第38話「戦闘訓練」
俺はティナと一緒にハヤウマテイオウで街へ向かっている。サキさんの後ろに乗る時は鞍に付いている取っ手を掴んでいるのだが、今日はティナの後ろなので俺は遠慮なくべったりと抱き付いていた。
「浴槽ってどこで買うんだろ?」
「奉行所の人に聞いた方が早そうね」
王都に点在する役所のことだ。本当は奉行所なんて名前ではないんだが、俺が奉行所だと言っていたら、我がパーティーではそう呼ぶのが普通になってしまった。
家から一番近い西の奉行所で聞くと、完成した浴槽は家具屋で買えるのだが、俺たちのようにオーダーメイドなら工房へ行けと教わって、王都の工業区へ向かっている。
ナカミチが住んでいる区画だな。
俺とティナは桶っぽい看板を見つけて、早速工房の中に入ってみた。
「すみませーん」
「おや? お客さんかね?」
痩せ形で背の高い短髪のおっさんが、作業所の奥からひょっこりと顔を出した。
俺は浴槽のサイズを伝えて、どんな浴槽が良いのかを尋ねてみる。
「お客さんの話だと、桶や金属の浴槽は無理だろうね。完成した浴槽だと大きすぎて部屋のドアを通らないから、職人が現地で組み立てる方法じゃないと無理かな」
「言われてみればそうかも。組み立てるのはどんなのがあるんだ?」
「簡単なのは木の浴槽をそのまま置くやつかな。石だと地面を掘ってから埋め込みになるし、セメントが乾くのに時間も掛かる」
石は露天風呂にあるような、岩で囲うタイプから大理石を敷き詰めるタイプまで色々あるらしい。金次第でどんな要望にも応えると言う。
そういえば、俺たちが通っている銭湯の浴槽は木製だった。カビや黒ずみのようなものがこびり付いていて、清潔感とは無縁の状態だったな。
「銭湯の浴槽を見て汚いと思っているので石にしたいんだが」
「掃除は石の方が面倒臭いよ? 木の浴槽でも特にカビや水気に強い種類で作れば何十年でも持つから、置くだけで設置できるしお薦めかな」
「ここは職人のアドバイスに従おう。費用はいくら掛かるんだ?」
洗い場の状態や浴槽の大きさ、風呂釜や給水が不要なことなどを伝えると、全ての費用を合計して銀貨7000枚は必要だと言う。サイズが大きいと板厚も必要になるので、加速度的に値段が跳ね上がっていくらしい。
無駄遣いが無ければすぐにでも買えていたんだが……今はちょっと無理だな。下手に安い材木を使ってカビや汚れと毎日格闘になるのではしんどい。
「どうせなら一番良い奴が欲しいから、日を改めて出直してこよう」
「そうね」
その後、俺とティナは市場で買い物を済ませて家に帰った。
家の裏ではサキさんとユナが弓の練習をしている。二階の廊下には俺とティナの弓が置いてあるので、ちゃんと新しい弓を買ってきたようだ。
「こうして四人で戦闘訓練するのは久しぶりな気がするな」
俺たち四人は全員弓を構えて思い思いの標的を狙っている。俺の方は腕も悪いが弓もそれなりなので10メートルがやっとだ。俺も新しい弓を買ってくるんだったな。
「また当たった。サキさんは凄いな」
「大体思うた通りの場所に当たる。少し逸れるぶんを見越しておれば問題ない」
「やっぱり筋力が違うので長距離でも凄い威力で当たるんですよ」
「へえ……」
腕の方はユナに敵わないが、やはり筋力の差はでかい。サキさんが買ってきたカスタムロングボウは、俺たちの弓よりも一回りゴツくて大きな弓だ。
「ティナはなんか変な引き方するよな」
「普通に引けないのよ。ここまで力が無くなるなんて思わなかったわ」
「大変だな。俺の方はあんまり変わらんけど」
ティナは弓道のように上から縦方向に弓を引いているが、それでも引き切れていない感じだ。昨日サキさんが撃ったときは60メートルの的を超えていたので、俺も試しに撃ってみたが普通に60メートルは超えた。
ティナの弓はユナと同じ物なんだよな。このモデルの中では軽い弓なんだが……。
そこそこ命中率が高いのに威力不足では勿体ない。
「ユナはその弓で最大何メートルまで飛ぶんだ?」
「60メートルの的は超えますよ」
「ティナが引き切れんので何とかならんか?」
「んー……ミナトさんの普通の弓と交換するのが良いと思います」
俺の弓はあんまり質が良くないんだが……ティナには後でちゃんとした弓を買ってやることにして互いの弓を交換した。
ティナのカスタムロングボウを俺専用にしたので、照準やバランスをユナに調整してもらって練習を再開する。
「なんか異様に当たりやすくなったな。今までの弓とは違う」
自分専用に調整した弓だと30メートルの的でも何度かに一度は当たるようになった。
それでもティナは俺のボロい弓で40メートル離れたミノタウロスの胴体に二回も当ててたんだよな。ちゃんとした弓を買いに行かないと勿体ないな。
ユナは400本近い矢を買ってきたようだが、四人で猛練習していると夕方になるよりも早くに撃ち尽くしてしまった。
「私とサキさんは矢を回収して使えそうな矢を選別します」
