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第32話「アレが来る」

 俺たちが家に帰ると、テーブルの椅子にはげっそりとした顔のエミリアが座っていた。


「もう来てたんだ」

「言われた物を揃えてきました……なかなか見つからなくて街中の商会を探してやっと揃ったんです」

「あんま無理すんなよ」

「もう学院のごはんは食べたくないので……」


 魔術学院の飯はどんだけ不味いんだよ。まあ俺も宿の飯は食いたくないけど。


 エミリアが買ってきた荷物は広間の隅っこに積んであった……物凄い量だ。

 もしかしたら俺たちが気付かなかっただけで、ずっと玄関と市場をテレポートし続けていたのかもしれん。



「すごいわね。何があるのかを調べるだけでも大変そうね」

「これお金払ってあげなくていいんですか?」

「そうだなあ……」


 ちょっとかわいそうになってきたな。俺は幾ら払うかを決めるために、ティナの飯は王都ではどのくらいのレベルなのかをエミリアに聞いてみた。


「もしも王都で店を構えるときは、全額フェルフィナ家が出資します」

「そんなにお気に入りかよ」


 言われてみれば、カナンの町で食った高級宿の飯よりも美味いと思う。

 あっちは高そうな食材を使っているようだったが、オルステイン王国の料理は全体的に雑というか細やかな配慮がないというか、その辺りが気に入らない部分なのだが……。


 俺はエミリアに金を払うのをやめた。

 学院の飯が不味いとわがまま言ってるんだから、次から食材の買い出しは全部エミリアにやってもらおう。



 ティナとユナが食事を作っている間、エミリアを放置するのもかわいそうなので、仕方なく俺はエミリアと二人で広間のテーブルに落ち着いていた。


「サキさん遅いな」

「もう帰ってましたよ」


 あの野郎、またエミリアを放置プレイしていたのか。


「そういえば今日、2メートルくらいある巨大ムカデが出てきたんだが」

「ほんとですか? この辺りに生息しているのは最大でも30センチですけど」

「処理に困って裏の河原に投げてあるから見て来いよ」


 エミリアは一人で河原まで見に行ってしまった。俺は怖いから見に行けない。

 一人になって暇なので、俺は今日洗う予定の洗濯物を洗い場に持っていくことにした。



「サキさんおるか? 洗濯物集めてるから出せ」

「これ頼む」

「この作業着もだが、今着てる普段着の方は何日か洗ってないだろ? 最近臭いでわかるんだよ。今脱いで出せ」


 俺はサキさんから無理やり服を剥ぎ取ると、それも洗い場に持って行った。






 ユナから夕食ができたと聞いて、俺がサキさんと家の外にいるエミリアを呼んできた頃には、テーブルの上には料理が並んでいた。

 昨日言っていた通り、今日はグラタンにしてくれたようだ。横の皿には湯気の立つじゃがバターと、とろとろのキノコスープが並んでいる。


「マカロニじゃなくてシート状になってるのか。モチモチしててうまい」

「ラザニエを挟んだわ。マカロニの穴は専用の機械がいるのよ」

「手では作れぬのか」

「このスープは中華っぽいとろみですよね」

「それはじゃがバターに掛けてみて」

「あ。濃い目のスープが馴染んでおいしいです」

「俺そのまま飲んでた……」

「私も意味がわからずに全部飲んでしまいました……」


 エミリアは鍋に残ったスープをかき集めてお代わりを貰っていた。



「そういえば……」


 食後のハーブティーをみんなで飲んでいたとき、エミリアが巨大ムカデの話を始めた。


「あれはこの辺りでは生息しない種類なんですけど、詳しく調べたいので死骸を持って帰っても良いでしょうか?」

「気持ち悪いから欲しければ持って帰ってくれ。頭も一緒にあったろ?」

「はい。できればその……触るのが怖いので学院まで運……」

「俺は拒否する!」

「私もあれは無理です!」

「怖くて触れないわよ!」


 エミリアは上目遣いで学院までの輸送を頼んできたが、全会一致で否決された。


「麻袋に詰め込んでわしが運ぶか……」


 サキさんは頼りになるな。躊躇ためらいなく巨大ムカデを蹴り飛ばしていたし。

 今までの買い物で随分溜まっていた空の麻袋から適当なサイズを選んで、サキさんとエミリアは巨大ムカデを魔術学院まで運びに家を出た。


「サキさんランプ忘れるなよ。帰りは一人だぞ?」

「うむ」






 俺たちは夕食の後片付けをしてから、三人で洗濯物を洗った。今日は作業着三着にサキさんの普段着と全員分の下着である。

