第368話「協力」
──目が覚めると、朝になっていた。
朝というには少し早い時間かな? 辺りはまだ、薄暗い闇に包まれている。
薪が尽きても燃え続ける焚火の前では、スキニー、コロッペ、サキさんの男三人が倒れている。
この焚火は、魔法の力で燃え続けているのだろうな。
酒のつまみを咥えたまま寝ているところを見るに、全員寝落ちした様子だ。
つまり、誰も夜の番をしていなかった訳だな。
危ないなあ……。
ここは水場だから、林の中より危険だと思うんだけど。
まあ、過ぎてしまった事は仕方がない。
酔っ払いに任せてはだめ。次からは気を付けよう。
「あら、早いのね……」
俺が朝の支度をしていると、ティナも起きてきた。
「昨日はいつもより早めに寝たせいだ」
酔っ払いとは少し離れた場所で朝食の準備をしていると、ユナもテントから這い出してきた。
「今日はイブですね」
「元の世界はクリスマスか……」
俺たちがこの世界に来て、およそ四カ月と半月が経つ。
今頃元の世界では、飾り付けをしたイルミネーションを背景に、お馴染みの曲が流れている事だろう。
浮かれはしゃぐ者たちに、冷ややかな目線を送ることはもうない。
その代わりに、何もなしというこの世界も、これはこれで寂しいものだな。
食事の準備ができた頃には、香ばしい匂いに誘われるように、残りの連中も目を覚ました。
「サキさん、今日はクリスマスだな」
「捨て置け。良き思い出が一つもない」
せっかく教えてやったのにこれ。可愛げのないやつだ。
「シャリィたちは、これからどうするんだ?」
「そうさね。新しい魔法の装備を試すのが目的だから、何か適当な魔物を見つけたいのだけれど」
「見つけようとすると、なかなか出て来ないものでな」
「そうそう、要らない時には湧いて出るくせに。腹立たしいったらありゃしない」
「僕も空から探しはしているんだけどね……」
シャリィたちの目的は、新しい装備でモンスターを試し切りすることだ。
できればそれなりの「強敵」で試したいからここに来たわけだが、五日ほど探しているにも関わらず、めぼしいモンスターと遭遇していないらしい。
「アンタたちは、何しにここへ来たんだい? 金かい? もしも賞金が目当てなら、魔物探しを手伝ってくれない? あたしらは試し切りさえ出来れば満足して帰るから、倒した魔物はアンタたちにあげるよ」
少し苛ついた表情を浮かべながら、シャリィが申し出る。
俺たちの目的は、半分は物見遊山でここに来たようなものだ。
なので、遺跡組の実力を見せて貰えるのなら、それはそれで参考になる。
ティナもユナもサキさんも、特に反対する素振りがないので、俺はその申し出を引き受けることにした。
「まず進む方向を決めてから、馬二頭が並列に先行する。その左右で円を描くように、ティナとコロッペが上空から索敵。そうすればかなり広い範囲を調べられるはずだ」
「それはいいね。担当空域を決めて集中できるなら、索敵漏れも減りそうだよ」
「うん。今日は街道には出ずに、このまま北西へ向けて……」
上空から索敵できるのは、ティナとコロッペの二人だけだから、空の担当は魔術師の二人に任せるしかない。
二頭の馬で先行するのは、純粋に乗馬の上手さから決めることにする。
ハヤウマテイオウはユナに任せるのがベストだが、白髪天狗はスキニーに任せた。
正直、俺やサキさんは足場の悪い場所での乗馬が上手くないので、御するのに精いっぱいでは索敵もままならないだろう。
俺とサキさんとシャリィの三人は、先行する馬の後追いである。