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第37話「俺だけニート」

 いつもと変わらない朝を迎えた俺は、ユナと一緒に洗い場で朝の支度を済ませる。

 調理場のティナは昨日俺が口走ったことを真に受けたのか、サイドを後ろで結んだハーフアップスタイルにして、後ろ髪は下していた。

 やっぱり何もしない状態では家事がやりにくいのだろうか?


 サキさんとエミリアも揃ったところで朝食の準備が終わった。

 今日の朝食は笹の葉のような葉っぱを円形にした中に、溶いた小麦粉と薄切り肉と野菜と卵を入れて焼いた物だ。


「リング焼きかの?」

「リング焼きですね……」

「なんだそりゃ?」

「鉄板も買ってたから、ちょっと遊んでみたの」


 祭りとかの屋台で売っている、お好み焼きの子供みたいな食べ物らしい。本来はステンレスの輪っかに流して作るそうだ。俺の地方では見たことがない。


「屋台の安っぽい味も、あれはあれで良いものであるが……」

「やっぱり丁寧に作ってあるとおいしいですね」

「お好み焼きとかも作れそうだな」

「あの麺も重曹っぽい何かが必要だったと思うわ。それを入れないとパスタやうどんになるのよ」

「また重曹か。せめて成分がわかればな……」

「私もあれから調べてはいるのですが、ちょっと手掛かりが無さ過ぎです」


 醤油は時間が解決してくれそうだが、残念ながらこっちは無理みたいだ。






 エミリアが帰ったあと、俺たちは今日の予定を話し合っていた。


「わしは紳士服の店に用があるから朝のうちに出掛けてくる。昼からは薪割りと、戦闘訓練が出来るように弓の的などを設置したいと思うとる」

「私はやることがないので、馬が空いていたら家の近くを散策してみたいです。昼からはサキさんのお手伝いができるといいです」

「私は朝のうちに軽く家のお掃除ね。昼からは日用品の買い出しに行くわ」

「俺はニート……まだちょっと腹痛いし……歩きにくいし……」

「腹いせに弓でも撃ったらどうかの?」


 サキさんは白髪天狗に乗って紳士服の店へ行った……俺の歪んだ欲望のために。

 ハヤウマテイオウが空いているのでユナは弓を持って散策に、ティナは家の掃除を始めている。手伝おうかと思ったが休んでいてもいいと言われたので部屋に引き籠った。



 ニートの俺は何もすることがないので、ティナの枕の匂いを嗅いだり、掛け布団に潜ってはしゃいでいたが、今は三面鏡の前で自分を着せ替え人形にして遊んでいる。

 ティナの服はサイズが小さいので、ユナの服を勝手に着てみたりしているのだが、結局二人が選んでくれた自分の服が一番似合うことが判明した。


 しかし女の子の服を勝手に漁って自分で着るのは妙に興奮して癖になりそうだ。


 俺は買ってから一度も着ていなかった、やたら胸が強調される恥ずかしいデザインのワンピースを着て鏡を眺めていると、改めて自分のおっぱいが三人の中で一番でかいなあと思い、今度は自分の胸を揉んで遊ぶことにした。


 ……暇を持て余した人間はろくなことをしないな。



「ミナトよ、例の物はしかと注文したぞ」

「あ……」


 いきなり部屋に入って来たサキさんに、恥ずかしいワンピースを着て自分の胸を揉んでいる姿を見られた俺は言葉に詰まった。相手がサキさんでもこれは気まずい……。


「気にするな。わしも自分の部屋では……」

「お前が毎晩どこ弄ってるのかは良く知っているからそれ以上言うな」

「むう。バニースーツは明日の夕方には仕上がるらしい」

「良くやってくれた。あとここで見たことは皆には内緒にしておいてくれ」






 昼を過ぎた頃、サキさんとユナは二人で弓の的を設置していた。10メートルくらいから始めて、最終的に70メートルまでの的を設置するそうだ。

 ティナは日用品の買い出しに出掛けたので、俺は二階廊下の木窓からサキさんとユナの作業風景を眺めていた。


 そういえばユナはおっぱいを触るのが上手かった。自分で揉んでもいまいち気持ち良くならないのでユナに揉んで欲しいのだが、流石に引かれてしまうだろうなあ。



 俺が妄想に浸っていると、いつの間にか的の設置は終わったようだ。ユナが弓の練習を始めたので、俺も胸当てと自分の弓を持ち出して練習してみることにした。


「ミナトさんも練習ですか?」

「できれば5メートル程度の的に必中できるくらいの技術が欲しいな」


 武器屋の兄ちゃんからは数メートルまで引き付けて撃てと教わったが、ユナに教えてもらうと最終的には狙撃の方向になっていく気がする。

 競技なら仕損じてもゴブリンの時のようなパニックにはならなかったと思うが、俺は一度怖い目に会っているので、独自になってしまうが白兵距離での練習を始めた。


 今日はサキさんもティナの弓を持ち出して練習するらしい。ユナからレクチャーを受けて素引きから初めていたようだが、すぐに巻き藁での実射を始めている。


「なかなか飛ぶ」


 サキさんが最大射程のテストをしてみると、60メートル先の的を超えていった。


「敵の硬さもあるので実際には30メートルくらいが限界ですよ」

「飛ぶのとダメージを与えるのは別ってことか」

「ですね。化け物が相手だと相当深く刺さってくれないと意味がないです。ミノタウロス戦で思い知りました」


 なるほど。ユナはもうこの世界の弓が命懸けであることを自覚しているのだな。一応50メートルの的への練習も挟んでいるようだが、その殆どは30メートル以下で木の隙間などの難しい場所に設置された的を狙っていた。


