第340話「公都エルレトラ①」
ティナの魔法でテレポートした俺たちは、公都エルレトラが一望できる、小高い丘のような場所に出現していた。
まず最初に思った感想としては、視界の中に雪が入らない場所までこれた事に感動してしまった。
「あれが公都エルレトラですね?」
「そうよ。私たちは今、公都の西側から見下ろしているのよ」
正面に見える公都エルレトラは、王都に比べると数分の一にも満たない規模の街だ。
恐らくは、マラデクの町と同じくらいの面積ではないかと思う。
そんな規模の街ではあるが、さすが公国と言うだけあって、背の高い壁に守られている公都の中心部には、立派な城が建てられている。
まあ、オルステイン城の造形と比べたら、随分と見劣りする外観だが──。
それにしても、公都エルレトラを囲む外壁の外には、随分たくさんの家や商店が並んでいる様子が伺える。
やはり、王国内にある公国の立ち位置では、外壁を拡張していくだけの予算がつかないのだろうか?
公都の北側には、深い山林が連なっている。
この山林は、地図で確認する限り、王都の南側にあるリトナ村まで続いている。
道の整備はされていないが、山林の中を突っ切る街道も存在しているらしい。
もっとも、山林の奥地には危険な化け物が数多く生息しているので、通常はカナンの町から迂回する西ルートか、マラデクの町から迂回する東ルートを使うそうだ。
「山の上にもお城がありますよ」
「あれは城ではなかろう。化け物どもを見張る砦だわい」
山林側を見渡すと、一番手前の山の頂上付近に、城のような建造物が見えた。
が、サキさんの言うように、恐らくは砦だろう。
少し前にミラルダの町で冒険をしたときにも、雪山の中に似たような砦があったよな。
続いて南側を見渡せば、北の山間部と東の山脈から流れてくる水が、やがて大きな川となって陸地を分断していた。
この大きな川は、西の海まで続いているに違いない。
相当大きな川であるにも拘わらず、所々にある中洲を利用して、見事な橋が架けられている。
その橋の両端には大きな建物がある。
恐らくはあそこで、輸入品の関税などを取り立てるのだろう。
「この川が、オルステイン王国の国境線かな?」
「どうなんでしょうか? この先のバハール地方には国がありませんから、あえて明確な線引きをしていないのかもしれませんし……」
エルレトラ公国の南は草原地帯だと聞いていたが、川を越えても暫くは木々が生い茂っている。
辛うじて、視界の奥に草原らしきものが見える程度だ。
まあ、川を境にして、いきなり地形が大草原に切り替わっている方が不自然か……。
「ここは風が強くて冷えるわ。街の入り口までテレポートしましょう」
「うむ。雪はなくとも、やはり冬だわい」
ときおり、北風のような音を鳴らして吹き抜ける風は冷たい──。
俺たち四人はティナの魔法で、公都エルレトラの入り口付近にテレポートした。
公都エルレトラは、東西に伸びる街道に沿って、街が拡張されている。
北の方角は、危険な化け物が生息する山林に阻まれ、南側には大きな川があるせいで開発できない。
街が東西に細長く広がっていくのは、当然の成り行きだろう。
「壁の外だから開き直っているのか? みんな好き勝手に家を建てている感じだな」
街道沿いには、色んな店が並んでいるのだが……。
皆が皆、好きなように出店しているせいで、歯並びの悪い風景が広がっている。
俺たちは西側から公都に入ったが、この調子だと、街の東側も似たような状況だろう。
「ティナはテレポートの魔法で、何度か来たことがあるんだよな?」
「街の中まで入ったのは、今日が初めてよ」
「わしは銭湯に行きたいわい」
「それは後で。まずは街の中心に行こう。合流場所を決めておかないと、迷子になったら面倒だ」
俺たちは、街道の左右に並んでいる店をチェックしながら、街の中心を目指した。
道中で見付けた武器屋と防具屋には、特に目新しい装備品は見当たらない。
衣料品にしても、品揃えが少ないことを除けば、王都とさして代わり映えがしなかった。
しかし、食材や香辛料の類に関しては、王都では見慣れない物も置かれている様子だ。
道中は随分と歩いてしまい、街の壁を抜けてから、その中心部に辿り着く頃には、余裕で昼を回っていた。