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第377話「青トカゲの悪魔」

 ゴブリンの集団を片付けた俺は、キマイラと悪魔の方に意識を向けた。


 まずキマイラだが、シャリィの放った矢の効果だろうか? 山羊やぎの頭が不自然な形にゆがんでいる。


 いや──よく見ると、頭や顔の一部が無くなっているようだ。

 まるでアイスクリームディッシャーでえぐり取られたような傷口からは、不気味なまでに出血がない。


 キマイラの反応と言えば、暴れまわる事もなく、よたよたと右往左往している。

 生きてはいるが突然脳を失ったせいで、意識的な行動が取れないのだろう……。

 胸から生えているライオンの頭は無傷だが、そっちの脳は機能していないのかな?


 キマイラの本体は、低いながらも知能があり、特定の魔法を使う巨大な山羊やぎで間違いない。

 悪趣味を極めた古代の魔術師により、ライオンの頭を接合され、大蛇の尻尾に差し替えられた、人工的な嵌合体かんごうたいである。

 度重なる実験の末に捨てられた嵌合体かんごうたいは野生化し、弱いながらも繁殖力を備えた個体からは、今もなお「魔物」や「魔獣」と呼ばれる存在が生まれ続けている。


 ……これらは全てユナの受け売りだが。



 キマイラの実態はいいとして、シャリィの魔弓まきゅうから放たれた矢に射抜かれると、射抜かれた部分が消失してしまうようだ。

 消失する範囲は野球ボールほどの大きさなので、魔法の矢と比べると派手さはないが、この一撃が致命傷になる生き物は想像をはるかに超えて多いだろうな。


 シャリィも魔弓まきゅうの効果を認識しているのか、山羊やぎの頭部を潰した後は、わざと急所を外しながらキマイラに攻撃を加えているように見える。

 自分の命を担保たんぽにした冒険者が、実戦での威力検証をしているのだから、ある程度の狡猾こうかつさには目をつむらざるを得ない部分もある……が、あまり見ていたくない光景だ。





 一方、4体の青トカゲだが、サキさんとスキニーの二人は苦戦を強いられていた。


 今現在、地面に倒れているのは1体の青トカゲのみ。

 これはスキニーの奇襲攻撃で最初に倒したやつだろう。


 スキニーは目の前にいる残り1体を相手にしているが、サキさんはソロで2体の青トカゲを相手に奮闘している。

 青トカゲの悪魔たちは、こちらの奇襲に勘付いている節があったので、後発のサキさんが奇襲に失敗したのは仕方のないことだろう。

 しかし流石に、2体を同時にさばいているサキさんは、そろそろ限界が来ている。


「…………」


 俺は試しに青トカゲの1体を弓で狙ってみたが、双方の立ち回りが激しすぎて、とてもちょっかいを出せる感じではなかった。

 ユナも弓を引いて様子を伺っていたが、今は諦めて引きを緩めている。



 スキニーの方は膠着こうちゃくこそしているが、一対一なら特に問題はなさそうだ。

 洞窟の入り口に細工をし終わったコロッペが、そのうち支援に回ってくれるだろうから、スキニーに関しては問題ないだろう。


 問題はサキさんの方で、左右から交互に攻撃されているため、反撃の機会をうかがうことも出来ない様子だ。

 時折ときおり魔槍まそうグレアフォルツの横払いをくぐった青トカゲが、サキさんに攻撃を加えている。

 力任せに振るった石の剣を盾で受け止めるも、魔法で強化したはずのカイトシールドが簡単にへこんでいく。

 まさかと思うが、あの石の剣にも魔法が掛かっているのだろうか?



 サキさんが受けた傷はティナが魔法で治しているのだが、いかんせん距離が離れ過ぎているせいか、即座に回復という訳にはいかないようだ。


「ティナ、俺をサキさんの所に送ってくれ」

「どうする気?」

「このままだとドン詰まりだから、サキさんが攻撃に転じる隙を作ってみる」

「ちょっと、大丈夫なの?」


 背に腹は変えられない。

 悪い流れを変えるきっかけがないと、そのうちサキさんの体力が尽きてしまう。

 ティナは難色を示したが、即座に代案が出ない以上、渋々だが俺の提案を受け入れてくれた。

 そんなやり取りをしている間にも、サキさんの動きは目で追えるほど鈍くなっていく。


「危ないと感じたら呼び戻すからね……」


 ティナが俺にテレポートの魔法を使った瞬間、俺の視界には青トカゲの背中が映った。





 俺が出現した場所はサキさんの正面、青トカゲの1体を挟んだ先になる。

 これは奇襲に成功だろうと思った瞬間、目の前に見える青トカゲが飛び退ずさりして、俺の方に向き直った!

 理由まではわからないけど、危険を感知する能力があるんだろう……。


 以前の俺なら恐怖のあまり固まっていたかもしれないが、いつまでもそんな風だと思うなっ!


 俺は左手のグローブに挟んでおいた精霊石から光の精霊石を抜き出すと、俺を睨みつけている青トカゲのひとみを狙い、太陽をイメージした魔法のライトを当てた。


 ────!!


 魔法のライトはすぐに手でおおわれたので、目くらましができた時間はほんの一瞬だ。

 しかし目の前にいる青トカゲの悪魔は、絵に描いたような千鳥足ちどりあしになっている。

 悪魔は暗闇を見通せるほどの視力を持つから、太陽レベルの強烈な光は単なる目くらましを通り越して、体の神経にまで影響を与えたのだろう。



 だが、予想以上の効果が出たからといって、ここで攻撃の手を緩めてはいけない。

 俺は土の精霊石に持ち替えて、青トカゲの足元を波打なみだたせてやる。

 すると幻惑した青トカゲの悪魔は、面白いようにすっ転んだ。


 目の前の青トカゲが倒れることで視界が開けると、もう1体の青トカゲは、サキさんの猛攻にすべなく、魔槍まそうの一撃を胸に受ける光景が飛び込んできた。

 もう1体の脅威が排除されたと確信した俺は、腰のサーベルを引き抜く。


 ──地面に倒れた青トカゲに狙いを定めると、サーベルの刀身が青白い輝きを放った。


 特に打ち合わせをしたわけでもないが、ティナが武器強化の魔法を使ってくれたのだろう。

 俺は躊躇ためらうことなく、青トカゲの悪魔に最後の一撃を加えた。


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