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第31話「草むしり」

 今日の朝食は厚めのフレンチトーストと、その横には下茹でした野菜にベーコンを巻いて焼いたものが付いてきた。

 甘いトーストと塩味の効いたベーコン巻きを交互に食べると美味い。ユナは口の中に残った甘味と塩辛さを取り去るように清涼感のある熱いハーブティーを淹れてくれた。

 食事に合わせてお茶の風味を変えてくるのは芸が細かいと思う。暇を見ては調合しているようなので、今後も期待が持てそうである。



 サキさんは昨日遅くまで作業をしていたのか、今日は少し眠そうだ。

 呼んでもいないエミリアは相変わらず当然のような顔をして我が家に侵入すると、今日も朝食を食っている。毎日異世界限定のメニューが出るわけでもないのだが。


「今日は家の前の草むしりをするので、作業着に着替えて集合してくれ」


 俺が今日やる予定を口にした途端エミリアの腰が浮いたので、俺はエミリアのローブを掴んで無理やり椅子に座らせた。


「わ、私はこの辺で失礼しようかなと思いまして……」

「今日の晩飯はうっかり四人分しか作れなかったりするかもしれんな」

「はいすみません……」


 エミリアにも協力させることになった。今日はボロ雑巾のようにコキ使ってやるから覚悟しろよ。






 作業着に着替えた俺たち四人と白いローブのその他一名は、家の前に集合している。俺はティナとユナに鎌と鉈を渡して、草むしりのプランを説明した。


「茎が太くて硬いやつとか、背が高いやつは抜いて、普通の草は適当に刈り取ろう」

「どの範囲までやるの?」

「玄関口周辺だな。森の手前までだ。裏手は大して草もないから放っておく」

「抜いた草はどうするのだ?」

「裏の河原に放置して、枯れた頃に焼こうと思っている。デカいのを抜いたあとはエミリアが風か何かの魔法で一気に草刈りをやるから、そういう感じで頼む」

「私、そんなピンポイントに便利な魔法は使えませんよ!」


 無理なのか? つまらん女だな、じゃあ自分で試してみよう。


 かくして俺たちは、家の前の草むしりを始めた。草は平均して70センチ程度伸びており、背の高いものは余裕で1メートルを超える。

 硬く木の枝のようなものも生えているので、そういうのは抜いてしまった方が良い。サキさんは草むらの中を掻き分けて、そういうやつを片っ端から抜いて回った。



「これが終わったら食材の買い出しもしないとな」

「そうね。新しい調味料も増やさないといけないし」

「和食っぽくできると良いんだがなあ」

「お米と海産物と、発酵させたもの……お醤油とか、お味噌とか、全滅ですもの」

「おいエミリア、王都でそれっぽいもの売ってる店知らんか?」


 俺はエミリアにもわかるように説明しながら尋ねた。


「米粉なら東区の市場で売ってますよ。粉じゃないのも探せばあると思います」

「あるのか。パンばかりだから無いのかと思っていた」

「オルステインでは殆ど消費されないので……あと、海産物は無理ですよ。北か西に行かないと手に入らないです。乾し物なら北区の市場に入ってきますが高価ですね」

「よし。エミリアのマネーで買って来い」

「私ですか!?」


 あと、やっぱり醤油と味噌は無いようだ。豆を使った調味料ならいくつかあるらしいので、試しに買ってみることにした。


「しかしエミリアは良く知っているな」

「子供の頃から学院に籠って調べものばかりしていたので……」

「ガチの引き籠りじゃないか」


 俺も引き籠ってネットばかりやっていたので人の事は言えないのだが。

 エミリアは朝から喋ってばかりで使い物にならないので、ティナに必要なメモを書かせて街へお遣いに出させることにした。






「きゃあああ!」

「おいどうした!?」


 四人で黙々と草むしりをしていると、奥の方でユナが悲鳴を上げた。

 慌ててこっちに駆け寄ってくるユナの後ろから、大きな蛇のようなものが姿を現している。結構でかい。そして速い。俺は怖かったのでサキさんに応援を頼んだ。


「サキさん蛇みたいなのがでた!」

「そりゃおるだろうよ」


 近くで作業していたサキさんは、ティナから鎌を受け取るとユナの方へ走って行った。

 逃げてくるユナとすれ違うようにして、走りざまに蛇のような生き物の頭を蹴り飛ばすと、地面に落ちた首の辺りを踏み付けたまま、鎌で頭を切り落としたようだ。

 頭を切り落とされた蛇っぽい生き物は、サキさんの脚にぐるぐると絡み付いたり踊ったりしながら、やがて動かなくなった。


 流石サキさん頼りになるな。ユナはティナに抱き付いたまま怯えているし、俺も怖くて動けなかった。



「ミナト見てみい。こやつ巨大ムカデであった」


