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第379話「別れと再出発」

 悪魔の集落を壊滅させて、相応の後始末をしていると、いつの間にか昼を過ぎてしまった。

 俺たちはまだこの山林を進んでいくつもりだが、当初の目的を果たしたシャリィたちは、これからすぐに引き返すらしい。

 この場所が気持ち悪い雰囲気なのも手伝って、少しでも帰りの距離を縮めたいというのが本音だろう。


「あの、ティナさんとコロッペさんが儀式魔法を行えば、全員マラデクの町までテレポートできるんじゃないですか?」


 ユナがおかしな事を言い始めた。

 テレポートなんてティナが一人でやれば済む話だろうと思ったが、儀式魔法という事にしておけば、話がややこしくならなくて済むということだな?


「それがいいわい。年越しくらい、町で酒でも飲みたかろう」

「私が儀式を執り行うわ。場所はマラデクの町の西側、街道に面した場所でいいわね?」


 ティナも意味を理解したのか、自ら儀式魔法の音頭を取る。


 儀式魔法は大別して二種類の方法があり、儀式に参加する魔術師全員が同じ魔法を使う簡易的な方法と、儀式を執り行うリーダーに全員の魔力を集中させる方法がある。

 テレポートのように転送先を明確にしないと失敗するような魔法の場合は、必ず後者の方法を取る必要があるのだ。

 ただし扱う魔力の総量が人間の限界を超えてしまうので、魔法の中でも特に難易度の高い技法だと言われている……。

 これを成功させるための目安としては、最低でも導師として認められる程度の実力がないと難しいだろう。



「本当にマラデクの町まで移動できるなら有難い話だ」

「だけど、エルレトラの宿に荷物を預けているのよね。あたしとスキニーは先にマラデクの町で待ってるから、コロッペ、あんたは一度エルレトラに寄りなさいよ」

「いいよ。どのみち儀式魔法に参加する僕は、みんなと一緒にテレポートできないからね」


 そんな訳で、ティナとコロッペは儀式魔法を行い、シャリィとスキニーの二人をマラデクの町へテレポートさせることになった。

 俺たちはシャリィとスキニーの二人に軽い別れの挨拶をして、それを見守る──。





 シャリィとスキニーをテレポートさせた後は、コロッペが自分の魔法でエルレトラにテレポートする手筈だ。

 荷物を詰め込んだ大きなバックパックはスキニーが背負って行ったので、今のコロッペは手ぶらになっている。


「それじゃあ、僕も行くから……」

「ああ、ちょっと待って!」


 軽く会釈えしゃくするコロッペを、俺は引き留めた。

 どうせ公都エルレトラを経由するなら、ゴブリンの耳とか悪魔の首とか、いわゆる「生モノ」は持って帰って欲しい。

 俺たちは街道を大きく離れ過ぎているから、もう軍の野営地に寄ることは無いだろう。

 正直な感想として、いわくつきの「生モノ」が処分できないのは困る。


「それもそうか……。でもいいの? ゴブリンの耳はかく、悪魔やキマイラの首は結構まとまったお金になるよ?」

「いいですよ。持ち歩きたくないですし。臭いもきついですし……」


 そう言えば、悪魔やキマイラの首を落として回ったのはスキニーだっけ。

 不思議とサキさんは興味を示さなかったな。

 この男は自分の苦手な事があると、最近は何食わぬ顔で誤魔化そうとする時があるから要注意だ。


「……うーん、正直僕も気持ちが悪いけど、有難く受け取っておくよ。それじゃあ、またどこかで!」


 コロッペも苦手なのか、口の端を引きつらせた笑顔でテレポートした。





 改めて辺りを見回すと、やはりこの集落は「悪い気」のような何かを感じるな。

 試しにコロッペが塞いだ洞窟に精霊力感知を働かせてみるが、そこからは特にこれといった異変は感じなかった。

 結局この奥に何があったのかは謎だが、洗脳したゴブリンたちを使って地下洞窟に暗黒神殿を作っていたとか、恐らくそんな所だろうと思う……。


「サキさん、この場所は地図に書き込んでおいてくれ。集落を作りやすい立地だから、いつかまた魔物が住み着くかもしれん」

「うむ」

「洞窟は調べないんですか?」

「うん。気が乗らないし、今回はやめておこう」

「シャリィたちじゃないけど、ここは空気が悪いと思うわ。明るいうちにキャンプのできる場所を見つけましょう」


 ユナは好奇心から洞窟の中が気になるようだが、俺とティナが声を揃えてふたを開けたくないと言ったら、それ以上は追求しなかった。



 さて、日が落ちる前にキャンプの出来そうな場所を見つけなければならない。

 戦利品で得た魔法の武器は、とりあえず家の裏にテレポートさせておき、俺たちは必要な荷物を二頭の馬に固定した。


 今回はユナがハヤウマテイオウに乗り、サキさんは白髪天狗に乗る。

 俺は飛行の魔法で空を飛ぶティナに繋がれて、上空から移動と探索を行うことにした。


「やっぱりさえぎるものがないと冷えるな」

「大丈夫?」


 冬の豪雪で知られるオルステイン王国も、エルレトラ公国まで南下すれば滅多に雪は降らない。

 それでも上空となれば話は別。

 王都の寒さとは質の違う冷たさが、容赦なく体温を奪いに来る。



「静止して高度を上げられんかな? ここから王都や山林地帯の全体が見渡せるかも知れん」

「高度計もないから加減が分からないわよ」

「良くわからんけど、千メートルくらいなら問題ないんじゃないかな? 山陰地方とか、そのくらいの山ゴロゴロあるし、適当に上がってみよう」


 俺は特に詳しくないが無責任な事を言った。

 ちなみに富士山の標高は、3千メートルくらいあったような気がする……。

 あれ? 何メートルだっけ?


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