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第339話「ロソン村の秘密」

 今朝の食事の話題は、リリエッタの生まれ故郷であるロソン村が、すでに存在していないという話だ。


「辺境の小さな村でしたし、当時は箝口令かんこうれいが敷かれていたこともあって、事実を知る人間は少ないと思いますよ」

「何が原因で壊滅したんですか?」

「魔物の襲撃で壊滅した、という話になっています。これについてはレレが……」


 いつもなら何でも教えてくれるエミリアが、今日に限って口籠くちごもった。


「何か都合の悪い事件が起こったんですね」


 言葉をにごすエミリアに、ユナがつっこみを入れる。


「あまりほじくる気はせんけど、ヨシアキたちが、その村に向かっている可能性がある」

「……それは本当ですか?」


 エミリアにしては珍しく、口の中の物を飲み込んでから喋った。

 相変らずわかりやすいと言うか、エミリアに隠し事をさせるのは無理だな……。



「ロソン村が目的地とは聞いてないから、あくまでも可能性だけど。ただ、もしもロソン村に向かっている場合は、日数的に見ても、明日には到着するんじゃないかと思う」

「それは、ちょっと困りますね……」


 ヨシアキと言えば、エミリアも知らない仲ではない。

 そのせいか、最初は渋っていた「都合の悪い何か」についても、簡単にゲロを始めた。


「私も詳細は知らないのですが、ロソン村は当時、異国から流れて来た魔術師に支配されていたそうです」

「侵略行為かの?」

「いいえ。我が国は建国以来、どこの国とも戦争をしていません」

「その魔術師が、悪魔でも召喚したのでしょうか?」


 俺は、アサ村の古代遺跡にあった魔法陣を思い起こした。

 大魔導クラスのエミリアが、古代遺跡の魔法陣を使って、ようやく呼び出した悪魔ですら、レッサーデーモンの幼体だ。

 流れの魔術師風情が、悪魔を召喚なんて出来るものか──。


「ある意味、悪魔召喚よりもタチの悪いやり方です。その魔術師は失われた儀式魔法を駆使して、生きながらに村人たちを、自分の操り人形へと変えてしまったのですから」


 エミリアの説明を聞いた俺は、失われた魔法に心当たりがあった。

 俺たちはついこの間、その手のヤバい魔導書まどうしょを手に入れたばかりだ。


 そういった危険な魔導書まどうしょが、心無い者の手に渡ったときの結末を、はからずも知る事となった……。



「そのあと、どうなったの?」

「最終的には騎士団による討伐が行われましたが、保護した村人が突然爆発するなど、騎士団の側にも多大な犠牲が出たようです」


 なるほど。

 それほどの大惨事なら、秘密にもしたくなるか──。


「そんな状態ですから、悪い魔術師を討ち取る頃には、ロソン村の住人は誰一人として生き残っていなかったと聞いています」

「むう……」

「え?」


 リリエッタの故郷はロソン村のはずだが、どうやって生き残ったんだろう?

 都合よく別の町や村にいたのだろうか?


「事件そのものは解決済みですが、それ以来、ロソン村は悪霊あくりょうたぐいや、不死の魔物が集まる場所になったと聞き及んでいます」

「ヨシアキたち大丈夫かな? そんな所に行ってなきゃいいけど……」

「心配なかろう。人の足が途絶えておるのなら、今頃は雪をかいても辿り着けぬわい」


 東地方の積雪量は不明だが、サキさんの言うことはもっともだ。

 不死の魔物とやらが、自主的に雪かきでもしない限りは、ロソン村に辿り着くことはできないだろうな。





 朝から重苦しい空気になってしまったが、そんな事とは裏腹に、空は明るく晴れ渡っている。

 日の出近くまで空を覆っていた雪雲は、いつの間にか消えていた。

 冬の王都は昼間でも氷点下だが、もしも日中晴れ間が続けば、少しは雪も解けるだろう。


 中途半端に解けた雪は、夜中の冷気で氷に変わり、余計に事態を悪化させる。

 それでも、これ以上雪が積もらないことの方が嬉しかった。


「今日はどうするかな? 久しぶりに王都を歩いてみてもいいが……」

「どうせなら、公都エルレトラに行きませんか?」


 公都エルレトラは、王都の南に広がる山林地帯をへだてた先にある。

 特に用事もなかった街なので、ティナとエミリア以外は、まだ行ったことがない場所だ。


「わしは構わぬ。風呂セットを持参するかの」


 そう言ってサキさんは、愛用のお風呂セットを取りに行った。

 とりあえず、ユナとサキさんの二人は行く気らしい。

 それなら俺も、反対する理由はないな。


 なにせ公都エルレトラは、王都のような降雪こうせつはないと聞く。

 地図上の直線距離では、それほど離れているように見えないのだが、この世界特有の気象現象が働いているのだろうか?



「エミリアはどうする?」

「私は一度、家に帰ろうと思います」


 観光案内でもしてくれるのかと思ったが、今日は家に来客があるそうだ。

 まあ、良く知らない街を、手探りで歩くのも悪くないな。


 まるで冒険者みたいじゃないか。


「準備できましたよ!」

「うむ」


 朝食の後片付けをする俺とティナを差し置いて、ユナとサキさんの二人は、すでに準備を済ませていた。

 ユナはともかく、サキさんからは不純さが滲み出ているから危険である。


「一応、護身用の武器くらいはぶらげて行こう」

「それじゃあ、いいわね? 公都、エルレトラにテレポートするわよ」


 家のガレージに集まった俺たちは、ティナの魔法で公都エルレトラへと移動した。


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