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第301話「エミリア立ち入り禁止」

「次から古代遺跡を探索するときは、エミリアさんの立ち入りを禁止にしてください」

「だの」


 テレポーターが使えなくなったであろう原因を聞いたユナは、もう二度と、エミリアを古代遺跡の探索には連れて行かないようにと言い放った。

 エミリアがいないと、あらゆる知識の恩恵を受けられないが、今のままならやむを得んな……。


 そういえば、ジャックもエミリアが古代遺跡に立ち入ることを固く禁じていたが、過去にもこれと同じような問題を起こしたのだろうか?

 遺跡をゴミまみれにしたとか、確かそんな感じのことを言ってたっけ……。





 俺たちは夕食の席を囲みながら、インプのこれからについてを話し合った。


「インプが人間社会に溶け込むのは無理なので、それ以外の案を出したいと思います」

「うむ。ならばここで暮らせばよい。幸い人も寄り付かぬ場所であるし、問題は起きまい」


 サキさんは元も子もない意見を出した。

 が、本当に行く当てがなければ、最悪そうなってしまうだろうな。


「俺としては、エミリアに責任を取らせるのが一番いいと思うんだけど」

「アサ村の魔法陣を復元できるなら、それがベストだと思います」


 あそこの古代遺跡、エミリアの研究チームが何人か出入りしていたと思うから、一人くらいは魔法陣の図形を、細部まで正確に記録していると信じたい……。

 こんなことになるとわかっていたなら、サキさんに書き写しておいて貰えばよかった。



「まともな魔術師の使い魔になるのも手だと思いますよ。ちょっと前に調べてみたんですけど、使い魔の契約をした生き物は、寿命で死ぬことがなくなるみたいなんです。元の世界に帰る手段が見つかるまでの繋ぎにはなります」

「ツカイマ、ダケハ、イヤダ……」


 魔術師の使い魔案はインプが拒否反応を示した。

 まあそれも当然と言える……。

 しかし、使い魔になると寿命では死なないのか。

 そういえば、学院長先生の使い魔は「アマガエル」だったな。

 寿命で死なないのなら、どんなに短命の生き物を使い魔にしても問題なさそうだ。


 例えば、セミとか。うるさそうだけど……。


「私たちのように、同じ世界の住人と一緒にいるのが安心できると思うわ。レスターもインプと同じ世界から来たと思うから、彼に任せるのがいいんじゃないかしら?」

「レスターって、元は大悪魔ですよね? 大丈夫でしょうか?」

「魔界にいたときはそうかもしれないけど、話だけでもしてみる価値はあると思うの」

「ナカマ! イルナラ、アイタイ! アイタイ!」

「食いつきがいいな。じゃあ、明日はミラルダの町まで行ってみようか」


 こうして明日の予定を立てた俺たちの夜は更けていく──。





 翌朝、トイレに行くため調理場の勝手口を開けると、今朝はこんこんと雪が降っていた。

 今まさに降り始めたのか、地面への雪化粧は終わっていない。

 だが、地面に落ちた雪は溶けることもなく、白い粉を散らしている。


 こういう降り方をするときは積もるんだよな……。


 俺は身震いをしながら用を済ませて、ユナと一緒に朝の洗濯を始めた。


「やっぱり、お湯が使えるのは便利だな。これで洗濯機があれば言う事ないんだけど」

「たまに考えてますけど、なかなかいいアイデアが浮かばないですね」


 真冬の冷や水で洗濯することを思えば、好きなだけお湯が出るのは天国みたいな感じだが、一生洗濯板でゴシゴシやっている姿を想像すると、それはそれで辛い。



「そういえば、以前ナカミチさんに頼んでいた冷蔵庫……というかクーラーボックスなんですけど、やっと断熱材にできる素材が見つかったみたいですよ」

「え? あ、うん……。かなり前に頼んでおいたけど、確か断熱材になる素材が思い付かんとかで、ずっと保留になってたんだよな」


 頼んだのは俺だが、今の今まですっかり忘れていた。

 それも仕方がないだろう。今の季節、冷蔵庫どころか、何もしなくても勝手に食材が凍り付きそうな勢いなんだから──。


の中の種が育つ前に乾燥させると、スポンジと発泡スチロールを合わせたような素材になる植物があるんですけど、それを詰め込んで断熱材の代わりにするらしいです」

「ほー……」


 ユナも詳しく知らないようだが、その植物の実はベッドに使う高価なマットレスや、枕にも使われているそうだ。

 ちなみに普及品のマットレスは、編み込んだ藁をシーツで包んだものが一般的で、普通の宿屋はこのタイプが多い。

 編み込んだ藁は相当な重さになるので、シングルサイズでもかなりの重量になる。


「俺たちの部屋のマットレスは、大きさのせいで持ち上げにくいけど、重さは大したことないよな」

「寝心地も藁みたいに硬くないですし、きっとこのが詰まっているんでしょうね」


 そんな話をしていると、いつの間にか脱水まで終わっていた。



 今日はサキさん、手伝いにも来なかったな。

 そう思いながら広間に移動すると、インプを肩に乗せたサキさんが、今頃になって階段を下りてきた。

 どうやらサキさん、インプのことが気に入ってしまったらしい。

 今日にはお別れするかもしれないのに、あまり肩入れすると別れが辛くなるぞ。





 さて、ゆったりとした日常の朝食も終盤に差し掛かった頃、いつものように俺たちは、今日の予定を報告しあう。


「私は昨日に引き続いて、工業区へ行ってきます」

「うん、今日は雪が強くなるかもしれんから、もし吹雪いてきたらナカミチの工房に避難しておいてくれ」

「そうします」

「わしは戦闘訓練をしておるわい」

「南の街道のところか?」

「うむ」


 サキさんは戦闘訓練か……。

 今回の冒険では、良いところなしで終わったからな。

 正直、魔法に頼らず生身でも勇敢に立ち向かったのは凄いと思うが、サキさんとしては、実に納得のいかない結果に終わったのだろう。

 とにかく、雪が降ろうが何だろうが、今は訓練をしたいらしい。


「じゃあ、ミラルダの町には俺とティナの二人で行くことになるのかな?」

「どうやらそのようね」


 朝食を終えたユナとサキさんは、しっかりと防寒着に着替えてから、それぞれの目的地へと出発する。


「じゃあ、俺たちも行こうか」

「そうね」


 俺とティナは、革製の手提げ袋に入ったインプを連れて、ミラルダの町までテレポートした。


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