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第317話「石壁を直せ!!」

 朝から家の雪下ろしをしていたヨシアキ様ご一行だが、雑に作業をしたせいで、屋根から滑り落ちた大量の雪が、隣の家の石壁をなぎ倒してしまった。


 屋根の上で作業をしていたシオンとハルの二人は、屋根の天窓から家の中に入ると、すぐに玄関から姿を現した。


「これは酷いね……」

「あーあ、やっちまったなヨシアキ。後で隣のジジイに謝ってこいよ」


 四人の態度からして、ハルが言う「隣りのジジイ」とやらは、相当恐ろしい存在のようだ。


「どちらにしても、まずはこの雪を片付けないと。雪の方は僕とウォルツで掻き出すから、ハルとヨシアキは石壁の方を解決してくれ」


 四人の中だと一番まともな性格のシオンは、雪かき用の道具を手にして、さっさと作業を始めてしまった。





「これ、どうすっかなー。横倒しになってる石壁は、嘘でもいいから立てておかないと……。あのジジイがこれを見たら、怒りのあまり頭の血管が切れて死ぬかもしれん」

「粉々ってわけでもねーし、とりあえず、石を元通りに積んでいこうぜ」


 ヨシアキとハルの二人は、中途半端に崩れている石壁の固まりを持ち上げると、何とか元の位置に繋ぎ合わせようと試みた。


「接着剤みたいな物がないとダメか……」


 見た所、石壁の作りは、石垣いしがきのように石を敷き詰めて作った壁ではなさそうだ。

 何の加工もしていない適当な石を並べてから、その隙間をセメントのようなもので塗り固めるという、簡素な作りをしている。

 なのでヨシアキが言うように、何らかの接着剤がないと、修復は難しそうに思えた。



「……仕方ないから手伝ってやる。崩れた石壁の破片をきっちり合わせておいてくれたら、魔法で割れたセメント同士をくっ付けられると思う」

「マジか?」

「よし、パズル的な部分は俺に任せろ。ハルは石壁の破片を押さえて、ミナトと修復に回ってくれ」


 よその家の石壁を直すことになるとは思わなかったが、「あのジジイ」とやらが外出先から帰って来る前に、これを何とかしないといけないようだ。

 俺はその辺に落ちていた、割り箸くらいの木の枝を拾うと、ハルが押さえている石壁の割れ目を融着ゆうちゃくするイメージで、土の魔法を使った。


 魔法で細かい作業をするときは、枝の先などでその部分をなぞるようにすると、狙いを定めやすくなる。

 何だかんだで、土の魔法を使って作業をする回数が多いせいもあり、割れたセメント同士の接合くらいなら、それほど苦労することはない。


 ……が、細かい破片まで繋げていたら、キリがないのも事実だった。


「俺にいい考えがある。ジジイの家に面した側は破片まで修復するが、こちら側は手を抜いて済ませる。そうすれば、片面の作業だけで済むんじゃないかな?」

「流石ヨシアキ、小賢しい策を練らせたら王国一だぜ」


 得意げなヨシアキに、本気でそれを称えるハル。

 俺は少しばかり後ろめたい気持ちになりつつも、その通りに修復を続けた。





 魔法を使いながらの雑談は無理なので、俺たちは作業に必要な言葉を適度に交わしながら、ただ黙々と作業を続けている。

 家の敷地から雪を掻き出し終わったシオンとウォルツの二人は、家の手前にある下水道のフタを開けて、今度は雪の処分を開始した。


「思ったよりも早く終わりそうで良かった……」

「この調子なら、ジジイに見つかんなくて済みそうだぜ……」


 ヨシアキの指示通り、片面だけバレないように修復する方向に切り替えた途端、作業効率は倍以上になった。

 ヨシアキの家に面した側は、どうせ誰にも見られないということで、細かい破片までは修復せずに、適度な補強を入れながら接合している。

 なにせ屋根の雪が落ちたくらいで横倒しになるほど劣化した石壁だから、もう少し頑丈にしておかないと、いつまた壊れるかわかったものじゃない。



「雪の処理は終わったぞ。石壁の具合はどうだい?」

「こっちもあと少しだ。あと、ウォルツは触らなくていいぞ。触るなよ?」


 除雪作業を終えたウォルツが石壁の修理を手伝おうとすると、慌てたヨシアキがそれを止めた。

 もしかして、ウォルツは破壊系キャラなのか? 一応、記憶に留めておこう。


 結局、俺とヨシアキとハルの三人は、ウォルツとシオンが見守る中、最後まで三人で石壁の修理を終えることになった。





 除雪と石壁の修理を終えたあとは、ヨシアキの家の中で暖を取っている──。


「せっかく来てくれたのに、とんだ作業に付き合わせてしまったな……。冒険の途中で貰った薬草茶あるけど飲む?」


 彼らにとっては恐怖の対象となっているらしい、隣のジジイに見つかることなく壊した石壁を修理できたことで、この場にいる全員が胸をなでおろしていた。

 特に、壊した責任を押し付けられていたヨシアキは、安堵のためかぐったりした表情だ。


「しかし、ようやく一息付けた気がするぞ。最近は魔物の討伐に明け暮れていたから、この家の空気も懐かしく思う」

「そうだね。討伐した足で次の集落に向かう毎日だから、休む暇も無かったよ……」


 ヨシアキが淹れた微妙な味の薬草茶を飲みながら、シオンとウォルツの二人は、しみじみと語らう。

 シオンは盾持ちの戦士なので常に最前線を任され、ウォルツは剣士として、シオンの横隣りから敵を排除する役目を担うので、戦闘になると二人の負担が一番大きいのは間違いない。

 今回のように、討伐依頼をはしごして回るような冒険は、本来なら無茶苦茶な話だ。





 俺はヨシアキとハルの口から飛び出す、調子のいい語り口調で、最近の出来事を聞かせて貰っている──。


「……そんな感じで、王都近郊の東北地方を練り歩いてたわけだ」

「今度ばかりは馬が欲しいと思ったぜ。荷馬車で送ってくれた集落もあったけど、歩き疲れたまま討伐してたんじゃ、体がいくつあっても足んねー」


 馬かあ……。

 こっちは成り行きで馬を手に入れたあと、最初から馬小屋のある家を買ったから苦労しなかったけど、ヨシアキの場合は、馬を預ける場所を探す必要があるから、難しいだろう。

 王都の中でも、建物がひしめく外周二区での馬や牛の個人飼育は、原則禁止されている。

 確か、行商人のシェリルも、荷車の部分だけは家の敷地に止めてあるが、馬はどこかに預けていたはずだ。


 馬の面倒を見てくれる場所としては、王都中にある神殿とか、自分が所属する商業や工業の組合施設のほかに、王都の外になってしまうが、面倒を見てくれる家畜農家も存在する。

 費用の面では、商人や職人で組合費を払っているなら、組合施設に預けておくのが一番安く、次いで、ごく短期間であれば、神殿に預けるのが一番安いようだ。

 ちなみに組合施設の場合は、預ける頭数が増えるごとに一頭当たりの費用が高くなり、神殿の場合は、預ける期間が長いほど、必要な寄付が増えていくらしい。



「ま、ミナトたちと違って、俺たちの活動範囲は王都の中か、その近郊がメインなんで。今のところは循環じゅんかん馬車で事足りている感じだが──」

「話は変わるけど、リリエッタが見当たらんな。今朝は強面親父の宿にも居なかった気がするんだけど……」


『…………』


 俺がリリエッタの話題を出した瞬間、この場の空気が沈んでしまった。


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