 頭を切り落とされた巨大ムカデの胴体を鎌で突き刺すと、それを持ち上げて俺たちに見せながら……こっちに持ってこんでいい。

 確かに胴体から脚がいっぱい生えている。まだピクピク動いているみたいだ。怖いもの見たさでチラ見はしてしまうがこっちに持ってこないで欲しい。


「凄いぞミナト」

「もういい! わかったからこっち来んな!!」


 全長2メートルはある。良く見ると胴体も太くて噛まれたら死にそうな雰囲気だ。



「あんなのが出るとは危険すぎる。最終的には魔法で草を刈る予定だったが、もう全部抜いてしまおう」

「危ないから全員で固まった方がいいわね」

「……私もう怖いです」


 結局俺たちは家から森までの範囲の草を全て抜き取ることになり、作業は夕方まで掛かった。というか、エミリアが帰ってこない。






 草むしりを終えた俺たちは、河原に草の山を作ってやっと一段落できた。


 一番働いていたサキさんはそのまま銭湯に直行し、ティナとユナは夕飯の仕込みに掛かり、俺は昨日洗った洗濯物を取り込んでいた。


 俺は下着のたたみ方を知らんので、取り込んだままベッドの上に広げている状態だ。そういえばいつも、たたむのはティナかユナが勝手にやってくれている。

 女物はたたみ方一つでも色々と面倒臭そうなのだが、俺もそろそろ覚えておいた方が良いのかもしれないな。



「私たちも銭湯に行きましょう」

「今日は新しい下着を持っていけますね」

「ミナトも早く作業着から着替えて」


 二人とも昨日買った服に着替えている。ティナは朝着ていた脚のエロい服、ユナの方は女子制服みたいなやつだ。

 俺はパンツが見えそうで不安になるほど短い巻きスカートとノースリーブのブラウスを着せられて、三人で銭湯に向かうことになった。



「あの……ティナさん……私たち……」

「ええ。わかっているわ」

「俺たちこんな短いミニスカートで馬に乗ると痴女みたいなんですが……」

「……そうね。気が付かなかったわ」


 股の部分は鞍で隠れているが、三人揃って尻の部分がパンチラしている状態だ。試しに少し尻を浮かせてみると、股も尻も全てが丸見えになってしまう。



 俺たちは歩いて銭湯へ向かうことになった。

 白髪天狗を使うのでサキさんには歩いて銭湯に行ってもらったんだが、この瞬間になるまで誰一人馬に乗ることを前提に服選びをしている者はいなかったのだ。


 白髪天狗とハヤウマテイオウは再び馬小屋へ逆戻り。二頭には餌を与えて、俺たちは銭湯に向けて歩き出した。いっそ服を着替えた方が早い気もするのだが……。






 馬にも乗れないほど短いスカートで街を歩いていると、銭湯までの間ずっと脚に目線を感じて仕方がない状況だ。


「男たちのいやらしい視線が怖い」

「気にし過ぎですよ」

「誰も見てないわよ」

「……後ろパンツ見えてない?」

「引っ張らなくても大丈夫ですよ」

「屈まなければ見えないわよ」

「ほんとに見えてない?」


 俺は逃げるようにして女湯に駆け込んだ。いつもなら入りづらかった女湯が今日は安心できる唯一の場所になってしまった。



 俺たち三人はいつものように、俺、ユナ、ティナで洗い終わるのを待ってから湯船に浸かっている。

 今日は手の話題で盛り上がっていた。


「ティナの手小さくていいな」

「太い物を握ると力が入らないから大変よ」

「ユナは俺と同じくらいなのか」

「身長差が殆ど無いですしね」


 風呂から上がるまで俺はティナとユナの手をにぎにぎしていた。

 あとでサキさんの男の手とも比べて見たかったが、あらぬものを握った後だったら嫌なので、それはやめておこう。



 脱衣所で汗が引くまで休んだ俺たちは、いそいそと着替えを取り出している。

 ティナとユナは今日から無地の下着じゃなくなるとあって随分と機嫌がいい。そういう俺は、調子に乗って選んでしまった心が壊れそうな下着を付ける勇気がなかったので、今日はいつもの地味下着を持ってきている。


「どうですか? 結構付け心地もいいですよ」

「本当ね。これなら冒険に出掛けるときも使えるわね」

「ミナトさんは持ってこなかったんですか?」

「まだちょっと恥ずかしいので!」

「かわいいのを買ったのに勿体ないわね」

「どうせ見えんじゃないか。見られたときにみすぼらしくないためか?」

「かわいい下着を付けていると意識も変わるのよ」

「そうですよミナトさん。見せるためじゃないんです」


 俺は二人から下着がかわいくないとダメな理由を延々と聞かされたが、正直どうでも良かった。

 二人の下着姿はとても似合っていてかわいいと思ったが、俺はちょっとなあ……。


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