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第39話「うさぎさん」

 家に帰った俺たち三人は、急いで夕食の準備をしていた。今日はユナのリクエストでロールキャベツを作っている。


「ロールキャベツだけだとさびしいわね」


 ティナは中華鍋のような形の鉄鍋で五人分の焼き飯を作り、ユナは余ったキャベツとコーンでサラダを作っていた。俺はティナが用意した調味料の入った鉄のボウルを意味もわからず混ぜている。

 毎回こんな感じなので調理場に立っても肩身が狭い。


 俺たちが調理場で作業をしているとサキさんも帰って来た。サキさんが馬の世話を終えた頃を見計らって料理をテーブルに運ぶ感じだ。

 いつ来たのか全くわからないが、エミリアもテーブルに着いてセルフ放置プレイを楽しんでいた。一言声を掛けてくれれば良いのだが、この女も結構変わっている。



「キャベツがトロトロになってておいしいですね」

「これだけでも飯にできるな」


 ロールキャベツは鍋に入れたままテーブルに置かれていて、各自好きなだけ掬って取る感じだ。俺とサキさんは箸でかぶり付きという具合だが、他の三人はナイフとフォークで切りながら食っている。


「箸でかぶり付くと汁が逃げんから美味いのに」

「だのう」


 パラパラの焼き飯を食う時だけスプーンかフォークに持ち替えないといけないのが多少面倒に思うが仕方ない。

 ユナのリクエストだったはずだが、気が付くと俺とサキさんで大半を食っていた。






 食後の甘いハーブティーでくつろいでいると、エミリアが小箱を取り出してきた。


「混ぜるのに使えそうな魔道具があったんですよ」


 エミリアはマジックペンのような物を小箱から取り出して俺たちに見せた。これを握って念じると良いらしい。


「見ていてくださいね……」


 エミリアが魔道具を握って念じると、ブーンという音と共に魔道具が振動を始めた。特に何かが回転しているようには見えないが……。


「エミリアてめえ、これ電気あんまじゃねえか。俺に使わす気か?」

「す、すみません! 結構激しく振動するので混ざるかもしれないと思って……探したけど回転する魔道具なんて無かったんです」


 余程自分でかき回すのが嫌だったのか、誰にも使い道がわからない振動するだけの魔道具を持ってきたようだ。ダメ元にも限度があるだろう。


「それ、わしが欲しい」

「お前が言うと嫌な予感しかしないが、もう好きにしろよ」






 俺たち四人がそれぞれの部屋に戻る途中で、俺はサキさんの部屋に寄っていた。例の物を受け取るためだ。


「これがバニースーツか……」

「わしが言うのも何だが犯罪臭しかせぬ」


 袋から出して広げたバニースーツはかなり小さい。身長145センチ程度のサイズだとこんなものか。俺とサキさんはあまりの犯罪臭に言葉を失った。


「これ買うとき何か言われた?」

「いや、何も言われなんだ。顔色変えずに淡々と受け付けておったわ」

「紳士の店は伊達ではないな……」


 俺はサキさんにお礼を言って、自分の部屋に戻った。今日は早めに寝てしまおう。






 翌朝目が覚めた俺とユナは、いつものように朝の支度を済ませていた。今日の調理場はもの凄く甘い香りがしている。これから何が出てくるのか楽しみだ。

 ユナが朝食の手伝いを始めたので、俺はサキさんを叩き起こしに行った。


 俺とサキさんが広間に下りると、エミリアもテーブルに着いて朝のセルフ放置プレイを楽しんでいる。毎日かわいそうなので、朝食ができるまで話しをすることにした。


「エミリアのテレポートって他の人も運べるのか?」

「人までは無理です。小動物くらいなら一緒に飛べますけど……儀式魔法なら複数人で飛べますよ。学院では必要なときに行えるだけの準備はあります」

「へえ。儀式って言えば召喚魔法とはまた別なのか?」

「全く違いますよ。あっちは別世界に繋げる魔法ですし」


 テレポートは基本的に本人だけが移動できるみたいだ。

 儀式魔法になるとその規模に応じて対象を拡大できるようになるのだが、一方通行なので、どのみち帰りは自力になるらしい。


 ふと思ったが、こいつが放置プレイを楽しんでいるときにアレコレ聞けば、優秀なエミリアライブラリとして機能するんじゃないだろうか?

 エミリアは何かを説明しているときは楽しそうに話すし、こういう付き合いも悪くないだろう。この世界はまだまだ知らないことだらけだ。個人的には助かる。



「未だに生命と精神の精霊力の使い方がわからんのだが、どうやって使うんだ?」

「生命力は怪我や病気を癒せますし、精神力は心や感情に働きかけることができます」

「怪我なんてしたことがないから、今までわからなかった」


 良いことを聞いた。冒険中常に心の隅で心配していた傷の治療ができるとは。俺は神様の力でも使って癒すのだと思っていた。そういう奇跡もあるらしいが、過去に散々争いの火種になったせいで、歴史の表舞台には出てこなくなったようだ。


