第402話「壊滅」
戦闘開始の合図とともに、まずはサキさんが突撃を仕掛けた。
「せいッ!」
大きく踏み込んでの一突き。
魔槍グレアフォルツは、一度にゴブリン二体を串刺しにする。
「うりゃあぁーッ!!」
ゴブリンを串刺しにした状態から、サキさんは槍を大きく振りかぶった。
槍を振り回す遠心力で、串刺しのゴブリンが宙に投げ捨てられる。
後ろが閊えて逃げ場を失ったゴブリンが、破れかぶれで剣を振り回すも、腰の引けた攻撃は意に介さず。
仕舞いには懐に飛び込んできたゴブリンを殴り飛ばして、地面に転がったゴブリンの頭を靴底で粉砕した。
もう、どっちが化け物なのか良くわからない構図だ。
集団の中央にいたゴブリンの群れは、グレンが放った一撃でほぼ壊滅している。
火の玉で炭化したゴブリンは、少なくともニ十体に迫るだろう。
できればもう一発撃ち込んでおきたい所だが、既にゴブリンの集団は四散を始めていた。
「正面はサキさんに任せる! グレンは左翼を塞げ! 俺は右に流れた奴を叩く!」
俺が命令すると、グレンも剣を抜いてゴブリンの前に立ちはだかった。
グレンの身長ではゴブリンの体格に負けてしまうが、ゴブリンの筋力と装備では、悪魔の体に致命傷を与えることはできない。
集団で羽交い絞めにされない限りは大丈夫だ。
グレンは燕のようにゴブリンたちの間隙を縫いながら、ゴブリンの足や首元を切り裂いて回る。
一撃で首を跳ねる事はできなくとも、淡々と致命傷を与える姿はさすが悪魔と感心するところだ。
俺とサキさんとグレン、前衛の三人が正面と左右を塞ぎ、後衛のユナは森の奥へ逃げようとするゴブリンを弓で狙う。
この三人でゴブリンの集団に対峙すれば、必然的に狙われるのは俺になる……。
ミスリル銀の大剣を構えた俺の前には、既に四体のゴブリンが機を窺っていた。
もしも四体が同時に走り抜ければ、そのうちの三体は確実に逃げ切れると思うのだが、不思議と逃げる素振りをみせない。
四対一なら自分たちが有利という思考が先走り、この場から逃げるという当初の目的を忘れているんだ……。
「はあっ!」
俺はサキさんの戦い方をイメージしながら、大きく踏み込んでゴブリンの一団を薙いだ。
肉を切り裂く不快な抵抗に打ち勝つと、目の前にいるゴブリン二体が地面に崩れる。
「たあーっ!」
振り抜いた大剣を上段に構えて、狼狽するゴブリンの頭部に叩きつける。
サキさんみたいに一刀両断とはいかないが、それでもゴブリンの頭は真っ二つに引き裂かれた。
ようやく我に返り、踵を返して逃げだす一体。
俺は冷静に雷の精霊石を取り出して、逃げるゴブリンの背中を魔法の電撃で貫いた。
戦闘を開始してから、十分と経たずにゴブリンの集団は壊滅した。
想像していたよりも相手の数が多かったので、やむを得ず数体は逃がしてしまったが、それでも四十体は討伐している。
「最初にボス格のゴブリンを一掃したのが効いたな」
「うむ」
「すみません。今ので矢を使い切りました」
逃したゴブリンの大半は、ユナの弾切れが原因で後方の森に逃げた。
しかし、手持ちの矢は11本しかなかったから、こればかりは仕方がない話だ。
逃げたゴブリンが復讐に来るとも限らんが、あれだけ圧倒しておけばその気も起きんだろう……。
「サキさんは怪我してない?」
「鎧で止まったわい」
じゃあ、先を急ごう。
いまさらゴブリン相手に足止めを食らうわけにはいかんからな。