第369話「岩場」
俺たちはキャンプを片付けてから、日が昇ると同時に行動を開始した。
「上空は特に冷えるだろうから、体調には気を付けて欲しい」
「風防代わりに障壁の魔法を出しておくわ」
「ユナはグレンを連れて行ってくれ。どうにもならない時は、二人で対処するんだ」
「わかりました」
俺がティナとユナに今日の作戦を伝えている隣では、シャリィたちも段取りの確認をしている。
「じゃあね、あんたたち、しっかりやるんだよ!」
「任せといてよ」
「今日こそ大物を見つけんとな。正直早く帰りたい」
ユナとスキニーは馬を走らせ、ティナとコロッペは空からの索敵を開始した。
後に残されたのは、俺とサキさんとシャリィの三人だ。
先行する馬はとうに視界から消えているので、土を蹴った蹄の跡を見失ったら、完全にはぐれてしまいそうだ。
まあ、定期的に光の魔法を使って、俺が上空に合図を送る手筈なので、もしも軌道を逸れてしまっても、ティナかコロッペが軌道修正を促しに来てくれる。
「…………」
冬の山林は、静まり返っている。
俺たちが落ち葉を踏み荒らす音、枯れ枝が折れる音、時折、何処からともなく枝の落ちる音。
目を凝らしても見えないが、動物の仕業だろうか?
真冬にも関わらず、この山林には緑が多い。
目に見える範囲で言えば、常緑樹が八割弱といったところか。
歩き始めてから、俺たちは殆ど無言で通している。
本当なら、楽しいお喋りでもしながら歩きたい所だ。しかし、これが結構、後々の体力に響く。
どこまで歩くか見当も付かないので、今は何も考えずにひたすら前進だ。
──それにしても背中の荷物が重い。
本来は二頭の馬に全ての荷物を載せて、四人が交代で徒歩と乗馬を繰り返せば問題なかったが、シャリィたちと行動を共にすることで、そのサイクルが崩れた。
空から索敵を担当するコロッペが荷物を減らしたのと、スキニーが白髪天狗に乗ることで、彼が担当する荷物の量だけ、徒歩担当の俺とサキさんに荷物が回ってきたのだ。
サキさんはともかく、手ぶらで歩く気分でいた俺にも荷物が回って来たものだから、文句の一つも言いたくなる。
背負い袋のベルトが肩に食い込むくらいの重さなので、相当な量の荷物が詰まっているのだ。
「重い……」
「一番軽いのでそれだわい。我慢せい」
背中と両肩に荷物を持ったサキさんに言われると言い返せないが、重い物は重い。
山林の奥地を進んでいると、倒木や水溜り、窪みのような地形に阻まれる事もある。
落ち葉で地面がフワついている場所などは特に歩きにくい。
「少し休もう」
日の出から歩き始めて数時間、視界から木々が消えたかと思うと、地面が岩で覆われている空間に出た。
「何だか気味の悪い場所だね……」
シャリィの言う通り、大きな岩がゴロゴロと転がっている不気味な場所だ。
幅は大き目の川ぐらいあり、それがずっと奥まで続いている。
俺は精霊力感知を使って、ゴーレムでも潜んでいないか確認をするが、感知できる範囲内では何も感じなかった。
「地面の下に水が流れとるの」
やせ我慢をして歩いていたのか、真っ先に荷物を置いて岩の上に寝たサキさんが言う。
俺も適当な岩に耳を当ててみた。
「……結構な勢いで流れてるな」
この地下水脈が、昨晩キャンプした湖まで流れているんだろうか?
水の流れる音から察するに、相当な水量があるように思う。
しかしまあ、この岩場の横をずっと歩いて行くんだと思うと、これから休憩するはずなのに、早くも精神的な疲労感に襲われた。
「…………」
まあいいや、お茶でも沸かしながら、一時間くらい休んで行くか……。