「使い方は魔法の中でも特に難しいです。傷を癒すには肉体の仕組みを知ってなければ無理ですし、目に見えない心や感情の仕組みはさらに難しいです」

「魔力が強くても怪我一つ治せん魔術師もいるのか」

「はい。魔法は扱う現象への知識や理解があって初めてイメージを形にできるんです。なので本ばかり読んだり、引き籠って研究に明け暮れる魔術師も多いんですよ」



 必ず決まった効果が表れる便利な呪文というものは無いのか……そういえば俺も魔法をイメージするだけで呪文なんて使ってないな。

 仮に魔術師二人が同じ火の玉を飛ばしても、イメージの違いから全く同じ火の玉は出ないらしい。ただし師弟関係であれば、イメージが共通なので同じ魔法になるようだ。


 鍵開けやテレポートのように結果が同じになる魔法も、発動のイメージは千差万別なんだそうだ。

 知識の積み重ねでイメージしやすい教科書的な物はあるらしいが、高度な魔法になるほど独自のイメージで工夫を凝らすという話しを聞いた。


 面白い。知識と閃きと想像力が魔力の優劣をひっくり返す可能性もある。






 俺とエミリアが魔法の話しをしていると、ティナとユナが朝食を運んで来てくれた。

 今日の朝食はリンゴのタルトだ。甘い匂いの犯人はこいつだったか。隣には塩気のあるチーズとクルトンをまぶした小さな野菜サラダと熱めのハーブティーが並んでいる。


「デザートじゃなくて朝食なんですか? 家でも食べたことがないです」

「俺はコンビニで菓子パン買ってきたりもしてたから普通だな。こんなに美味い出来たてのは食ったことがないけど」

「下の方もサクサクで美味しいですね」


 これは切り札に取っておきたかったな。しかし良く色々と作れるものだ。



 エミリアはタルトを二切れも食って満足気にその場から消えた。やはりテレポートは便利だな。俺たちでは直接魔力を扱えないので無理だが、いつかは使ってみたい魔法の一つだ。


「今日の予定だが、午前中は自由に過ごそう。昼からは冒険者の宿へ行くぞ。そろそろ資金が尽きてきたので冒険に出よう」

「また大暴れしてやるわい。わしは時間まで戦闘訓練する」

「私もサキさんと一緒に弓の練習をしておきます」

「私は食材の整理をするわね。腐りそうな物は明日の朝までに片付けましょう」

「俺は考えないといけないことがあるので、午前中は休んでおく」


 朝の会議が終わると、サキさんとユナは家の裏手へ、ティナは食材の整理を始めた。






 サキさんとユナが家を出てから、俺はティナに部屋まで来てほしいと伝えて例の物を用意している。何とも待ち遠しい時間だ。

 それほど待たずに部屋までやってきたティナに、俺はバニースーツを差し出した。


「まあ……良くできてるわね」

「早速着てほしい」

「……あっち向いててくれる?」


 着替えるところは恥ずかしいから見ないでと言われた俺は、ベッドの上で正座待機していた。着替える音が耳の後ろで聞こえてくるのは妙にドキドキする。


「いいわよ」

「おおー」


 着替え終わったティナのバニー姿は犯罪ギリギリでアウトだった。銀髪と白い肌にエナメルレザーのような黒いスーツがとにかく映える。

 低い背丈と細い肩、小さなおっぱいから頼りない胴体の下にある大きなお尻が幼女体型に何とも言えないエロさを加えている。尻から脚のラインがとにかくエロい。



「不思議なくらいにぴったりね」

「うん。すげえと思う」

「スーツがお尻の形になってるから、自然に食い込んでいくのが気になるわね……」

「そうなのか?」

「こんなの初めて着たけど、もの凄くいやらしいわね」


 ティナは鏡の方を向いて自分の姿を細かくチェックしている。

 食い込む感じが気になるのか、時折お尻の側に指を入れて直すたびにスーツの尻尾が揺れて良い感じだ。

 前屈みで鏡を見ながら、うさぎさんのポーズで照れ笑いをしているようだが、鏡に映る幼顔とは対照的に、降ろした後ろ髪の隙間から見える白い背中と、前屈みで突き出している股間に食い込む黒いスーツや網タイツを見ていると、俺も我慢の限界を迎えた。


 もし俺が男だったら確実に襲い掛かる自信がある。


「これは他の人には見せられないわね」

「俺も他人には見せたくない」



 ティナはベッドの端に腰掛けて、自分の太ももをぽんぽんと叩いた。俺は気恥ずかしくなってしまったが、ティナの太ももに頭を置く。


 ……ティナのおなかの方を向いて。


「え? そっち向きなの?」

「うん!」


 俺はティナに頭を撫でてもらいながら、網タイツの脚に頬ずりしたり、バニー姿のティナのおなかに顔を押し当てたりして、どうしょうもないくらい甘えまくっていた。



 望んで元の世界を捨てた俺だが、こっちの世界は知らんことだらけだ。今やっていられるのは、正直言って仲間の能力や運によるところが大きい。

 成り行きでリーダーをやってはいても、自分の判断ミスで誰かを失う恐怖感はいつも付きまとっている。そして、いつかはそれぞれ別の道を進んで行くこともあるだろう。


 俺たちのパーティーみたいに人間関係で一度も衝突しないタイプの結束は、何か一つでも欠けてしまうとそのまま崩壊してしまう可能性が高い。


 こうしてティナに甘えているときだけは、何故かそういった不安を忘れられる。俺はやっとマザコンの正体を突き止めて、胸の内を淡々とティナに語った。



「心配しないで……私がいつでも守ってあげるね……」


 俺の話を静かに聞いていたティナは、俺を胸に抱き上げて答えた。

 今までのことを思い返すと、肝心な時にいつも俺を守ってくれたのはティナだったような気がする……。

 服選びにいつまでも迷ったり、人一倍体を洗うのが遅いティナを仕方ないなと見守っていたつもりだったが、本当に守られていたのは俺の方だったんだな。


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