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第394話「決意」

 魔法の水と得体のしれない液体は、地竜の口元付近でぶつかり合った。

 発射したのはほぼ同時でも、打ち出す速度と威力は俺の方が桁違いに強い。

 命が掛かっている分、気合の入り方が違うということだ。

 俺の魔法で押し返された謎の液体は、勢いよく地竜の顔面に飛び散る結果となった。


 グォォォン……!!


 謎の液体を浴びた地竜は、地響きのような唸り声を上げて首を振る。

 地竜の顔面からはおびただしい量の煙が立ち昇り、ツンとした刺激臭がここまで漂ってきた。


「地竜の顔が……」


 謎の液体を浴びた部分の肉が、強固な鱗と一緒に流れ落ちていく。

 ホラー映画さながらの一幕は、返って俺の意識から現実味を奪った。

 それは決して良い状況とは言えないが、冷静さを失わずにいられたのは幸いだ。

 あの液体には、酸のような成分が含まれているのだろう。


「凄まじいわい! 毒の原液をろうたら、骨まで溶けるやも知れんの?」


 全くだ。


「今ので思い出しました! 地竜は毒を出す器官の形を変えられるんです」

「どういうこと?」

「穴を開いて液体のまま吐き出したり、穴を閉じて霧噴きみたいに散布できるんですよ」

「なんと芸達者な……!」


 相手の挙動きょどうを直前まで観察して、毎回対応を変えないといかんのか。

 厄介だな。一度でも間違うと終わりという訳だ。


「毒の原液なら地竜自身にも効くみたいね。上手く利用できないかしら?」


 どうなんだろう?

 とりあえず俺たちは、一度安全な距離を取って毒液を被った頭の様子を観察した。

 頭部の肉は腐り落ちて行くが、鱗は変色するだけで、その形状を保っている。

 この森の木々が変色しているのと同じ状態だ。

 湖の水質も含めて、長年地竜が吐き続けた毒素が原因で間違いなさそうだな。





「ミナトさん……ちょっとまずいですよ。肉が再生してます」


 ユナが想像もしたくない事を言うが、そんな事を聞くと確認せざるをえない。


「…………」


 ユナが言うように、頭部の欠損した部分がムクムクと盛り上がってきた。

 一見頭部が再生しているように見えたが、しかしそれは加速度的に暴走を始め、肉のような塊は巨大に膨れ上がり、やがて頭部の側面に「新しい頭部」が作られてしまった……!


「増えおったわい!!」

「そんな! 地竜にあんな能力はありませんよ!」

「地竜の体内で生命力が暴走しているんだ。傷を付けると生命力が噴き出してしまうんだろう……」

「これも白い角の効果なの?」

「それ以外に考えられないです……。地竜に再生能力はありません……」

「まいったわい……」

「俺たちの不始末だ。とにかく、やらかした責任は取らないと……」


 そもそも、あの透明な鹿が原因だけど……。

 一体何を訴えたくて、サキさんにちょっかいを出したのか。

 今となっては何もわからないが、こんなに厄介なブツを落として行くなんて、迷惑にも程がある!!



「ティナよ、どこでも良いから、あやつを叩き切れる所まで飛ばしてくれんかの?」


 サキさんはミスリル銀の大剣を引き抜きながら、ティナにテレポートの催促をした。


「大丈夫なのか?」

「あの鱗の硬さよ。わしとこの剣の力で切り飛ばせんか、興味が沸いてきたわい!!」

「いいですね。切り口からの再生も見ておきたいです」

「それなら……本体の後ろに回り込んで、尻尾の部分にテレポートさせるわ」

「うむ!」


 一度決まれば行動が早い。

 俺たち四人は、全員で地竜の後ろ側にテレポートした。





 突然俺たちを見失った地竜の首が右往左往している陰で、こっそり尻尾の真横にテレポートしたサキさんが大剣を振り下ろす。


「キェィッ!!」


 短い掛け声と共に、ミスリル銀の刃が尻尾を一閃した。

 尻窄しりすぼみの尻尾とは言え、その直径は最大で1メートルに近い。

 尻尾の先まで鱗に覆われているのでどうかと思ったが、結論から言えば切断できた。


「うわ、本当に切断しましたよ……」

「サキさんを戻せ!」


 えつに浸っている場合ではない。

 俺が叫ぶと同時に、ティナはサキさんを呼び戻した。


「ふう、見た目ほどではなかったわい」


 テレポートで戻ってきたサキさんは、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

 まあ確かに凄いと思うが、そんなことよりも、今は尻尾の再生がどうなるかだ。


『………………』


 尻尾が切断されてから一分も経っていないと思うが、切り口から再生が始まった。

 まさか新しい頭部が生えてきたりしないだろうなと危惧していたが、爆発的な勢いで生えてきたのは、古代魚のような尾びれだった。


「あれはいかんの。もうダメだわい」

「完全に狂ってるんだな……」


 地竜の背後に回っている俺たちを、首のいくつかが睨みつける。

 しかし、地竜はその場から動かない。

 ブクブクに肥え太った胴体と、新たに生えてきたいくつもの首……。

 地竜の手足は、もはや自重を支えることで精一杯なのだろう。



「……これから、全力を持って地竜を討伐する。この森は土まで汚染されているから、今回は周辺に配慮しなくてもいい」

「火と風の矢を使ってもいいんですか?」

「使ってもいい。地竜の中で暴走する生命力を削り切る。ティナ、もっと高度を上げてくれ」


 俺たちは、上空に高く舞い上がり、地竜を足元に捉えた……。


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― 新着の感想 ―
[一言] 毒と言うより酸っぽい?
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