「あ。わしは街に用事があるのだった。そしてそのまま銭湯へ行く」
「矢の回収は俺が手伝おう。ティナは飯の支度を頼む」
「そうさせてもらうわね」
俺たちはそれぞれに散らばって行動した。
的に刺さった矢は先を少し叩けば使えそうだが、サキさんが当てた矢は痛みが酷くて再利用は難しそうだ。
「流石サキさんと言うべきなのか?」
「そうですね。弓の威力が全然違うので、抜くのも大変です」
「深々と刺さってるやつは根元から折っておこう」
仕損じて地面に転がっている矢は痛みも殆ど無くて再利用も簡単だ。しかし見つけにくい。俺たちは練習でも高品質な矢を使い始めたので、ある程度は回収したいのだが……。
「もういいかあ。半分も見つからんかったが、日が暮れると何も見えん」
「そうですね」
俺とユナは家に戻り、弓と矢を片付けた。俺とティナとユナの弓は二階廊下の突き当りに置いたスタンドに立てているが、サキさんは自分の部屋に置くことにしたらしい。
俺たちは自分の部屋に武器なんか置きたくない方針なのだが、まあサキさんの気持ちはわからんでもない。床の間の武具と一緒に飾っているのだろうな。
「そろそろ終わったみたいなんで、今日から銭湯に行こうと思う」
「あら、早いのね。じゃあ今から行きましょうか」
「ハヤウマテイオウしか居ないですけど、どうしますか?」
「一人だけ歩くのはきついから、三人で歩こう」
俺たち三人は歩いて銭湯へ行くことにした。いずれ人が乗れる荷台を買わないといかんな。サキさんが白髪天狗を一人で使っているときは不便である。
女湯をくぐると、まだギリギリ込み合っていない時間帯だ。俺たちはなるべく端っこを確保して洗い始めた。
三日もたらい風呂だった俺は、今日だけはしっかりと洗うことにした。
「一応石鹸で洗ってはいたけど、湯を気にせずに洗えるのはいいなあ」
「そうですねー。やっぱり三人でお風呂に入るのは楽しいです」
ユナが石鹸まみれの体で俺に抱き付いてきた。
石鹸のぬるぬるした感触がとてもいやらしかったが、楽しそうにしているユナを見ていると……やはりいやらしい感情は消えなかった。
許せ。大人だから仕方がない。
しかしユナは俺に抱き付いたまま一向に離れようとしない。
石鹸のぬるぬるとユナの体で妙な気分になってきた俺はユナを抱き返してみたが、そうすると満足したように俺から離れていった。良くわからないことをする子だな。
今日はゆっくり洗ったにも関わらず、三人の中ではやはり俺が一番早い。二人が洗い終わるまで暇なので、俺はユナのおっぱいを眺めながら二人を待っていた。
今までは大きさだけが気になっていたが、ほかの子のおっぱいを見ていると、今度は自分の先っぽの大きさが気になり始めてしまった。
「ミナトは何をしてるの?」
俺が自分のおっぱいを摘まんで先っぽの方を確認していると、不思議そうな顔をしたティナが聞いてきたので、俺は自分の先っぽが変じゃないか二人に相談した。
「変じゃないですよ! ほら、私のと大して変わらないですよ」
「そうなんかなあ……やっぱり色々気になるんだよなあ。ティナとかユナはバランスが良くてきれいに見えるし……」
「気にし過ぎよ。もう少し自信を持ってもいいと思うわ」
俺は風呂から上がるまでずっと回りの人と見比べていた。基準がわからないものが気になり出すと何かと面倒臭い。
俺たちが脱衣所で涼んでいると、銭湯は一気に込み合ってきた。まあ脱いで風呂場に移動するだけなので、脱衣所が込み合うのはもう少し経ってからだろう。
「ここも込み始める前に出た方が良さそうですね」
「そうね」
二人に言われて俺は自分の下着を取り出そうとしたが、ティナに止められた。
「ミナトの下着も持って来たわよ。折角自分でかわいいの選んだのだから新しいの着けなさい」
「それか……」
ここ数日は下着を汚したくないと言って地味な下着を使い続けていたのだが、流石にもう同じ言い訳は通用しないだろう。
「うーん」
俺は調子に乗って選んだ下着を広げながら唸っていた。かわいいデザインなのでちょっと付けてみたい気もするが、二人に見られている前では恥ずかしい。
「ティナ先生お願いします」
俺は初めてブラジャーを付けられたときと同じように丸投げした。今回はぱんつまで穿かせてもらっているので、自分で穿くよりも恥ずかしい羞恥プレイになっている。
「恥ずかしいけど付け心地が良いのが悔しい……特に尻のあたりとか……」
「そうなんですよ。普通の綿じゃないですよね」
最後の一線を越えてしまった気もするが、服を着たらあまり関係ないのが幸いだ。
「俺も下着は全部あの店のにする。ちょい高いけど、当たってるとこが気持ちいい」
「次はタイツとかも買ってみたいわね。すごく柔らかい素材だったわよ」
また出費が増えそうだな。いいけど。俺なんか冒険にも生活にも無関係なバニースーツ買ったし……。
明日は何とかティナと二人きりになって着てもらおう。




