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第363話「湖畔の冒険者②」

「フンッ、お嬢ちゃんの男かい? まあいいさ。とにかく、湖の奥には行かないこと。怪我をしたくなかったらね」


 サキさんが俺の後ろに隠れたせいで、あらぬ誤解を与えたようだ。

 俺としては心外だし、サキさんもノンケだなんて思われたらプライドが傷付くだろう。

 出来れば誤解は解いておきたいが……。


「ああ、奥の方はちょっと凄いことになっていたから、キャンプをするつもりなら隣りに設営するといいよ」


 水辺で洗濯をしていた仲間の男が、木の枝に張ったロープに洗濯物を干しながら言う。

 見ず知らずの冒険者たちに身構えていた俺だったが、生活感のある一面を見ると、途端に親近感が湧いてきた。


「じゃあ、隣りにテントを張らせて貰おうか」

「む、むう……」


 白髪天狗の陰に隠れて抗議の眼差しを向けるサキさんを無視して、俺は名前も知らない冒険者の隣でキャンプをすることに決めた。





 隣り同士になったという事もあって、俺たちは軽い自己紹介を済ませた。


 三人組の冒険者は、俺たちに声を掛けてきた女……シャリィがリーダーを務めている。

 跳ねっ気のある長い金髪をなびかせて、勝気かちきな性格があらわれているような、自己主張の強い香水の匂いが特徴だ。

 酒場に入り浸っている方が似合いそうな、今どき珍しいお色気ムンムンな雰囲気をかもし出してはいるものの、厚く着込んだ防寒具が全てを台無しにしている。


「寒いのは苦手なんだよ。あたしを抱く度胸のある男はいないのかい?」


『………………』


 この場に居る男全員が下を向いたので、シャリィはいそいそと焚火の前を占拠した。



 焚火の後ろで食事の支度をしているのは、スキニーと言う名の背の高い男だ。

 2メートルには届かないと思うが、その背丈は190センチを超えていると見た。

 長身もさることながら、褐色の肌に赤い短髪の組合せは珍しい。

 異国の冒険者だろうか? オルステイン王国ではまず見かけない色をしている。


「珍しいだろう? 両親がベル王国の出身でな。実家はマラデクの町にあるんだが……」


 聞いたことのない国だが、どうやら両親の代で移住してきたらしい。

 ところで、スキニーが作っているスープからは、何とも言えない生臭さが漂っている。

 大丈夫なのか?



「この時期は水がこたえるね……」


 最後の一人、洗濯物を干し終わったコロッペが、手をパタパタと振りながら戻ってきた。

 ちなみに『コロッペ』とは、シャリィが付けた愛称だ。

 名前が長くて覚えられないことに腹を立てたシャリィが、その場の思い付きで付けたらしい。

 気の毒だと思ったが、当の本人は気に入っているそうだ……。


 このコロッペ、見た目は小太りで頼りない顔つきの男なのだが、実は魔術師だったりする。

 魔法の杖を取り出すと、真冬の冷水で赤くなった自分の指を癒し始めた。



 パーティーの中に魔術師がいるかどうかで、冒険者としての能力に越えられない壁が出来ると言われている──。


 シャリィたちは、夏場はオルステイン王国の北西にある遺跡群で稼いでいるらしい。

 いわゆる「遺跡組」と呼ばれ、冒険者の中でも上位に位置する者たちだ。


「普段はこんな場所には来ないんだけどね。今年は装備を一新したから、その威力を試したいってシャリィが……」


 シャリィに気付かれないように、コロッペが耳打ちする。

 なるほど。

 新しい武器の試し切りがしたいと、ワガママを言うシャリィの姿が目に浮かぶようだ。


「ミナトさん、おしゃべりはそのくらいにして、とりあえずテントを張りませんか?」

「ああ、そうしよう」


 俺はユナにかされて、サキさんと二人でテントを張る。

 昨日もやった作業なので、今日は少しだけ早くできた。





 一応、キャンプの設営は済んだが、まだもう暫くは活動できそうな時間がある。


「これから俺とティナの二人で、湖の奥を見に行こうと思う」

「大丈夫なんですか?」


 俺たちは四人でテントの中に引きこもり、プチ作戦会議をしている。


「どちらにしても、アーマード・ドラゴンが相手では、魔法以外に対処できんからな」

「オレモ、留守バンカ?」


 袋の中から頭だけを出したグレンが言う。

 一応、他の人間に見つかるとマズい事は自覚しているようで、テントの中に入るまで顔を出さなかったのは偉い。


「グレンも留守番を頼む」


 昨日は口から火を噴いたグレンだが、本来ならまだ火を噴ける体格ではないからな。

 グレンが噴いた火でもアーマード・ドラゴンを倒せるみたいだが、昨日のようなまぐれ当たりには期待したくない。

 一応、レスターの命令で使い魔と言うことにはなっているけど、暗にエミリアが召喚した責任を取れと言われたようなものだから、保護者としては連れて行けない。


「………………」


 サキさんは何か不満があるのか、隅っこで体育座りをしている。

 戦力外通知は受け入れがたい屈辱だが、巨大フナムシは見るのも嫌と言う、激しい心理戦を繰り広げているのだろう。



「今回の作戦だが、まず、俺とティナの二人で林の中に入って、そこから魔法で飛びながら移動する。そのさい、精霊力感知をレーダーの代わりにして、地面に隠れたアーマード・ドラゴンを探す予定だ」

「四人同時は難しいけど、二人なら林の中でも飛んで行けるわ」

「アーマード・ドラゴンを見つけたらどうするんですか?」

「宙に浮いたままか、そこら辺の木の上から魔法を使って倒そうと思う。全滅させたら昨日みたいに、家の裏の河原に外骨格をテレポートさせて完了だ」


 今までは全員で現地に向かう方針だったが、林の中を高速で動き回る相手に魔法の矢を放つのは不可能に近い。

 今回ばかりは今までと状況が違う。

 百発百中でいかづちの魔法を放てる俺とティナの二人で行くことに決めた。


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