはハードなスケジュールだが、寝ても覚めてもティナの魔力が回復しないとなれば、もはや自力で戻る以外に方法がないのである……。
「今日はこのくらいにしませんか? 馬が持たないです」
俺はユナの提案を受け入れて、キャンプの出来そうな場所を探すことにした。
「そういえば犬の化け物、出てこんかったなあ」
「前に驚かせたから、もうこの辺りにはいないんじゃないかしら?」
「オス同士で交尾する話には興味があったんだがの?」
「そんな話あったっけ?」
サキさんは良くわからない事を口走りながら、倒木を足で蹴散らす。
俺たちがいる場所は、見渡す限り足場が悪い。
こぶし大の石がそこら中に転がっていて、石の隙間からは硬い枝を持つ植物が無数に生えている。
このままでは地べたに座ることも難しいくらいだ。
「もう少し進めば、まともな地形になるかもしれんが……」
とはいえ、これ以上移動に時間を割いていたら、キャンプの設営が真夜中になるだろう。
俺は土の魔法を駆使して、食事の支度が終わるまで地面を均すハメになった。
昨日と同じように、寝床は地下に作り、風呂はそこから少し離れた低い場所に作った。
まあ、やってることは地面に穴を掘るだけなんだが、風呂はともかく、一度に四人が寝られる広さの地下室を作るのは、想像よりも遥かに疲れる。
何気に床の水平を取るのが一番難しいんだよな。
「流石に今晩はキノコじゃないな……と思ったら入ってる」
「ちゃんと料理に合いそうなキノコを使ってるわよ」
今日の夕食はキノコ増し増しのパエリア風ごはんだ。
なにせ鍋が一つしかない状態だから、米とおかずを同時に作る方法はこれしかない。
ハンデがあってもティナの料理は完璧なのだが、普段は付いてくるもう一品がないのは寂しいところ。
「グレン、風呂の水を沸かしてくれ」
「仕方ナイナ……」
冷たいものが苦手なグレンには悪いのだが、状況が状況なだけにあと数回は我慢してもらおう。
「わしファーストだわい!」
いつものことだが、サキさんが一番風呂を掻っ攫った。
まあいい、俺たちは後でゆっくり入ろう。
後が閊えていなければ、三人で好きなだけ入れるからな。
風呂を済ませた俺たちは、髪が乾く間、焚き火の揺らめきを眺めながら雑談をしている。
「せっかくの元旦だから、新しい一年に向けて、何か目標でも立ててみるか」
「それが良い。では、まずはわしから……」
こういう時にサキさんが先陣を切るのも、もはや恒例だろう。
俺たちは思い思いにリラックスできる座り方で、サキさんの抱負に耳を傾けた。
「結論から言うが、ガチの男同士は色々と生々しくて耐えられなんだわい」
「ごふッ!」
お茶を飲みながら聞き流していたユナが盛大に噴いた。
「ブレたのか?」
「積年の思いを拗らせて、もはやホモなら何でも良い感じになっておったが、わしの原点は美少年受けだからの!」
「だめだこいつ……」
サキさんの趣味は良くわからないが、何かろくでもない事を言っているのは理解できた。
「現実の美少年と致すのはハードルが高過ぎるゆえ、まずは身近な人物から、シオン×ハルとか、ヨシアキ×ウォルツなどで十分な想像を……」
「ハル受けなの?」
「うむ!」
サキさんの熱のこもった演説は小一時間続いたが、ユナの「それって現実世界で繰り返した失敗と同じ流れですよね?」の一言で幕を下ろした。
「もういいや。今年の目標はそれぞれの胸の内に秘めておく事にしよう」
「そうね。もう寝ましょう」
夜が明けると、昨日にも増して気温の下がった朝を迎えた。
昨晩の風呂の残り湯からは、沸かしたてのような湯気が立ち込めている。
今日こそは距離を稼ぎたいところだが、あいにく朝から俺の都合が最悪だった。
「こればっかりはすまんとしか言いようがない」
「テレポートで帰れなくてごめんね……」
せめて魔法で宙に浮くことが出来れば楽なのだが、今は無理を推しても馬に跨って進むしかない。
本当に最悪だ。
公都エルレトラに戻るまで、ずっとこんな具合が続くのかと思うと、ますます気が滅入ってくる。