第342話「公都エルレトラ③」
冒険者の宿の一階に下りた俺は、依頼書の貼ってある掲示板を覗いてみた。
「………………」
依頼の数はそこそこあるのだが、その内容は商会所有の倉庫で積み下ろしの労働作業とか、その他、有象無象の雑用がちらほら……。
一応、物資輸送の護衛や、乗合馬車につける護衛の依頼もあるけど、俺たちがイメージするような、冒険者らしい依頼は見当たらないな。
まあ、現実の冒険者なんて、その大半が雑用混じりの何でも屋みたいなものだし、特におかしな部分はないのだが。
でも、もしかしたら、表に出していないような依頼があるかも知れない。
新顔は断られるかもしれないが、宿の主人に聞くだけ聞いてみるか……。
「すみません、公都は初めてなんですけど、探索とか調査とか、化け物を討伐する依頼とかはないんですか?」
「いやー、この街で探索と調査は滅多に出てこないな。モンスター相手に暴れたいだけなら、兵隊の詰所に行くといい。今の時期なら好きなだけ狩れるぞ」
あれれ。
街で兵士のおっさんが言ってた話は、本当だったのかな?
「今年は王都で食いっぱぐれた冒険者が少ないのか、とにかく人が足りないらしい。今日も朝から、公国の兵隊さんが勧誘しているよ」
少し突っ込んで話を聞いてみると、公都エルレトラでは、毎年のように冬の大討伐を行っているらしかった。
王都と公都を分断するように広がる山林地帯には、未だ強力なモンスターが徘徊しており、街道の整備すら、思うように進んでいない。
そして冬になれば、王都側の山林は雪の中に沈む。
その結果、寒さと雪に追われて南下してくるモンスターどもを、公都側から撃退するといった行事が、毎年ここで行われているそうだ。
王都側の深い雪を利用すれば、討伐部隊がモンスターを包囲するチャンスだと思うのだが、冬の間は王国軍が引き上げてしまうので、冒険者が戦力の穴埋めをする感じなのだろう……。
最大のチャンスなのに、王国軍は王都と街道の除雪作業で手いっぱいになる。
その代わりと言っては何だが、金欠で冬を越せそうにない冒険者や、生粋のバトルマニアたちが、冬の公都に集まってくるという──。
だが、今年はその冒険者が少ないそうだ。
「…………」
もしかして、ちょっと前に王都を騒がせた、大火事のせいかな?
あの時は物資の輸送に、相当な数の冒険者が参加したはず。
まさに、着の身着のまま出発するくらいの無理を押したから、そこそこの報酬は貰えたはずだ。
……ということは、今年は食いっぱぐれた冒険者が少なくて済んだ訳だな。
その分、こっちの参加人数にシワ寄せが回ってきたようだが──。