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第25話「引っ越し作業」

 エミリアと別れてから宿の部屋に戻ると、ティナとユナも部屋に戻っていた。


「あ。ミナトさん見てください! 凄いんですよ」

「ナカミチの手鏡か……うお、すげえ!!」

「これが鉄鏡だなんて信じられないわよね」


 ユナが差し出したメイドインナカミチの鉄鏡は凄まじい映り込みをしていた。サイズがそれなりなので重いことを除けばガラス製の鏡と殆ど変わらない感じだ。

 手鏡の箱がスタンドとして使えて、重い手鏡を立て掛けられるように工夫されている。


「これはしっかり手入れしながら大切に使わないといかんな。いくらしたんだ?」

「ユナがお茶をあげたらお金は取られなかったわ」

「ほんとに良かったんでしょうか……」


 そういえばナカミチはお茶がないと言ってずっと白湯ばかり飲んでいたな。


「お茶の知識だって立派な対価になる。自信を持っていいと思うぞ」

「でも緑茶っぽいのは作れそうにないんですよー」

「似たような葉っぱは無いのか?」

「日本茶は蒸す工程があるから、それをしてない葉っぱだと難しいわね」

「そうなのか?」

「もし乾燥前の茶葉を手に入れても蒸し方を知らないので、やっぱり難しいです」


 残念だがもうネットの検索に頼ることはできないので、現状で自分たちが有している以上の知識は活用できない。こんな事ならと思っても、あとの祭りである。



「ミナトの方はどうだったの?」

「うん。家買って来た。明日は朝から引っ越そう」


『はい?』


 俺はなんて説明したらいいのか困ったので、説明を全部はしょって結果だけ言った。ティナとユナは意味が分からないという顔をしている。


「エミリアから銀貨1枚で買った。あと、ティナが作ったご飯とユナが淹れたお茶をエミリアに飲み食いさせるのが条件の一つになっている」

「えっと……それは……」

「異世界の料理だけで家が貰えるとは思えないわ。事故物件かしら?」


 俺は王都の住宅事情を調べに奉行所へ行ったところから、エミリアとの会話の流れでそのまま家を買ってしまったところまでを全て説明した。


「私、エミリアさんのおば様の気持ちすごくわかります!」

「隠れ家まで建てる辺り業が深いわね……」


 女性陣には大変不評なおじ様であった。コソコソと隠れ家まで建てたところがどうしても許せないポイントらしい。そう言われると俺もそんな気がしてくる。






 俺とティナとユナの三人は、今日はサキさんの服だけを洗濯してから銭湯に向かった。


「一番混んでる時間帯に来てしまったな」

「そうね。明日に備えて掃除道具でも買いに行きましょう」

「それがいい」


 俺たちはいつもの雑貨屋で、雑巾とかバケツとか箒とかブラシとかを買い込んだ。

 家では靴を脱ごうという話になって、四人分と来客用のスリッパも数足買うことにした。

 トイレ用とか石畳の調理場用の木のサンダルもいくつか買う。何だか履物ばかりだが、靴を履いたまま生活する前提の家なので、どうしても場所ごとに履物が必要になる。


「思ったよりも荷物が増えてしまったな。俺は一度宿に戻って荷物を置いてくるから、二人は先に銭湯に入っててくれ」

「一人で大丈夫?」

「大丈夫だ」

「すみません、お願いしますね」



 俺は宿の部屋に荷物を置いてから銭湯へ向かった。


 そういえば一人で銭湯に入るのはこれが初めてだな。やっぱりティナかユナがいてくれないと不安になる。さっさと中へ入ろう……。


「ミナトさんこっちですよ」


 だいぶ人が減った風呂場の一角でユナが大きく手を振っている……脇もおっぱいも丸見えだ。ティナも小さく手を振って合図している。

 俺は二人の横に並んで座ると体を洗い始めた。最近はちゃんと洗うようになったが、それでも二人よりは幾分早い。

 遅れて銭湯に入ったはずだが、洗い終わるのはユナと殆ど同時だった。

 ティナはやっぱり腰よりも長い髪が……脚の付け根辺りまであるので、洗うのに時間が掛かるようだ。


「二人とも髪が長いから大変だなあ」

「腰まで足りない私でもシャワーがない今のお風呂は大変ですから、ティナさんは凄いと思います」

「二人とも切ろうとか思わないのか?」

「思わないわ」

「思わないですね」


 ううむ。短いと楽なんだけどな。折角だから俺も髪を伸ばしてみようか?



