第332話「地下通路①」
俺とティナとサキさんの三人で、地下へと降りる階段を進む。
照明の魔法は、通常よりも強力にして、壁や天井からの浸水が無いかも調べている。
地下へと伸びる階段は、石造りのようではあるが、継ぎ目のない壁や階段を見る限り、これは土の魔法で掘り進めたものだろう……。
「足元が滑る感じは……ないな。壁も特にぬめってない」
「精霊力も特におかしな所は無いわね。魔力も感じないわ」
まだ少し濡れている壁に手を添えながら、俺たちは慎重に階段を下りていく。
「……………………」
地下二階分を下った辺りで、長く続いた階段が終わる。
ここまで慎重に進んできたが、途中で水が流れているような箇所は見当たらなかった。
パイプ代わりの竹筒は、階段を過ぎて床の先まで延びているが、やはり一晩で浸水が進んでしまったのか、澄んだ透明の水が、20センチ近く溜まっている。
「階段の先は通路になってるな。ここは地下室じゃないのか? 奥の方に扉みたいなものが見える……」
明かりを向けても、床の水が乱反射するせいで、いまいちよくわからない。
「ポンプを動かしてくるかの?」
「水の中には何もいない? 大丈夫そう?」
俺は偽りの指輪に意識を集中して、精霊力感知を働かせる。
──特に生き物がいるような気配は感じない。
現状では危険も無さそうなので、俺とティナの二人はここに残り、サキさんはポンプを動かしに、上の階へ戻った。
少しの間待っていると、パイプ代わりの竹筒が、ガタガタと震えながら動き始める。
「吸い始めたかな? 結構パワーのある音がするなあ……」
「筒の先が水から出ないようにしないと、空気が入ったら、水を吸わなくなるわよ」
俺とティナは、竹筒の尻を持ち上げながら、吸い込み口が水の中に沈むように努めた。
ポンプで水を汲み上げる作業を始めて暫くすると、床にはまだ5センチほどの水が溜まっているが、これ以上はポンプで吸えない所まできた。
ポンプの先が水面から出てしまうと、パイプ内にある水は、全て流れ落ちてくる。
これ以上の除水は、バケツを使った人力に頼るしかないのだが、俺たちには秘策があった。
「魔法で除雪したみたいに、ここの水も、精霊石に封じ込めてやれんかな?」
「やり方は同じだし、問題なく出来るはずよ」
俺が精霊石の準備をすると、ティナは魔法の力で、周囲の水を消し飛ばしていく。
床に溜まっている水は、水の精霊力に変換されて、この空間に凝縮される。
俺はすかさず水の精霊力を取り込んで、精霊石の中に封じ込めた。
魔法を使って水を消し飛ばしたせいもあって、今この空間には、水の精霊力が殆ど存在しない状態になっている。
床も壁も天井も乾いているし、床の上には粒子の細かい砂が積もっていた。
「最初からこうすれば良かったな。これだけ乾いてくれると、浸水している場所もわかりやすいはずだ」
俺とティナが通路を見て回ると、天井のあちこちから、水の精霊力を強く感じるようになってきた。
魔法で塗り固めた天井は、特に痛んでいるように見えないが、何処からともなく水が滲み出ているように見える。
「応急処置で凍らせておくわね」
「頼む」
ティナは滲み出る水を、天井ごと魔法で凍らせた。
「一度上に戻って報告しよう」
通路の先には鉄製と思われる扉も見えるが、勝手に開けても仕方がない。
とにかく一度、ここから出ることにした。