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第375話「静かな進撃」

 俺とティナとシャリィが深い森の上を飛行している最中さなか、俺は魔法の矢を作った。

 火の矢、土の矢、いかづちの矢、氷の矢……。

 基本的には奴隷のゴブリンを蹴散らすために使う予定だから、最初は火やいかづちの矢で複数体を巻き込むような攻撃を加えつつ、りになったゴブリンを土や氷の矢で仕留めていくのが最善だろう。


 サキさんやスキニーの方へ向かうゴブリンには、通常の矢をもって仕留める。

 俺は激しく動き回る的に当てる自信がないから、効果範囲なら魔法も使っていこう。

 奥へ逃げるやつはユナに任せて、こちらへ向かってくるやつは俺が担当すればいいな。



 俺が魔法の矢を作っていると、眼下がんかに馬が見えた。

 森が深くて一瞬だったが、ユナとスキニーを追い越したようだ。

 横顔に照り付ける朝日は眩しいが、この調子だと森の下はまだ暗そうだな。


「ティナ、下に馬が見えた。もう少し速度を落としても大丈夫だ」


 なるべく下の二人と歩調を合わせながら、俺たちは合流地点に到着した。





 合流地点は、悪魔の集落から約1キロほど離れた位置にある。

 ひらたい岩が重なり合うようにして出来た自然の空間があり、ちょっとした雨宿りにも使えそうな場所だ。

 岩が転がる場所には大きな木が生えていないから、この周りだけ日当たりがいい。


「この岩場に馬を置いて行けば安全という事かな?」

「そうです。装備以外の荷物もここに置いて行きますよ」

「周辺に大きな動物の足跡はないが、念のため食料袋は木の枝に引っ掛けておくと良い」


 スキニーは複雑な岩場を馬で駆け上がり、自然の安全地帯まで馬を誘導した。

 俺が感心していると、ユナも同じルートで駆け上がる。

 こんなのちょっと真似できないな……。

 どうやったら二人みたいに、馬が直角に向きを変えるんだ?



