第331話「ガウロンの家再び②」
「依頼が早く終わるように、協力しようかと思いまして!」
ユナに突っ込まれたエミリアは、胸よりも突き出た腹を張って答える。
導師のローブを着ていた頃には、それほど目立たなかった腹も、ピチピチのドレス姿では、もはや隠しようがない。
こういうピチピチの服装、なんて言ったっけ? 確か……ボディ・コンプレックス?
これ、デブと言えばデブだけど、妊婦と間違える人もいるだろうな……。
しかし、付いてくるなら付いてくるで構わないのだが、それならせめて、もう少しまともな格好で来て欲しかった。
これから行く場所は、床も壁も水浸しだった地下室だというのに、テカテカシルクのピチピチドレスを着た人妻は、一体どんな協力をしようと言うのか──。
それに、一刻も早く冒険を終わらせて、トマト買い出し作戦の続きがやりたいオーラを、全身の毛穴から解き放っているではないか。
「あら……」
「ガウロンさんの家は、向こう岸ですよね?」
「いかんの。橋まで引き返すと、随分大回りになるわい」
ふわふわの店から、ほぼ一本道でガウロンの家だと思っていた俺たちだが、ガウロンの家は、川の向こう側にあった。
今、俺たちがいる場所は、ガウロンの家の裏側になる。
一昨日は表側から行ったので、まさか家の裏側に、川が流れているとは思わなかった。
川といっても、人工的に作られた水路だ。用水路といった方が正しいだろうか?
水路は逆台形をしているので、底の幅は1メートル程度しかないが、上の方の幅は3メートル近くある。
「テレポートで向こう側に移動するわね」
俺が返事をするよりも早く、目の前の景色が変わった。
この程度なら浮遊の魔法で渡ればいいのに、わざわざ全員をテレポートさせるとは。
今日はこれで二度目のテレポートになるが、魔力の方は大丈夫だろうか?
何はともあれ、俺たちはガウロンの家に到着した。
「おはようございます。ニートのみなさん、お待ちしておりま……後ろの方は、どなたでしょうか?」
「一応仲間なので気にしないでください。見た目は変態かもしれませんが、魔法と知識に関してはスペシャリストです」
「は、はあ……」
玄関の扉を開けたガウロンが、一人だけ異様な格好をしているエミリアの姿を見て、明らかにドン引きしている。
俺はガウロンにそれっぽい説明をして、エミリアが不審人物でないことを伝えた。
ガウロンの家に入ってから台所へ向かうと、シーソーのような形をした、大きな手動のポンプが目に留まる。
「昨日のうちに地下水の汲み上げは終わったのですが、やはり壁から水が流れ込んでいまして。一晩もすれば水が溜まってくるだろうと、ポンプを一台置いていってくれたんです」
商売道具だろうに、親切な業者だな。
「とりあえず、俺とティナとサキさんの三人で下に降りてみよう。階段が狭いからな。最初から全員で行くと、フン詰まりになってしまう」
「うむ。それでよかろう」
俺はティナとサキさんを連れて、台所の床下にある、地下の保管室に向かう。
俺とサキさんは、魔法のランタンを腰に下げて、ティナが使う魔法の照明をカバーした。
足元には直径10センチほどの、太い竹の筒が延びている。
竹の筒は2メートル毎に、テント生地よりも丈夫な布で接続されているようだ。
それでも、ゴムのような素材ではないため、水漏れを起こした場所は濡れている。
「何度見ても狭い階段だの」
「一度隊列を決めたら、もう入れ替わりは出来そうにないな」
「テレポートで入れ替わりするしかないわね」
地下室への隊列は、俺を先頭にして、サキさんが続き、最後尾にティナを置いた。
もし何かあれば、先頭の俺が最後尾へ、ティナのテレポートで救出されるという作戦だ。