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第364話「駆除①」

 俺はティナと二人でテントから出ると、そのまま林の中へと分け入った。


「遅くなっても困るが、発見しないと行く意味がないからな……」

「そうね。取りこぼさないようにするわよ」


 俺たちは手はず通り、まずは浮遊の魔法で宙に浮く。

 そして互いの体を掴んで、二人三脚のような体制になった。


「木の枝をかわせるギリギリの高さを飛んで行こう。視界を広く取りたい」

「わかったわ」


 本当なら木よりも高い高度を保ちたいが、眼下の枝が邪魔をするようでは都合が悪い。

 俺とティナは、林の中を蛇行だこうしながら、湖の奥へと進む。





 俺たちがキャンプ地に選んだ湖は、それほど大きな湖ではない。

 宙に浮いて小走り程度のスピードを出していると、あっという間に湖を過ぎてしまった。


「何か反応はあった?」

「ここまでにそれらしい反応はないな……」

「そう。私の方にもなかったわ……」


 かなり本気で生命の精霊力を探していたのだが、ここまでに大きな反応はない。

 ティナの方も可能な限り精霊力感知を使っていたようだが、同様だ。

 しかし、それから数分も立たないうちに、大きな生命力の塊を感知できた。



 ──地面全体が生命の精霊力に覆われているような感覚。


 湖を抜けると、緩やかな下り坂が続く。

 それを下った先には、遠浅の沼地が広がっていた。


 巨大フナムシのような姿をしたアーマード・ドラゴンの大群は、沼地の泥の中でひしめき合うようにして生息していた。


「うわぁ……」


 宙に浮いているから安全だとわかってはいても、これには引いてしまう。

 林の中を飛んでいた時は、日本の山中さんちゅうに居るような気分さえ感じたものだけど、こうなってしまうと明らかに異世界の光景だ。


 ざっと数えただけでも、昨日遭遇した数の倍はいると思う。

 中には畳一畳のサイズを軽く超える個体も混じっていた。

 基本的には動かないものの、時折ヘドロをかき分けながら動いては、隣りの個体にぶつかって暴れるという動作を繰り返す。

 その暴れっぷりは圧巻あっかんで、とてもじゃないが武器を持って近付こうとは思えない。

 ユナとサキさんは置いてきて正解だったな。

 こいつらが本気で走ると、魔法の矢なんて当てられんだろうし。



「どうしようか?」

「20体以上いるわね……。初めに大きい魔法を使うから、ミナトはれたのを片付けてちょうだい」

「わかった。それで行こう」


 大きい魔法がどの程度の威力かは知らないが、最初に大砲を打ち込んでから各個撃破に移るわけだな?

 ここは持っているいかづちの精霊石を全て取り出しておこう。

 弾切れの度にポケットの中をまさぐっていたら、まんまと逃げられてしまうからな。


 昨日は基本に忠実な落雷魔法で攻撃したが、それだと一瞬で地面に拡散して、アーマード・ドラゴンの内臓を焼き切るにはいたらなかった。

 それを踏まえた上で、今回は対象に電撃がとどまるようなイメージで攻撃しようと思う。

 なるべく有効時間を長くして、生身の部分が蒸発するだけの時間を稼ごうという考えだ。


 偽りの指輪で使える魔法は、どう頑張っても精霊石一個分の威力しか出せない。

 いや、それでも十分過ぎるほど強いのだが、足りない部分は工夫が必要になる。

 沼地のヘドロに浸かりながら解体作業をするなんて、考えたくもないからな。





 攻撃の手順を確認し合った俺とティナは、高度を上げて全体が見渡せるようにした。

 沼地の中には大きな木が生えていないので、昨日よりはやり易い地形だ。


「開始のタイミングはティナに任せる。こっちはいつでも大丈夫だ」

「わかったわ」


 ティナは古代竜の角の杖に意識を集中しながら、目を閉じて精神を統一させた。


「…………………………」


 ティナの足元、アーマード・ドラゴンから見れば頭上になるが、いくつもの光が空中に生成され始める。

 プラズマ球のようなそれは、最初はバレーボール大のサイズで発光しているのだが、やがて収束し、野球ボール程のサイズに縮んで輝きを増した。


 周りの大気が震えているかのように、低く唸る音が響く……。


 空中に浮いているにも関わらず、小刻みに揺れる振動が全身を伝わる……。


 いかづちのエネルギーを凝縮させた光の球が、大気を揺らしているのだ。



「…………」


 ティナはゆっくり目を開くと、古代竜の角の杖を足元に振り下ろした。


 一瞬、ピンポン玉くらいのサイズにまで凝縮ぎょうしゅくされた数十個のプラズマ球から、一斉に落雷が起こる。

 その音は拍子抜けするほど地味な、ジーとか、ブーンと言った発振音に近い。

 しかし、耳を塞いでいても鼓膜こまくを突き抜けるような不快感があり、短時間でも耐えられない雑音だ……。





 白と紫に発光する落雷のエネルギーは、とても凝視ぎょうしできる明るさではないが、俺は目を閉じたまま、魔法から逃れたアーマード・ドラゴンがいないかを探る。


 目を閉じていても明るく感じる中、意外にも精霊力感知は正確に働いているようだ。


 魔法の範囲外にいる二体が逃れた……。

 いや、逃げる途中で触手のようにうねる落雷に捕まり、生命の精霊力が蒸発した。


 それとは別に、湖側の方向に逃げ始めたのが三体いる。

 これは俺の担当だろうな。


「………………」


 ……水とヘドロを伝って感電でもしたのか、逃げる動きにキレがない。

 俺はアーマード・ドラゴンの胴体部分を数秒の間、生き物のようにまとわりつくいかづちで攻撃した。


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