 風呂から上がって脱衣所にいるとき、髪の話から乾くまでが大変だという話題になったので、俺は風の精霊石を使って二人の髪を乾かしてみた。


「これは助かるわ。温風じゃなくても大違いよ」

「いいですねこれ……」


 好評だった。俺も適当に自分の髪を乾かした。

 これで温風が出せるようになると良いのだがなあ。

 結局三人の髪が完全に乾くまでテストしたら四十分以上掛かったので、これを毎日は無理そうだ。風の精霊石も2つ消費した。






 銭湯から出た俺たち三人が宿に戻るとサキさんも戻っていた。俺たちは全員で酒場に下りると、夕食を注文する。


「槍のカバーどうなった?」

「良いのを作って貰ったわい」

「そうか。こっちの方は家買ったから、明日から引っ越しな」

「うむ」

「……うむ。で良いのか?」

「もう買ったのだろう?」

「買ったけど!」

「なら良いではないか」


 こいつは。サキさんは話が早くて助かるが、もうちょっとこう、ティナとかユナみたいに色々聞いてくれても良いじゃないかと思うんだが。女心のわからんやつだな。


 飯を食い終わって一度部屋に戻った俺たちは、いつものように歯磨きと下着を洗いに行く。とにかく明日は朝一番から準備をしようということになったので早めに寝た。






 翌日、朝の準備を済ませて一階の酒場で朝食を取った俺たちは、部屋を引き払って早速我が家へと向かった……我が家、良い響きである。


「魔術学院の近くなのね。王都の連絡路から直接出入りできるし場所的には便利ね」

「うわ。すごい草ですね。これは草むしりが大変ですよ」

「わしは裏手の川が気に入った。ここなら戦闘訓練も遠慮なくできる」


「家の中もすごく広々としていますね!」

「酒場の調理場よりも使いやすそうな設計だわ」


 概ね好評のようだ。草が凄いのは俺も感じたので、いずれ全員で草むしりだな。


「これから家の掃除とか家具の発注とか色々あると思う。俺は家事に関しては良くわからんので、今回はティナにリーダーを任せようと思う」

「それがええ」

「わかりました」

「では……家の外は後回しにして、家の中を何とかしましょう」


 家事に関してはティナに任せるのが一番だろう。こっちは指示された通りにやれば問題ない。いつもは俺があれこれ指示を出す側なので、今日は新鮮な気持ちである。

 俺たちの家は土禁にするので、まずは家中の床を掃除することになった。



「二階から始めるわよ。二人が箒を、残りの二人が雑巾掛けを担当してちょうだい」

「わしは雑巾を掛ける」

「俺も雑巾を掛けよう」

「私とユナで床を掃くのね? 全員で一部屋ずつやるわ。ミナトはバケツに水を出して」


 手分けはしないのか。俺なら二組に分けて二部屋同時にと考えるところだ。

 二階はすぐに終わって、部屋の前の廊下から階段までを一気に片付ける。

 廊下と階段に四人もいらんと思ったが、手摺りまで拭いていたらやはり四人の方が早く終わった。






「一階の広間も同じように片付けるわよ。一番奥から玄関に向かっていって。暖炉の清掃は後日にするわね」

「家具がないのもあるが順調だな。まだ一時間経ってないと思う」

「そうですよね」


 一階部分も二階部分と同じくらいの時間で掃除が終わった。

 ここでティナが二階の部屋割りをどうするのか俺に聞いてくる。家事に関係ないところの判断は俺に回ってくるのか。


「二階の部屋割りは、でかいベッドがある部屋を女の子三人で使って、サキさんは六畳の部屋を一人で使うのが色んな意味で良いだろう」

「そうね」

「私もそれで良いと思います」

「わしだけ一人部屋をくれるのか? やや寂しくもあるな」

「寝るときと一人で遊びたいときだけ自分の部屋にいれば良いだろ」

「うむ……」


 部屋割りは特に揉めることもなく決まった。うちのパーティーはこういう部分で揉め事が起きないので助かる。サキさんも一人で遊べる空間ができて助かるだろう。


 二階の大部屋を三人で使うことになったので、いかがわしいベッドのマットは一度外に出して干すことにした。やたら大きいので大変だ。

 備え付けのレースのカーテンは後で洗うことにする。レースは無くても良いと思ったが、ティナとユナが気に入ったようなので外さないことにした。



「床の掃除が終わったので、ここからは掃除組と買い物組に別けるわ」

「どう別けるのが適任だろうか?」

「私とミナトが掃除を続けて、サキさんとユナは家具の発注をしてちょうだい」

「私とサキさんですか?」

「そうよ。必要な物を言うから、ユナが良いと思った物を選んできて」

「わかりました」

「サキさんは一人部屋だから、自分の物は自分で選ぶといいわ」

「武人らしい部屋にしても良いか?」

「もう好きにしろよ」


 ティナから買う物を指示されたサキさんとユナは、白髪天狗に二人乗りして王都へ向かった。


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