第328話「除雪の魔法①」
エミリアが帰ったあと、俺とティナは家の外に出て、除雪の続きをした。
昨日は雪の精霊力を使った除雪を途中でやめたが、行使する精霊力を認識できていれば問題ないという、エミリアの助言もあって、今日は俺も、魔法を使った除雪に参加している。
空の精霊石を手にした俺は、ティナが巻き上げた雪の精霊力を集めて、雪の精霊石を作る担当になった。
ティナが考案した魔法での除雪方法は、まず降り積もった雪を、魔法で雪の精霊力に変換して、その場から四散していく雪の精霊力を、逃がさず精霊石の中に封じ込めるというものだ。
ただこの魔法、偽りの指輪で魔法を使っている俺では、地面に降り積もった雪を、雪の精霊力に変換することが出来なかった……。
雪から雪の精霊力を取り出すことは出来ても、物質を無理やり精霊力に変換することは出来ないようだ。
何ともややこしいが、物質を分解して消し去るという高度な魔法は、魔力を源にしないと使えないことが判明した。
そんな訳で、ティナが魔法で雪を消し去り、俺が雪の精霊力を集めるという流れで、作業を分担している。
二人でやれば、それぞれの作業に集中できるため、除雪の効率もあがるし、なにより、魔法の失敗を防ぐことが可能だ。
「……除雪はこんなもんだろう。やけに寒いと思ったら、また雪が降り始めたな」
「ちょっと嫌になるわね」
本格的に雪が積もったら、みんなで巨大な雪だるまを作ったり、かまくらを作って遊ぼうと考えていた俺も、こう雪ばかり降ったのでは嫌になるぞ。
とにかく寒いので、そのぶん厚着をする訳だが、雪だるまを作るどころか、自分が雪だるまのような体形になっている。
今、外気温は何度だろうな? 北海道よりも寒いんじゃなかろうか?
……北海道には行ったことがないけど。
外の寒さに負けて家の中に入ると、広間には誰も居なかった。
ユナはガレージの奥で作業をしているはずだが、サキさんはどこへ行ったのか?
家の中を探してみたら、二階の大部屋で俺のサーベルを振り回していた。
「狭い場所ではこれがいいわい」
「そうだろうな。このさい、もっと武器の種類を増やしてもいいと思うぞ」
ずっと装備を持ち歩かないといけない宿暮らしなら、汎用性があって潰しの効く装備に絞られてくると思うが、せっかく家があるんだし、状況に応じて適切な装備が選べるように揃えておくのも良さそうだ。
「流石のわしも、理想だけでは生き残れぬと、最近は思うところだわい」
サキさんは剣術の型を崩さぬまま、俺との会話を続ける。
「先の戦闘では、障壁の魔法に対抗できなんだ。何か一つでも魔法の武器があればの……」
サキさんは、歯ぎしりをするように呟く。
敵の注意を引き付けたとはいえ、一撃を加えるどころか、貴重なシャムシールを折ってしまったからな。
そりゃあ、悔しいだろう。
「レレに貰ったミスリル銀の大剣は、やっぱり使えんか?」
「やはりどうしても、持ち運びが難しいわい。腰に差せる大きさなら問題ないんだがの」
レレから貰った大剣は、絵に描いたようなグレートソードだもんな。
「魔剣、試しに一本買ってみる? ショートソードのサイズなら、狭い場所でも取り回しが楽だし、サキさんが気に入らないときは、俺かユナの護身用にすればいい」
「……うむ。それで行こうかの?」
剣の稽古を終えたサキさんは、サーベルを鞘に戻すと、一階に下りてから、風呂場に向かった。
まだ夕方にもなっていないが、飯の後には俺たちが風呂に入るので、その時間と被らないように、サキさんが調整している感じだ。