第353話「エルフとドワーフ」
街道を暫く北上していると、山林側から冒険者らしき風貌の二人組が歩いてきた。
互いに近付くにつれて、エルフとドワーフの二人組だとわかる。
「エルフとドワーフだけでも珍しいのに、そのコンビなんて、ある意味凄いな」
「丁度いいです。あの人たちから話を聞いてみませんか?」
「わしが聞いてくるわい!」
白髪天狗に跨っていたサキさんは、一人で先に行ってしまった。
まあ、恐ろしく気合の入った恰好をしているので、一人の方がナメられずに済むだろう。
俺とティナとユナが追い付いたのは、それからすぐのことだ。
「──アーマード・ドラゴンはやめておけ。倒せば金になるが恐ろしく効率が悪い。もちろん、見掛けたら情報交換しとる。もっとも、そこへは近付かないようにするためだがな! ふぁっはっは!!」
ドワーフのおっさん、豪快な笑い。
明らかに魔法の品だとわかる重厚な槍を両手で持ち、胸当ての鉄板も重そうだ。
背中に背負った荷物なんて、本人よりも大きい。
そのどれもが、年季の入った物だとわかる。
雰囲気だけでベテラン冒険者のオーラを解き放っていた。
「私たちはこれで切り上げる予定なので、詳しい話は聞いてませんが、軍の野営地に行けば、情報が得られると思いますよ……」
もう一人のエルフは、隣りのおっさんとは対照的な美少年だ。
人当たりは柔らかいのに、顔つきが笑っていないので、どうにも近寄りがたい。
服の下に厚手のチェインメイルを着込んでいるのだろう、少し太って見える。
こちらはロングソードと、小さめのラウンドシールドを装備していた。
……恐らくこれも、魔法の剣と盾だろうな。
「ところで、あなた方は初めて見る顔ですが……」
「うむ。一週間ほど山籠もりの予定である」
サキさんが無駄に威張って答える。
するとエルフの美少年は、機嫌を損ねたような顔つきで、こちらを睨んだ。
「街道の付近をうろつく程度なら大丈夫だと思いますが、くれぐれも奥地には入らないように。特にその、青い髪の女、君は駄目だ。──その隣にいる金髪の娘も、遊び半分なら今すぐに引き返した方がいい」
「あの! ちょっと……」
エルフの美少年から意味不明な否定をされたユナが、咄嗟に反論をしかけた。
俺が手で制すと、ユナは渋々引き下がったが……。
やはり見た目で判断されたか?
サキさんはガッチガチの戦士に見えるし、ティナの方は知ってる人が見れば、魔術学院お抱えの魔術師だとすぐにわかる。
片や俺とユナは、見た目だけでは駆け出しの冒険者とさほど変わりがない。
大方、ティナとサキさんのコンビから、装備一式を買い与えられた新人みたいに思われているのかもな。
ここで反論したって仕方がない。
このエルフに俺たちの実力をわからせたところで、得るものは何もないのだから……。
「まあ、気を付けますので……」
俺がやり過ごそうとしたら、そのエルフは一人でぶつくさと何かを言い始めるが、連れのドワーフに宥められて、やっと踵を返した。
──初っ端から、何とも言えない気分になってしまった。
結局、自己紹介もしないままに別れたエルフとドワーフの冒険者だが、あの二人は明らかにベテランだったので、色々と思うところがあったのかもしれないな。
俺が後ろを振り向くと、エルフの男と目が合った。
なんで向こうも振り向くかな? そんなに俺が気に入らないのか?
非常に気まずい……。
「ミナトさん、もう、急ぎますよ!」
少しイライラした様子のユナに急かされて、俺は足を速める。
それから暫く北上していると、木々の立ち並ぶ森の中に入った。
エルレトラ公国は風が強い。
木の間を通り抜ける風が、獣のような唸り声を上げる。
そうかと思えば、今度は口笛のように尖った音を響かせた。
「不気味ね。何だか怖いわ……」
ここがまだ、人間の管理する所ではないという不安が、余計に不気味さを掻き立てている。