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第376話「奇襲攻撃」

 ティナが案内する通り、数分も歩くと森が開けた。

 岩場の合流地点から、ここまでの距離はおよそ1キロだと聞いていたが、獣道すらない場所を歩いたせいで小一時間は経過していた。


「コロッペの幻影魔法で見た通りだな。奴隷のゴブリンは少ないようだが、青トカゲの悪魔が四体に増えている……」



 俺たちが息を潜めている位置は、集落の南側だ。

 集落に対して少し高台になっており、弓で狙うには恰好のポジションと言えるだろう。


 悪魔の集落は、まず中央に怪しげな祭壇が鎮座している。

 祭壇の周りにある土は不気味に変色しており、長く見ていると吐き気をもよおす。


 集落の西側には枝や落ち葉を敷き詰めたゴブリンたちの寝床がある。

 この寒空の下、屋根はおろか風除けすらない寝床だ。

 ゴブリンにはある程度の知能があるので、風除けを立てるくらいは出来そうなはずだが。

 悪魔に操られることで、その程度の知能すら失ってしまったのだろうか?


 寝床の方角から風が吹いてくると、息を止めたくなるほど強烈な悪臭が漂ってくる。

 あまり長居すると、服に臭いがしみ込んでしまいそうだ。


 そして一番気になる存在は、集落の北東に見える洞窟の入り口だろう。

 洞窟の入り口は、そこだけこんもりとした山状になっている。

 例えるなら、小さな古墳こふんに入り口の穴が開いているような感じだ。

 山の表面は地表と全く同じもので、恐らく魔法で作った人工的な山だろうな……。





「洞窟からもゴブリンが出て来ましたね……」

「もたもたしていたら数が増えたか。仕方がない、とにかく配置に着こう」


 当初の予定より敵の数が増えてしまったが、作戦の手順に変更はない。

 まんべんなくりになっているゴブリンは、合わせて27体もいる。

 目立つ装備品はないものの、自分たちで作った粗末な弓が主力武器のようだ。

 こいつらの担当は俺とユナだが、二人だけでさばき切れるのだろうか?


 ゴブリンとは打って変わって、祭壇の周りをのしのしと歩いている放し飼いのキマイラは、昨夜の宣言通りシャリィが一人で討伐するらしい。

 相当強力な魔弓を持っているようなので、その威力に注目したいところだな。


 洞窟の周辺に固まっている青トカゲの悪魔4体は、サキさんとスキニーが片付ける。

 4体ともそれぞれに武器を持っているが、よく見ると木の枝を槍にしたり、石で作った剣をたずさえていたりと、ゴブリンもそうだが全体的に武器がショボい。


「キマイラが祭壇の影に回ると面倒だね。少し場所を変えるよ」

「私も移動します。森の奥に逃げ出すゴブリンがいたら集中的に狙いますね」

「分かった。俺はティナとここに陣取るから、配置に着いたら合図してくれ」


 ユナとシャリィは東西に分かれて、それぞれが良かれと思う場所に身を潜めた。



「準備は良いかな? そろそろ僕は、洞窟の裏側にテレポートするよ」

「うん。コロッペの準備が終わり次第、攻撃開始だ」


 サキさんとスキニーを集落の中央にテレポートさせる順番は、もちろんスキニーを先にする。

 サキさんのように雄たけびをあげながら襲い掛かるようなやつは、不意討ちの一番乗りには相応しくないからだ。


「俺は洞窟の入り口に一番近い奴を狙う。奴の真正面にテレポートさせろ」

「わしは一番遠い青トカゲからやるかの。二人で挟み撃ちにしてやるわい」


 スキニーとサキさんは、互いに標的を宣言してから、槍を構えた状態で待機する。


「………………」


 俺は全員の意思を確認したのち、ゆっくり頷いて作戦開始の合図を送った。





 ティナがスキニーをテレポートさせると、突然目の前に現れたスキニーを見た悪魔は、驚くどころかスキニーよりも素早く石の剣で攻撃をしてきた。


「……うおうっ!?」


 スキニーは体全体を斜めに捻りながら、すんでの所で石の剣をかわしたが、奇襲したにも関わらず先手を取られたスキニーは、思わず恰好の悪い声を上げた。


「迷うな! 攻撃を続けろ!!」


 予想外の事態に全員の手が止まるなか、俺は攻撃続行の指示を出しながら火の矢を放つ。

 一瞬遅れて、ユナの放った火の矢が別方向から飛んで行く。

 2本の火の矢はゴブリンの数が多い場所に着弾し、それぞれが直径5メートル程の火の玉を生んだ。


 火の玉に巻き込まれたゴブリンは合計で7体、それらは自分の身に何が起きたのかもわからないまま消し炭となった。

 俺は間髪かんはつを入れずに二射、三射を放っていく。

 無理して複数体を巻き込む必要はない。

 例え1体しか倒せなくても、今は一秒でも早くゴブリンの数を減らさねば──。



 4本ずつ用意しておいた火の矢といかづちの矢を使い切って、俺が仕留めたゴブリンの数はざっと15体といった所か。

 どちらの矢も広範囲に効果があるので、適当な場所に着弾させても効果範囲内にいるゴブリンを倒せてしまうのは大きい。

 集落の西側はまさに火の海と化し、27体もいたゴブリンは作戦開始から一分と持たずに全滅した。


 村や森の中では不可能な戦法だが、周りに遠慮しなくて良い場所ならこんなものか。

 シャリィたちの試し斬りが不要なら、全員で魔法の矢を放って終わりにできる状況だったな。


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