「……思ったよりも早く到着したようだね」

「アンタたちが一番遅いよ。男二人で何してたのさ?」


 サキさんと合体したままのコロッペが、不意に岩場の奥から現れた。


「この先でゴブリンがうろついておったんでの、首をねて来たわい」


 コロッペがロープを解いている後ろで、サキさんが得意げに言う。

 二人は現地までの偵察を済ませてきたらしい。


「仕留めたゴブリンの帰りが遅いと警戒されるかも。早めに現地へ向かうか……」

「ミナト、俺……ココニ居テ、イイカ?」


 俺が早めの出発を促すと、グレンはここに残りたいと言った。


「コノ世界デ生マレタ悪魔デモ、同胞ガ死ヌノハ、悲シイ……」

「…………」


 情けない話だが、グレンに言われるまで全く気にめて無かった……。

 魔物や悪魔は討伐の対象だと思い込んでしまっていたが、たった一人で異世界に召喚された挙句に、問答無用で同胞を討つというのは辛いだろう。


「ごめんな。グレンはここで、馬と荷物を見ていてくれ」

「ウム……」

「いいのかい? あたしらだけでやりに行っても良いんだよ?」

「行こう。もう手を出してしまったから、警戒される前に叩かないと面倒になる」


 シャリィは気を使ってくれたが、いくら何でも土壇場で抜けるのはマズいだろう。

 俺はグレンに馬と荷物の見張りを頼んで、予定通りに討伐を決めた。





 俺たちは馬と荷物を置き、装備の最終点検をしてから、徒歩で移動を開始する。


 まずサキさんの装備だが、チェインメイルの上に全身鎧を着て、防寒用に毛皮のコートと毛皮の帽子を被っている。

 メインの武器は魔槍まそうグレアフォルツで、予備に先日買ったロングソードの魔剣。

 補助として右腰にハンドアックスと、左胸部にダガーを取り付けている。

 左腕には大型のカイトシールドを装備しているから、槍の取り回しはきつそうだな。


 全身鎧とカイトシールドには、すでにティナの強化魔法が掛けられている状態だ。


 ティナは古代竜の角の杖と魔力向上の指輪、強化魔法を掛けたラウンドシールドを持つ。

 魔術師のローブには防寒用のコートを重ねて、いつもの三角帽子を被っておしまい。

 器用さゆえに紆余曲折うよきょくせつあったが、最終的には魔法一本で行く事となった。



 ユナは今回、ライオットシールドは持って行かない事にしたようだ。


「背後を取られることも無さそうですし。相手の数を減らすことに専念します」


 まあ、ユナには障壁の腕輪があるし、防寒具の下にはスケイルアーマーも着ているしな。

 背中を守る為に買った盾は不要という事か。

 メインの武器はコンパウンドボウで、予備には黒曜石の魔剣。変わり種にアストラルひかりブレードなる魔道具もあるが、今回は使わないだろう……。


 俺は弓用の胸当てを付けて、腕と足のみハードレザーの鎧を身に付けた。

 革製品でも強化の魔法を掛ければ、その硬さは鉄の鎧を軽く凌ぐ。

 胴体部分に鎧は無いが、弓を持った状態でも使えるヒーターシールドにも強化の魔法を掛けているので、少々矢が飛んできても簡単に弾くだろう。


 俺の武器はカスタムロングボウとサーベルだけだ。

 四人の中では唯一魔法の武器ではないが、俺の真骨頂しんこっちょうは偽りの指輪で使える魔法と、魔法の矢の生成にある。



 シャリィの武器は装飾が施された赤色のロングボウで、表面には塗装をしたような、不思議な質感を漂わせている。

 もちろん魔法の弓だが、余程威力に自信があるのか、予備の武器はないようだ。

 普段は布を巻いて隠しているくらいだから、ミスリル銀製の魔弓まきゅうだろうな……。

 防具には魔道具の腕輪が一つ。

 この腕輪は、ある程度大きな衝撃を受けたときに、腕輪が身代わりとなって壊れるらしい。


 スキニーもサキさんと同じく魔槍まそうを主力にたずさえているが、こちらはショートスピアと呼ばれる柄の短い槍だ。

 予備の武器は魔法の片手剣で、専用の鞘に収めている時間が長いほど切れ味が増すという、なかなかの一品らしい。

 ただし切れ味を増すためには相応の日数が必要みたいで、頻繁に使う用途には向かないそうだ。

 防具は部分鎧だが、これは火や氷のように極端な温度変化に耐性がある魔法の鎧らしい。


 コロッペの方は、エミリアと同じく指輪を介して魔法を発動させるタイプなので、見た目に武器らしきものは確認できない。

 細かすぎて良く見えないが、びっしりと古代文字が刻まれたミスリル銀製の指輪はそれ自体が魔道具で、ティナが付けている魔力向上の指輪の上位版のような物らしい。


「この指輪も相当凄い品だけど、流石に古代竜の角には劣るかな……」


 若干悔しそうな口調になっているところを見ると、俺たちの装備の中では、古代竜の角の杖が最高のお宝みたいだな。

 ちなみに性能を比較すると、杖に比べて指輪の方が遥かに不利という事を始めて知った。


 コロッペも以前は杖派だったが、不注意で魔法の杖を失った苦い経験から、指輪派に転向したそうだ。

 ところでコロッペの防具は、防寒具の下に着ている魔法の服だけらしい。

 それだけでも、ゴロツキが振るう程度の剣では破れないという話だから相当なものだ。



「そろそろ森が開けてくるわよ」

「いよいよか。ここからは声を押し殺して行こう」


 俺たちは一層音を立てないように注意を払いながら、悪魔の集落を見渡せる位置まで歩を進めた。


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