第401話「先制攻撃」
俺とサキさんが馬を降りたので、空いた白髪天狗はティナが引き継いだ。
「もしもの時のために、サーベルはティナが持っておいてくれ」
「ミナトはいいの?」
「今回はミスリル銀の大剣があるから大丈夫」
満足に魔法が使えない状況では、武器の一つも持たせておきたい。
ここでティナのカスタムロングボウを取り寄せる手もあるが、戦闘が終わると邪魔になるから、現状のまま凌ぎたいところだ。
それに、今は貴重な魔霊石を温存しないといけない……。
「ティナとユナは、小川を渡ってから進攻してくれ」
「わかったわ」
「魔法の矢には雷の精霊力を込めておくから、俺とサキさんを無視するゴブリンがいたら、小川に入ったところで仕留めてくれ」
「わかりました。それ以外では普通の矢で援護しますね」
「頼む」
ティナとユナは、小川の浅い所を探しながら、向こう岸まで渡る。
サキさんは魔槍グレアフォルツとカイトシールドを構え、俺はミスリル銀の大剣を取り出した。
自分の背丈よりも大きな剣を構えることに違和感を覚えるが、重量変化の護符の力で重さは全く感じない。
大剣を振り回している限り、ゴブリンが扱う小型の武器では攻撃が届かないだろう。
隣にはサキさん、上空にはグレンもいる。
正直、負ける要素が全くない。
問題が起こるとすれば、相手の数がこちらの想像を上回ったときだ。
「やれ、もう少し近付いてみるかの?」
ゴブリンの集団の中には、早い段階から俺たちの存在に気付いた者もいるようだが、特に騒ぎ立てる気配はない。
こちらは数も少ないから、完全にナメられている気がするなあ……。
ゴブリンの集団は、森と森の境目、少し開けた場所に集まっている。
彼らは独自の言語を持ち、集団の中央付近からは不快な怒声が聞こえてくる。
俺とサキさんが距離を詰めているにも関わらず、怒声はさらに激しさを増して、遂にはゴブリン同士が争いを始めてしまった。
「グレン! 奴らが一番密集している所に、空からリピーターボウを一発お見舞いしてやれ!」
「マカセロ!」
ゴブリンの生態には詳しくないが、喧嘩の雰囲気からすると、個々が集まってある程度の集団になったので、リーダーを決めようとして争いになったと見える。
今は争っている場合ではないと思うのだが、ゴブリンの知能ではこれが限界だ。
取っ組み合いを始めた集団の真上に到達したグレンは、何のためらいもなくリピーターボウの引き金を引く。
無作為に狙われたゴブリンの頭上に落ちる魔法の弾、ボンと空気の弾ける音がして、直径3メートル程度の火の玉が現れた。
「散り散りになるぞ! 各個撃破しろ!!」
ゴブリンたちの阿鼻叫喚に掻き消されるよりも早く、俺は戦闘開始の合図を送った。