第329話「除雪の魔法②」
サキさんが風呂から上がると、今日はユナも、早めに風呂を済ませた。
俺は、ああそうかと察しつつ、ユナの日はよく冒険に当たるなあと考えている。
一つのパーティーに女が三人もいると、こういう所にも気を使う必要が出てくるのだが、冒険の依頼はこちらの都合に合わせてくれない。
冒険者を始めた当初から認識している難題であり、いまだに解決の糸口が掴めない。
正直言って、少ない日でも安心できない装備のまま、馬に跨りでもしたら……。
いやいや、考えるのはよそう。想像したくもない。
せめて元の世界にあるような、近代的で清潔な衛生用品の数々があれば、もう少し快適に過ごせるのかもしれないが……。
ユナとサキさんが髪を乾かし終える頃になると、広間にエミリアが現れていた。
今朝は随分駄々をこねていたが、半日経って気分が落ち着いたのか、随分と大人しい。
「先日預かっていた、銀の燭台なんですけど──」
「うん?」
「鑑定した結果ですが、これは燭台ではなくて、魔法の武器でした」
「ほう?」
先日、鑑定して貰おうとエミリアに預けておいた銀の燭台だが、これが魔法の武器だと言われてもピンとこない。
「ちょっと実演しますね。最初に少し、気合がいるのですけど……」
エミリアは両手で銀の燭台を握りしめて、ふんと気合を込める。
すると銀の燭台から、黄金に輝く光の刃が飛び出した。
燭台だと思っていた本体は、魔法の剣の柄だったのか──。
「カッコいいじゃないか。ちょっとわくわくしてきたぞ。振ったらどうなるんだ?」
「剣を振ると、光の粒子が舞い散って大変美しくなります。あと、物質はすり抜けてしまうので……こんなふうに、テーブルもそうですが、人体もすり抜けてしまいます」
エミリアは、光の刃をテーブルや自分の手のひらに当てながら実演する。
光の刃からこぼれ続ける光の粒子はきれいだが、何も切れないのでは、ただのインテリアじゃないか。
「これは武器と言えるのか?」
「武器ですよ。これは実体のある物は切れませんが、実体のないものを斬ることが出来ます」
「は?」
「わかりやすく言えば、霊体や、実体化する前の精霊、魔法で作られた幻影など、触れることが出来ない存在を斬ることができるのです」
エミリアは魔法で幻影の壁を作り、それを光の刃で斬り裂く。
すると、魔法で作った幻影の壁は、さらさらと砂粒のようになって消えた。
「障壁の魔法も斬れるのか?」
「障壁は実体なので切れませんが、すり抜けることなら出来ます」
なるほど。
しかし、敵が使った障壁の魔法をすり抜けたところで、実体にダメージを与えられないのでは意味がないな。
「これ、どうやって光の剣を出すんだ?」
俺はエミリアから銀の燭台を受け取って、使い方を聞く。
ちなみにこの剣は、古い文献にも書かれていなかったそうで、特に名称も無いようだ。
「柄を握って、光の刃をイメージしてください。形状は魔道具に記憶されているので、適当でも大丈夫ですよ」
「わかった。最初に少し気合がいるんだったな……」
………………。
光の刃は、出てこなかった──。
「やり方が悪いのかな?」
「おかしいですね。偽りの指輪を外してみたらどうでしょうか?」
「ああ、そうか……」
俺は偽りの指輪を外してから、剣の柄に気合を込めた。