 銭湯でのやり取りを見る限り、この二人はもう今までの下着は使わないんだろうな。


「あら……?」

「どうした?」

「……ん。何でもないわ」


 洗濯物を洗っているときにティナが何かに気付いたようだが、気のせいだったのかすぐ洗濯作業に戻ってしまった。

 ちなみにサキさんがいないときは俺が脱水作業を行っている。



 俺たちが洗濯物を干し終わった頃、サキさんが帰ってきたので今日は四人並んで歯磨きをした。


「気持ち悪いからちゃんと手洗えよ」

「ムカデは牙の毒しかないのであるが……」


 サキさんがちゃんと石鹸で手を洗うか監視したあと、俺たち四人はそれぞれの部屋に戻った。






 部屋に戻ってようやく一息ついたので、俺は昨日エミリアから貰った解放の駒から弱い方を一つ取り出した。

 昨晩は色々あったので結局何も試せていないのだが、照明だけは安全に使えることを確認しているので、早速使ってみようと思う。


「今日から魔法の明かりを使うから、もうランプは消してもいいぞ」

「なんですかそれ?」

「昨日エミリアから引っ越し祝いだと言って貰ったものだが、精霊石をこの上に置くと勝手に精霊力を解放し続けてくれる魔道具だ」

「面白そうね」

「じゃあ行くぞ」


 白いローテーブルに置かれた解放の駒に光の精霊石を載せると、精霊石が明るい照明になった。


「凄いですよ! これずっと光ってるんですか?」

「どのくらい持つかわからん。これは弱い光の方だが、別の駒に変えるともっと強い光にもできるみたいだ」

「明るいけど、目の前で蛍光灯を直視しているようで眩しいわね」

「確かにそうですね……」

「天井に吊るせるようにできないかしら?」

「仕方ないな。とりあえずベッドの屋根にでも置いてみるか」


 ベッドの屋根に置くと、不自然に影が出来るものの何とか照明としては機能するようになった。この辺りは要改善といったところだ。



 まだ寝るには早い時間なので、ユナはハーブの管理をしながら繊維質の紙にメモを取っている。ティナは日用品に入っていた布切れで何かをずっと作っているようだ。


「私はもう着替えて寝ます」

「そうね」

「じゃあ俺も」


 二人ともさっさと着替えてしまったが、相変わらずこの恥ずかし過ぎるネグリジェは自分で着るのに抵抗があるので、今日も駄々をこねてティナに着替えさせてもらった。


 ティナに甘え通すのは赤ちゃんプレイみたいでちょっと興奮する……。


「毎晩これではかなわんなあ」


 着替え終わった二人を見ると確かにかなりかわいいと思うが、やっぱり自分の姿が見れないせいで着るのに抵抗がある。

 元の世界の容姿でこれを着ているグロ画像が頭の中に浮かぶからだ。






「む。トイレに行くときはランプがいるから、どちらにしても火がいるのか……」

「色々と問題が出てくるものですね」


 俺は魔法の火を使って二つのランプに明かりを灯す。三人で寝る前の連れションに行くためだ。明かりの数に限りがあるのでこれが一番効率が良い。


 例えばユナがランプを持ってトイレに入り、俺とティナがもう一つのランプを持って外で待つといった具合だ。


 三人のうち二人が用を足し終えれば、その二人はランプを持って部屋に戻れる。最後の一人はもう一つのランプを使って用を足したあと、そのまま部屋に戻れるという感じだ。


 いつもユナ、ティナと続いて、最後に俺が一人で部屋に戻るのが恒例になりつつある。



「ティナか? 部屋に戻ってなかったのか?」

「ミナト、これ使って」

「なんだこれ?」


 俺が最後に小便を済ませてトイレから出ると、ドアの前で待っていたティナが俺に何かを手渡した。さっきまで部屋でティナが作っていたやつだ。



「じゃあ裾を上げて」

「こうか?」


 おれがネグリジェの裾をたくし上げると、ティナは俺のパンツに手を掛けて、それをするすると降ろす……ちょっとまじですか。俺は動揺した。


「ユナがいない時の方がいいでしょう?」

「お、おう……あれ?」


 俺が覚悟を決めて目を閉じていると、ティナは俺のパンツに何かを挟んで、そのままパンツをきつく引き上げてしまった。


「股がゴワゴワして気持ち悪いんだけど」

「アレよ」

「アレか……」

「そうよ」


 俺は股に異物を挟んだ酷い違和感を感じながら部屋に戻ってベッドに入った。

 股に何もない生活に慣れてしまったせいで、この異物感は気になって仕方ないが、とりあえず寝ることにした。


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