第313話「ミナト流・暇の潰し方」
朝食を済ませた俺たちは、それぞれの行動に移った。
ティナは少なくなってきた調味料を作り、ユナは二階の大部屋で新しい弓のテストをして、サキさんはガレージの中で薪を割っている。
エミリアは食うだけ食うと満足したのか、大人しく自分の家に帰ったので、一人残された俺は、家計簿を付けることにした。
まずは出ていったものから記録しよう──。
前回から消費した魔法の矢について……。
ユナと一緒に精霊力の実験をしたときに使ったのが6本、それとは別に、今回の冒険では31本を消費した。
一度の冒険でこれだけの本数を消費したのは過去最高かもな。これで魔法の矢の在庫は71本になっているはずだ。
武器に関してだが、防具の耐久テストをしたときに、ティナのレイピアを壊してしまった。
さらに今回の冒険では、ユナのカスタムロングボウが壊れて、サキさんのシャムシールも折れてしまったな……。
ユナの弓はコンパウンドボウとして、今まさに新調されているが、サキさんは暫くの間、今まで通りのロングソードでやって貰うしかない。
そうそう、アンデッドウォーリアーの魔剣で切り裂かれた、サキさんのチェインメイルを修理した費用と、防具の耐久テストに使った防具素材の費用が、合計て銀貨870枚。
ミラルダの町の旅行費用が銀貨658枚で、サキさんの部屋に敷き詰めた、い草みたいな敷物のパネルが全部で銀貨385枚──。
それから、生活費の総額が銀貨2835枚。
この中に含まれているのは、主に食材と日用品雑貨だが、薪代や馬に掛かる維持費などもここに含まれている。
宿屋暮らしをすると、四人で一日当たり銀貨150枚ほどの生活費を必要としたが、家と風呂が無料になった今でも、あまり安く上がっていない……。
別に貴族のような生活をしている訳でもないのだが、いつまでも報酬の良い冒険ができるとは思えないから、少し考える必要があるかもしれん。
参考程度にしかならないが、一人部屋の宿暮らしで男性の冒険者だと、精神的にも余裕のある水準で一日に必要な生活費は、およそ銀貨45枚前後になるそうだ。
俺たちの場合、家も風呂も無料だが、一日の生活費は一人当たり銀貨32枚前後。
……あれ? それでも宿暮らしよりは安く上がっているのか。
いやいや、ここに引っ越して来てからは、高価な食材や調味料をエミリアの金で買わせることが多かったし、実際には一人当たり銀貨50枚前後になる計算だと思う……。
ちなみに食材と調味料に関してだが、栽培製造している現地にテレポートすれば、半額もしないで買える物が多い。
次は入ってきたものだが──。
一応借り物になると思うので、入ってきたものに含めて良いのか判断に迷うが、サキさんがレレから渡されたミスリル銀の大剣がある。
サキさん曰く、槍と大剣を同時に持ち歩く場合は両手が塞がるから、大剣は邪魔になるそうだ。
しかも、メインの武器が両方長物だと、狭い場所ではどちらも使えないので都合が悪くなるらしい。
大剣と剣を持ち歩くなら、槍と剣の方が応用しやすいなど、アンデッドウォーリアー戦では活躍したものの、サキさんからの評価は芳しくなかった。
収入に関しては、納屋に住み着いた大熊の駆除で貰った報酬が銀貨1200枚。
これはティナが行きがけの駄賃で解決した依頼だから、俺は依頼人のクリントさんとも会っていないし、問題の大熊がどんな奴なのかも知らない。
それから、ゴブリンに占領された集落の解放に成功して、成功報酬の銀貨4000枚を手に入れた。
現金で手に入れた報酬は、全部で銀貨5200枚だな。
そういえば、ミラルダの町で倒したアンデッドウォーリアーの件、レレは王国から褒美が出るレベルだと言っていたけど、未だに何もないな。
マンティコアのヴァンゴに至っては、報奨金が懸けられているお尋ねモンスターのはずだが、こちらも特に音沙汰がない。
それ以外では、魔道具で間違いないと思われる燭台の効果が気になる。
邪神の銅像や魔法の本と同じ場所で手に入れた物だから、この燭台も、何かの魔法に関連した特殊な魔道具だろうか?
あと、邪神の銅像の行方が本気でわからなくなっている。
話の流れからして、魔術学院が保管しているのは間違いないと思うんだが、モノがモノだけに、いまさら所有者を名乗り出て回収する気分にもなれない。
特にトラブルが起こっていないのなら、このままそっとしておく方が無難だろうか?
手に入れた魔法の本に関しては、27冊中9冊を処分して、18冊が手元に残った。
その18冊も、読み解けば使えそうな魔法は5冊しかない。
残りの13冊は文字が難解すぎて、読む事さえできない始末だ。
……今回は、収入と支出が同じくらいだったので、資産の増減は特になかった。
さて、家計簿を付け終わったものの、時間的にはまだ午前中だ。
俺は一人で家の外に出て、家の周りの除雪状況がどうなっているのか、この目で確認することにした。
玄関から外に出ると、隣にあるガレージの扉が雪で埋まっていた。
今日は荷馬車を使う予定はないが、これでは扉が開かないぞ。
ガレージ側が雪で埋まっているので、一方通行の如く家の表側に回ってみたが、こちらは除雪が終わっている。
屋根に積もっていた雪も、しっかり除雪しているようだ。
除雪した雪がどこに消えたのかは知らないが、家の前にある森の道も、きちんと除雪されていた。
魔法を使いこなせば、恐るべき効率を上げるとはいえ、ここまで手際がいいと逆に恐ろしくもある。
豪快に降る雪を見たときは、正直どうしようかと思ったが、これだけの作業が朝飯前に終わるなら、もう少し気楽に構えていても大丈夫かな……。
そういえば、俺がちゃんとした家に住みたいと考え始めた動機は、冬に宿が取れなくなったときの厳しさを、この国の人たちから聞いたのが主な原因だ。
冬の寒さについての警告だと思っていた半面、まさかオルステイン王国が世界の北側に位置して、さらに毎年雪で酷いことになろうとは、あの当時の俺では考えも付かなかった。
ある意味、心配性な性格に助けられたようなものだ。
そういえば、ヨシアキも似たような感じで家を借りたんだっけ……。
大雪による積雪と言う心配事も消えて、家の中に戻った俺は、ユナの様子でも見に行こうとしたが、二階の大部屋にユナの姿はなかった。
というか、調理場のティナも姿を消している。
幸いガレージの奥では、ずっと薪割りの音を響かせていたサキさんがいるので、俺は二人の行方を聞いた。
「あの二人なら、ナカミチの工房に行ったわい」
サキさんはこの寒い中、わざと上半身裸になって薪割りをしている。
俺は突っ込みたい気持ちをぐっと堪えて、馬鹿みたいに寒いガレージから広間に戻った。
こうなってくると、俺はいよいよやることがない。
本来なら俺は、ネットで何かを見ているとか、スマホをいじくっているとか、大体そんな感じで退屈を凌いでいたので、どうにも暇を持て余してしまう。
かといって、現代人の知識を使った工作でもしてみようという気も起らない。
結局俺は、自分の部屋で薪ストーブを焚きながら、コロコロをすることにした。
そうそう、少し前にエミリアがわがままを言って持ち去った爪切りだが、ナカミチからもう一つ貰ってきたのか、いつの間にか新しい爪切りが三面鏡の台に置かれていた。