 ……戦う為の練習に切り替えたのか。俺もユナに弓を教わることにした。






 夕方近くまで弓の練習をしていた俺たちは、すっかり矢を使い果たして家に戻ることにした。俺も少しは上手くなったと思う。

 今は木製のロングボウだが、ユナたちと同じカスタムロングボウに買い替えるのも良いな。まだ早いなんて言って、死んでしまっては意味がない。


 サキさんの弓の腕前は、俺以上だがティナよりは劣るという感じだった。サキさんにも同じカスタムロングボウを買おうと思った。俺よりも優先的に。

 こいつは日常的に訓練をしているので、すぐにユナの下くらいにはなるだろう。


 四人全員が開幕射撃するパーティーっていうのは珍しい部類に入るだろうな。



 俺たちが家に入ると、既にエミリアもテーブルに着いていた。

 弓を片付けて手を洗ってくる頃には、ティナが夕食を運んでくれていたようだ。今日の夕食は親子丼と野菜の塩漬け、それに海藻っぽい物が入った吸い物が付いていた。


「相変わらず醤油ベースじゃなくても違和感がないのは凄いなあ」

「宿で食べた鶏は固いのばかりですけど、ティナさんのは柔らかいですよね」

「宿で食べたのは大トカゲみたいよ」

「………………」

「これは鶏肉だから安心して」


 俺たちは大トカゲの肉を食っていたのか。食えるから出てきたんだろうけどショッキングだ。もし宿で食うことになったら大トカゲだけはやめよう。ユナが固まっている。


「ティナさん、明日の晩御飯はロールキャベツが食べたいです」

「いいわね。キャベツを買ってきましょう」


 俺も食いたいものを思い付いたらリクエストしてみるか。






 エミリアが帰ったあと、サキさんは一人で銭湯に、俺たち三人はたらいの湯で体を洗っていた。


 ティナがたらいに湯を貯めるので銭湯に行けないと言うと、ユナは一人で銭湯に行くのを嫌がって、結局三人で体を洗うことになった。

 今日はたらい風呂をせずに、石鹸で体を洗って掛け湯をして終わりという感じだ。


 サキさんがなかなか帰って来ないので、俺たち三人は洗濯と歯磨きを先に済ませて自分の部屋に戻っていた。


「やっぱり大きな鏡があるといいですよね」

「俺は朝からずっと鏡を見ていたが、自分に似合いそうな服が何となくわかってきた」

「今度は自分で服を選んでみるといいわよ」


 ティナはくすくすと笑いながら俺に抱き付いてきた。鏡の前に座って三人でいちゃ付いていると、サキさんも帰ってきたようだ。






 翌朝、俺とユナがいつものように朝の支度を終えると、何食わぬ顔をして赤ふんどし一丁のサキさんが洗い場に入って来た。


「作ったのか?」

「うむ」

「ふんどしなんて初めて見ました」

「俺も」


 サキさんは赤フン姿の仁王立ちで歯磨きをしている。とにかく俺たちに見せないと気が済まんらしい。俺は良いがティナとかユナに見せるのはやめて欲しいところだ。


 結局朝食もその姿のままで食べるらしく、エミリアと横に座る赤フン侍のツーショットは異様なオーラを発している。

 エミリアがいやらしい目でサキさんの赤ふんどしをチラ見して落ち着かない様子だ。初めて見る下着が気になるのだろう。


 今日の朝食は普通のサンドイッチだったが、普通のサンドイッチより美味いとエミリアには好評だった。


「何か足りないと思ったらマヨネーズがないんだな」

「マヨネーズは売ってないわね」

「作れんのか?」

「レシピは簡単だけど、かき回すのが死ぬほど大変よ?」

「エミリアなんとかしろ」

「はい。かき回す魔道具ですね。見つけてきます」

「エミリアが自力でかき回せばいいだろ。毎日放置プレイされて椅子に座ってる間にかき回せよ」

「……………………」






 エミリアが帰ったあと、俺たちは今日も予定を話し合っている。家の方が一段落して全員で何かをやる用事も無くなったので、こうして各人の予定を確認しているのだ。


「わしは夕方、街に用事がある。それまでは家の裏で戦闘訓練をやる」

「サキさんは街に出たときに、ユナと同じ仕様のカスタムロングボウを買って来い。全員で開幕射撃ができると奇襲攻撃が可能になる」

「そうしよう」

「私は朝一番に武器屋で矢の補充をしてきます。弓を買うならサキさんも一緒に来ませんか? 買い物を済ませたら私も家の裏で弓の練習をします」

「うむ。二度手間になるが同行するかの」


 今日はサキさんとユナでずっと一緒に過ごすのだろう。戦闘の要になる二人が戦力強化を図ってくれるのはパーティーにとってプラスになる。


「私はキャベツを買ってくるわ。時間が余ったら弓の練習もしてみようかしら」

「俺は調子が戻ってきたんで浴槽の見積もりをしてきたい。ティナの後ろに乗せてもらえると助かる」


 サキさんとユナは一足先に武器屋へ走り、俺とティナは四人の布団を二階の木窓から干したあとでゆっくりと街まで移動した。


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