第367話「寝たもの勝ち」
風呂が沸いたので、夕食の後片付けをするあいだ、先に男性陣が風呂へと突撃した。
お湯の沸かし方はコロッペに伝えたので、後は彼が適当にやってくれるだろう。
「……男ども、随分と遅いじゃあないか」
男の方が早く済むという先入観から先に入って貰ったわけだが、林の奥では男三人のキャッキャウフフな奇声が聞こえるばかり。
こんなことなら、先に俺たちが入れば良かったと後悔し始めた頃になって、ようやくスキニー、コロッペ、サキさんの三人組が戻ってきた。
「男のくせにチンタラ入ってんじゃないよっ!」
「アーーッ!」
待ちくたびれた腹いせに、シャリィがコロッペのケツを思いっきりつねる。
それを見ていたスキニーは、サキさんを盾にして難を逃れた。
風呂場まで行くと、メインの浴槽の隣りには、小さな水風呂が作られていた。
恐らくサキさんの入れ知恵で、コロッペが作ったんだろう。
時折聞こえてきた三人の奇声は、水風呂に浸かった時のものだな。
どんなものかと手を入れてみたが、とても入ろうとは思えない程の冷たさだった。
「バカですね」
水風呂の水温を確かめたユナが、呆れた顔で言う。
しかし、コロッペが作った水槽の表面処理は、なかなかに仕上がりが良い。
古代遺跡を専門にしているだけあって、遺跡の内壁を参考にしたのだろうな。
『………………』
熱い湯舟に浸かっていると無言になる。
交代で馬に乗っていたとはいえ、二日間歩いた疲れを癒そうと、俺は足を伸ばした。
「ふあぁ。こんな山奥でお風呂に入れるなんてね。湯沸かしにはコロッペも挑戦したけど、なかなか上手く行かなかったのよ」
魔法の火を水中で燃やしてもお湯は沸かせず、魔法の火の玉を水に投げれば爆発を起こすなど、火の魔法でお湯を沸かすのは難しいらしい。
そういえば、エミリアも無理だと言ってたっけ……。
まあ、俺やティナでも火の魔法で直接お湯を沸かすことはできなかったけど。
だから回りくどい方法で湯沸かし器を作ったし、今回も火の魔法とは直接関係がない、武器強化の魔法でお湯を沸かした訳だ。
「次からはコロッペがお風呂を沸かしてくれるよ」
「そりゃ楽しみだねえ……」
シャリィは少し意地悪そうな笑みを浮かべた。
「ドライヤーはどうしようか? 結局、召喚できなかったわけだが」
あれから俺も髪が伸びてきて、気が付けば肩よりも長くなっている。
濡れた髪で風邪を引く心配よりも、温風で乾かさないと、髪の付け根がふわっと立たない事の方が気に掛かるのだ。
「ハンドアックスの熱を風で送るしかないわね……」
「焚き木から送風すると臭くなりますし、魔法の熱源を使いたいですね」
湯沸かし器とドライヤーを家から召喚できない理由は謎のままだが、ドライヤーの方はまた日を改めて、小型化できないかを一考する必要があるな。
現状では薪ストーブの熱を送風する仕組みなので、荷馬車が無いと運べない重さだし。
全身をリフレッシュした俺たちは、残り湯で洗濯を済ませた後、お風呂を解体してからキャンプ地へと戻った。
ドライヤーに関しては、強化の魔法で熱くなったハンドアックスに魔法の風を通すことで、温度のムラはあるものの、何とか全員の髪を乾かすことにも成功した。
現実世界のドライヤーは熱線に風を通して温風を作っているが、これと同じ原理だ。
まあ、今回は緊急の措置なので、幾分やり方は乱暴だが……。
「今日は気持ちよく寝れそうだな」
焚火の前では男三人が酒盛りをしている。
ここは最初に寝たもの勝ち。夜の番はこいつらに任せてしまおう……。