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第351話「装備の再確認」

 翌朝、俺たちはいつもより少し早めの朝を迎えた。

 昨日の朝からパラついていた雪は、今朝にはもう止んでいる。

 幸い、除雪をするほどの降雪ではなかったようだ。


 顔を洗って広間に戻ると、エミリアの姿が見えた。

 今朝はやけに早いなと感じていたら、エミリアは一枚の羊皮紙ようひしを取り出す。


「これを持って行ってください」

「なんだ? ……新しい魔法陣か?」


 受け取った羊皮紙を広げると、そこには複雑怪奇ふくざつかいきな魔法陣と共に、意味不明な文字列が書かれていた。



「古代の魔術師が編み出した技法で、任意の魔法を封じておく魔法陣です」

「へえ……」

「一度だけしか使えませんが、この魔法陣を破るとテレパシーの魔法が発動します」

「そんなに便利な物が作れるのか」

「とても難しい作業なので、そう簡単に作れるものではありませんが……」


 羊皮紙ようひしに描かれた魔法陣を見ていると、複雑すぎて気持ちが悪くなる。

 これを丁寧に書き上げたのなら、一日がかりの作業になるだろう。


「私は同行できませんから、もしも何かあったときには、これを破いて連絡してください」

「ありがとう。いよいよヤバくなったときは使わせて貰う」

「そうしてください。あと、テレパシーの持続時間は三分が限度です」

「三分もあれば足りるだろう。伝えたい事を整理してから使えばいいな……」


 エミリアにしては、やけに慎重だな。

 前回の話では、そんな素振りを微塵も見せなかったのに。





 俺とエミリアが話していると、ティナが朝食を運んできた。


「エミリアは来ないのね? ご飯はどうするの?」

「今日は帰って来ないんですか?」

「何処とも知れない山林を歩くんだ。元の場所に戻れなくなるから、暫く家には帰って来ないぞ」


 俺が説明すると、エミリアの顔色は次第に悪くなった。


「…………」

「いや、口をパクパクさせても、無理なものは無理だ」


 結局、今日のお昼にとティナが作っておいた弁当は、すべてエミリアがお持ち帰りすることで事なきを得た──。





 エミリアが帰った後、家の片づけを終わらせた俺たちは、装備の再確認をする。


「エミリアさん、四人分のお弁当を持って帰りましたね……」

「サキさんのは二人前だからな。あんなに持って帰ってどうするんだろう」


 保護の魔法をかけておけば腐らないはずだが、同じ弁当を四つも食べて飽きないのだろうか?


「弁当はもういいわい」

「だな。じゃあ、装備を確認するぞ」

「うむ。エルレトラの気温なら、鉄が張り付くこともないんでの。わしはチェインメイルに全身鎧、その上に毛皮のコートだわい」

「鉄兜はなしか?」

「最近は耳がかゆくなるんでの。毛皮の帽子にするわい」


 耳が冷えると痛痒いたかゆくなるよな。


「武器は魔槍グレアフォルツと、昨日うた魔剣を持って行くわい」

「早速持って行くんですね。黒曜石の魔剣は要らないんですか?」

「うむ。そっちは小振りで、少し軽いからの。やはりわしの手には、はがねのロングソードが合うわい。あとは、ハンドアックスを右腰に、ダガーは鎧の左胸部きょうぶに固定してやったわい」


 左腕にカイトシールドまで装備したサキさんは、一体どこの戦場に行くのかと言わんばかり。

 非常に気合の入った格好となった。


「弓は持って行かないの?」

「肩に掛けようにも、弦が毛皮に絡むんでの。今回は諦めるわい」


 まあ、仕方ないか。

 サキさんには前衛として、本気でヤバいモンスターを食い止めて貰う役目があるからな。



「私の方は、魔術師のローブにコートを羽織って、いつもの三角帽子で終わりね」

「そういえば、もう籠手は使ってないんだな」

「ローブの袖と被るから、もう使わないと思うわ。学院指定の魔法の杖と、古代竜の角の杖、魔力向上の指輪に、昨日買ったラウンドシールドを持つ感じね」


 ん? 盾だけ持って、武器らしい武器は持たないのか?


「実のところ、直接魔法を使う方が早いから、今回は弓も必要ないわよ」


 今までのティナは、直接攻撃的な魔法を使うことは避けていたように思うのだが、今回はこちらから打って出るという事もあって、流石に覚悟を決めてくれたのだろう。



「私は下にスケイルアーマーのベストを着ているだけですからね。あとは毛皮のコートと帽子を被って、ライオットシールドは背中に背負います」


 なるほど。

 コンパウンドボウを手に持っていると、盾は自然と背中に回ってしまうか。


「でも安心して下さい。今回は新調した障壁の腕輪もありますからね。暗視のイヤリングもありますし、背中は盾で守られていますから、奇襲されても大丈夫です」


 おお……、何だか急に心強くなったな。


「今まで一度も出番のなかったダガーはやめて、アストラルひかりブレードにしました。それから、サキさんが要らないって言った黒曜石の剣は私が貰うことにします。いいですよね?」

「よかろう」


 サキさんが勝手に即答した。

 一番高かった魔剣なのに、いきなりユナのサブウェポンか。

 まあ、現時点で誰も使わないのなら、それもいいだろう。


 アストラルひかりブレードは、剣の柄から光の刃を発生させる魔道具だ。

 実体を持たないものだけを切り裂くらしいが、はたして……。



「俺は腕と足だけハードレザーの鎧を付けて、胴体は無しにする。代わりに胸当ては付けるけど、やっぱり鎧の胴体は無理だな」


 少しでも細く見せようと思って、コートのサイズに余裕を持たせなかったのは失敗だった。

 サキさんのコートは少し大き目のを買ったから、鎧の上からでも着れるんだが。

 それでも今回は、防寒具の代わりに鎧を装備できるのだから、幾分状況はマシだろう。


「武器はカスタムロングボウとサーベルで、サキさんと同じハンドアックスは右腰に差しておこうか。ヒーターシールドも右腕にしておこう……」


 俺の盾はユナのライオットシールドより小型なので、矢を引く右腕に付けておけば、何とか弓と併用できそうだ。

 弓を持つ左腕に付けてしまうと、盾が邪魔をして視界が塞がるからな。



「グレンの方は大丈夫か?」


 俺は、大きな麻袋から頭だけを出しているグレンに声を掛けた。


「大丈夫ダ。剣ト、リピタボウデ、戦エルゾ」


 昨日買った子供用のショートソードを抱えて、レッサーデーモンのグレンは胸を張った。

 サキさんが天狗のような服を着せているせいで、いよいよそれらしく見える。


 しかし、見た目はともかく、まだまだ幼児サイズのグレンには前衛を任せられない。

 グレンの主な役割は、上空からリピーターボウを撃つことだろう。

 リピーターボウの威力はお察しだが、専用のクォーレルには火の矢を使っている。

 魔法の火が直径3メートルの空間を焼き尽くすのだから、この火力はバカに出来ないぞ。


 問題は、ある程度開けた場所でしか使えないことくらいだ……。


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