第384話「風呂作り再び」
今日は昼を過ぎても、天候回復の兆しはなかった。
暇を持て余した俺たちは、土の魔法で洞窟内を拡張したり、風呂を作ったりして遊んでいる。
こういう時にボードゲームの一つもあれば盛り上がるのだろうが、そういったものは家の棚に置いてきてしまった。
例えティナの魔法でも、棚の中に収めてある物を器用に召喚することはできない……。
「浴槽の側面に穴を開けて、地面の上まで穴を通すことは出来ませんか?」
「流石にそこまで細かい施工は、土の魔法でも難しいな」
ユナは浴槽に空気の通り道となる細い穴を作って、浴槽の外から空気を送り込もうと考えたようだ。
いわゆるジャグジーとか、ジェットバスと言われる機能を付けたいらしい。
浴槽の中で空気を発生させるだけなら、風の魔法や解放の駒を使えば簡単にできると思うのだが、それでは理想的な泡が立たないだろう。
土の中に空気を通すパイプラインを通すしかないが、どうやって作ろうか?
「ミナトよ、水道工事の要領である。パイプを通す深さまで、とりあえず地面を掘るのだ」
サキさんがアイデアを思い付いたようだ。
他に方法が思い浮かばない俺とユナは、サキさんの指示に従うことにした。
俺が土の魔法で作る露天風呂は、地面に大きな穴を掘ったあと、その穴の表面をコンクリート状に石化させて完成としている。
気合を入れて作る時は表面の質にも拘るのだが、今回のように使い捨てになる状況では、なるべく手間の掛からない方法が優先される。
今回の風呂作りでは、浴槽外から空気を送って、浴槽の側面から空気を噴出させるためのパイプラインを作る必要があるのだが……。
「大体この辺りに穴があれば良いと思います」
「じゃあ、そこまで掘ってみようか」
「風を送る場所は、ここから真上の地面がいいですね」
せっかく作った浴槽の側面に、本棚から本を一冊引き抜いたような形の隙間が出来てしまった。
「サキさん、ここからどうするんだ?」
「うむ。空気の入口から出口まで、通路を作りたい位置にロープを這わせるのだ」
「おけおけ、それから?」
「そのロープごと掘った穴を埋めるんだわい。そして土を固めた後にロープを引き抜くと……」
なるほど!
一緒に埋めたロープを引き抜けば、ロープが埋まっていた部分が空洞になる訳か。
俺は緩めに土を固めてから、サキさんがロープを引き抜いたあとに、改めて土を硬化させた。
浴槽が完成した後は適度に水を張り、ティナの強化魔法で赤く熱したハンドアックスを浴槽の底に沈めてやれば、勝手にお湯が沸いてくれる。
空気の発生源も至ってシンプルだ。
風の精霊石と解放の駒を地面の穴に押し込んでから、勢いよく噴き出す空気が逆流しないように、そこそこ重量のある石でフタをすれば完成だ。
「これは良さそうだの! どれ、今から入って確かめてやるわい」
「はいはいお先にどうぞ」
サキさんが一番風呂を決めたので、俺とユナは夕食の手伝いをする事にした。
「食料はどのくらい持ちそう?」
「そうねえ……今の状態なら、あと六日は持ちそうかしら?」
食材に関しては、小分けして家の調理場に置いてある袋を、ティナが魔法で取り寄せながら消費している。
足の早い食材には保護の魔法を掛けているので、相手が生の食材でも品質が落ちることはない。
まあ今の季節、王都は一晩置きっ放しにすると大抵の物は凍っているので、生の鮮度を心配するよりも、解凍の方法に頭を悩ませる感じだ。
今日はゆっくり出来たこともあり、夕食のメニューは昨日採ったキノコを使って、試行錯誤を繰り返しながらの調理が行われた。
「この黄色いのは、キクラゲの代わりに使えそうね……」
「あのコリコリしたやつか? あれって海藻なのか? まさかクラゲじゃないよな?」
「ミナトさん……あれキノコなんですけど……」
「う、うん……」
ここに長居すると恥をかくだけだと思ったので、俺はこの場から退散した。
行き場を失った俺は、洞窟の入り口で空の具合を確認したが、雨は一向に止む気配を見せない。
空が暗くなり始めたことも手伝って、辺りの様子はより一層不気味さを増している。
今晩は星明り一つない、真の暗闇の世界が広がるだろうな……。
「うほぅ! うほぅ!!」
物思いにふける俺の横を、物凄い勢いで素っ裸のサキさんが走り去っていった。
サキさんは風呂に入っていたはずだが、途中で腹でも痛くなったのか?
「……………………」
暫くその場で待っていると、股間を握って隠したサキさんが無言で通り過ぎて行った。
ようやく婦女子の前でちんちんを隠すようになったんだな……。
俺は素直に感動したぞ。
そろそろ、夕食も出来上がる頃だな。
さっさと食べ終えて、俺も早く風呂に入ろう。