第347話「本気で魔道具を買う!」
整理整頓の行き届いていない魔道具屋の店内では、各自が思い思いの方法で魔道具を物色している。
「あんまり高いのは無理だけど、役に立たないのも困るから、よく考えて選んでくれ」
……俺も何か探さないとな。
エミリアが持っているような、暑さや寒さを軽減する魔道具ってないのかな?
「それが入ってきたら、まずは自分で使うねえ……」
俺が独り言をボヤいていると、魔道具屋の店主は、もっともな意見で答えた。
オルステイン王国の冬は手厳しい。
王都を境にして、それより北の土地は、日中でも極寒の世界になる。
各々商品を漁っては、ああでもない、こうでもないと言い合っている俺たち。
贅沢な悩みだが、商品が多すぎるのも困りものだ。
一応、商品の魔道具には、値段以外にも効果の説明が書いてある。
しかし効果の説明が雑すぎて、とにかくいい加減なのだ……。
そこで俺は、魔力感知ができるティナとエミリアの二人に、良さげな魔道具を見つけて貰うことにした。
より魔力の強い魔道具を見つけ出し、他より値段が安ければコスパ最強作戦だ。
すでに当初の予定を忘れているような気もするが、この状況では仕方がない。
積み上がった木箱の中身を確認するだけでも重労働。
いくらティナが浮遊の魔法で持ち上げても、一向に間に合わないレベルだ。
「この護符はいいと思います」
「どれどれ」
なんて言いながら、俺が受け取ったところで、詳細は不明なんだよな……。
エミリアから手渡された護符は、名刺くらいの大きさだ。
そこそこしっかりとした厚みがあって、触った感じでは動物の革だと思った。
この護符には、両面に複雑な魔法陣が描かれている。
値段は銀貨1万2000枚で、効果は「重量変化」とだけ書いてあった。
相変わらず雑な説明だなあ……。
エミリアならある程度の効果を理解していると思うから、これはお買い得なのだろう。
「私はこの腕輪と、こっちのイヤリングにしようと思います」
ユナは買うことが前提なのか、直接店のカウンターに魔道具を置いた。
どこかで見たような腕輪の説明には「障壁効果」とある。
これは、以前壊れた障壁の腕輪と同じ魔道具だ。
全く同じ物が入荷する事もあるんだな。
そしてもう一つの魔道具は、小さな宝石の付いたイヤリングだ。
石の種類は知らないが、青い石の中にビー玉のような模様が浮かんでいる。
恐らくは、魔法の力で加工された宝石なのだろう。
「効果は──暗視?」
「このイヤリングを付けて暗闇を見ようとすると、暗さを感じなくなるんです」
暗視スコープかな?
いや、暗さを感じないということは、スターライトスコープに近いのかな?
少なくとも、赤外線ではなさそうだ。
興味が沸いてきたので、試しに俺も身に付けてみた。
「どうです?」
「うん。自分の手で目を覆っても、掌の色が見える……」
次に俺は、店のカウンターの奥にある、暗くて見えない部分に意識を向けた。
意識を向けた瞬間、奥の方へと続く通路がしっかりと見えるようになった。
なるほど、暗い部分にだけ作用するのか。
これなら明るい場所に出ても、目が潰れるような墓穴を掘らなくて済むな。
──このイヤリングは、銀貨3万6000枚。
特にデメリットもない効果を考えたら、このくらいの金額はして当然だろう。
ティナとサキさんの方は、在庫の魔剣を数本並べて、どれが良いかを協議中だ。
「やはり、魔槍グレアフォルツが手に馴染むからの。大剣とは両立できんので、今のロングソードを魔剣に切り替えようと考えておる……」
サキさんは、どちらかと言えば魔道具に頼るのが嫌いなタイプだ。
なるべく自分の実力で戦いたいと、頑なに魔剣の購入を拒む一面があった。
そんなサキさんでも、魔法の武器しか通用しない化け物と対峙することで、最近は魔剣の入手にも積極的になりつつある。
「今まで不自由したからの。ここでは郷に従うことにしたわい」
俺としては素直に歓迎したい心変わりだと思う。
──魔剣の候補はいくつかあったが、最終的には二本まで絞り込んだ。
あれこれと話し合いを続けるうちに、結局五人で取り囲んでしまっている。
「私はこちらの、黒曜石の魔剣が良いと思います」
「私もそうね。少し小振りだけど、エミリアと同意見だわ」
ティナとエミリアの魔女っ子チームに対して……。
「ガラスみたいな素材は信用できん。無難に金属製の魔剣が良いと思う」
「ロングソードと同じ長さの刀身ですから、こちらにするべきです」
俺とユナは、あくまでも無難な仕様の魔剣にこだわった。
「これ以上は、実際に化け物を切り捨てるまで判断できんわい!」
「それならもう、二本とも買ってしまえ。大討伐ならすぐに試せるだろう」
「うむ!」
武器の使い勝手は、戦闘で使ってみないと分からないことの方が多い。
なので、やむを得ず両方買うことにした。
サキさんに選ばれなかった方の魔剣は、他の誰かが使えばいいだろう。
それなら無駄にはならんはずだ。
今回買った魔道具は、以下の通りになる。
重量変化の護符が銀貨1万2000枚。
障壁の腕輪が銀貨8000枚。
暗視のイヤリングが銀貨3万6000枚。
黒曜石の魔剣が銀貨9万5000枚。
金属製の魔剣が銀貨12万枚。
合計で、金貨5420枚だ。
今回は結構な額を使ってしまった……。大丈夫だろうか?
支払いの時、魔道具屋の店主は、店先の除雪費用だからと言って、金貨20枚分を割り引いてくれた。
買い物の額が大きいので目立たない数字だが、金貨20枚と言えば、依頼一回分の報酬額と同じくらいだ。
この後まだ立ち寄る場所があるので、結構ありがたかったりする。
俺たちは店主にお礼を言って、とりあえず魔道具屋を後にした。