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第22話「日常への凱旋」

 俺たちはカルカスたちと共にコイス村まで戻って来た。村長と村の男たちはまだ洞窟前で作業をしている。今日は夕方まで後始末をするそうだ。

 カルカスが残りの村人を集めてミノタウロスの討伐を宣言すると、その場は大歓声に溢れた。もう生贄に怯えなくて済むこともあり、歓声はいつまでも続いていた。


「ニートブレイカーズの諸君、私は急ぎやらねばならん事があるので屋敷に戻るが、兵の数名は置いて行く。報酬は兵から受け取ってくれたまえ。では失礼する!」


 カルカスはミノタウロスの首を持った兵士たちと共に、馬に乗って走り去った。



「ではミナト殿、これが報酬の金貨480枚です。どうぞご確認ください」

「ありがとうございます。間違いはないと思うので、確認は遠慮しておきます」


 銀貨2万4000枚は全て金貨での支払いだが、流石に480枚も確認する気にならないので、カルカスの人柄から信用することにしておいた。


「ここは湖に面しているようだが、漁はやっていないのかな?」

「あまり魚は捕れないようですよ。この山を抜けた先にあるミラルダの町まで行けば豊富に捕れるらしいですが、ここから馬で四日は掛かりますよ」


 おいそれと行ける場所ではないようだな。夕食は用意して貰えるらしいので、俺たちは昨日泊まった空き家へと戻った。



「明日は朝一番にここを出よう。王都に戻ってから洗濯して銭湯に入る時間が欲しい」

「そうしたいです」

「物干し竿はどうしようかしら?」

「宿で借りるか雑貨屋で買うしかないな」


 最近の俺はきれいにしていないと気になるようになってきた。二日も風呂に入っていないので気持ちが悪い。ましてや今日は化け物と戦ったあとだ。服も洗濯したい。


「あと道中気になっていたが、王都に戻ったら日焼け対策に帽子を買おう」

「いいわね」

「それからアサ村の帰りに話したが家の話だ。現実味を帯びて来たと思わないか?」

「確かにの。だが王都を離れづらくならんか?」


 うーん。それもそうだ。両方を解決するなら馬車という手段もあるが、安物だと中途半端になるかもしれん。迷うところだ……。



 そんな話をしていると兵士が夕食を持って来てくれた。かなり適当な食事だったが兵たちと同じ物らしい。訓練の一環として自分たちで作っているそうだ。


 村人たちは今日は総出で今まで生贄としてきた者たちの供養を行うらしく、明日の夜には改めて歓迎ともてなしをしたいと言ってくれたようだが、肝心のカルカスは先に帰ってしまったし、今回は俺たちも遠慮することにした。

 残った兵士たちも明日の朝には屋敷の方へ撤収するらしく、かがり火や外に設置したテーブルなどを片付けて撤収の作業をしている。


 俺たちはまだ戦闘の興奮が少し残っているものの、なるべくいつもと同じように寝る準備をして毛布を被った。






 翌朝、日の出とともに目が覚めた俺たちは、コイス村に残っている兵士たちと一緒に歯を磨いて顔を洗って、兵士が作った適当な朝食をみんなで食べた。


 村を出る前に俺たちは村長に挨拶をしてから、兵士たちと帰りの道を共にしている。


「我々は街道を北に向かうのでここでお別れです。道中お気を付けください。では!」

「うむ。そなたらも達者でな」


 カルカスの屋敷をちょっと見てみたい気もしたが、俺たちは南に進路を取った。

 山道を抜け、山を下りたところで休憩し、再び移動して、街道と川の合流地点でもう一度休憩を挟む。


「この調子なら暗くなる前に王都まで戻れそうだ」


 予想通り、王都へは随分早くに戻って来れた。プロの兵士に馬移動のイロハを教わったせいもあって、今回はあまりダラダラと休憩しなかったことが大きい。






 王都に戻った俺たちは、寄り道をしながら冒険者の宿へ帰ることにした。


 最初は武器屋へ。今回はティナとユナの遠距離射撃の有効性を思い知ったので、ユナと同じ仕様のカスタムロングボウをもう一張買ってティナに持たせることになった。

 王都では最高ランクの弓を立て続けに二張も買ったせいか、店の兄ちゃんが予備の弦を二本付けてくれる。ついでに矢筒もタダで付けて貰えた。もう常連だな。


 俺は元々のロングボウをティナから返して貰い、遠距離射撃を三人態勢にしてみた。


 隣の防具屋では、ティナのハードレザーの籠手を弓にも対応できるように手直しを頼んだ。状況に応じてレイピアにも切り替えできる方が便利だろう。


 それから、初日に買えなくて一部革製のまま凌いでいたサキさんの防具を、ようやく本来の鉄鎧の姿にした。

 足りなかった部位まで買い揃えてやると、普段あまり買い物を喜ばないサキさんもいつになく喜んでいる。

 こいつはバカだが、本気で喜んでいるときの顔は可愛げがあって見ているこっちも嬉しくなるから不思議だ。



 次はいつもの服屋で三人の帽子を選んだ。


 今回買うのは馬移動の日焼け対策に必要な物なので、嵩張らずに実用的なボンネット帽を買うのだが、一番安い実用品は農家のおばあちゃんみたいだとティナとユナが拒否したので、結局フリルやリボンが付いた感じのを買うことになった。

 そういう俺もさすがに実用品は味気無いわと思ったので、鏡を見ながら二人に選んでもらった。ちなみにサキさんは手拭いでも被っておくと言って聞かない。



 最後は雑貨屋で日用品の補充を行ったが、ついでに探していた物干し竿の中に組み立て式の物があったので買ってしまった。三本の棒を繋いで使うようだ。

 物干しロープを嫌う人には携帯用として人気があるらしい。でも繋ぎ目が弱いので、あまり無茶をすると壊れて洗濯物が台無しになると店のオバちゃんが言っていた。


「他にどこか行きたい場所はあるかな?」

「市場でハーブティーに使えそうな物を探したいです」

「私も行きたいわ。そろそろ調味料を揃えていこうと思うの」

「わしは銭湯に行きたい」

「お前はそればっかりだな」


 意見が分かれたようなので、俺とサキさんは先に冒険者の宿まで戻ることになった。






 冒険者の宿に戻ると馬の手入れはサキさんに任せて、俺は今日の部屋を借りにカウンターへ向かう。


「よう。ミノタウロス討伐に成功したようだな。先程領主の使いの者が報告に来たぜ」

「はええな」

「王様に報告するついでだとよ。まあ……お前らが無事で良かったよ」

「え? なに? 心配してくれてたのか?」

「ばかやろう! そんなんじゃねえよぉ!」


 強面親父は茹でだこのように顔を赤らめた。この親父、ツンデレである。

 俺は部屋の鍵を受け取り、何往復かして二階へ荷物を運んだ。暫くすると白髪天狗の手入れと餌やりを済ませたサキさんも部屋に入ってくる。


「暇だし先に銭湯行ってもいいぞ」

「そうさせて貰う」


 サキさんは普段着に着替えると、全く遠慮せずに一人で銭湯に行ってしまった。まあ今回のMVPだしそのくらいは許されるだろう。



 俺が暇を持て余して窓の外を眺めていると、ティナとユナも帰ってきた。ハヤウマテイオウの世話はティナがやるので、荷物は俺とユナの二人で運んだ。

 ようやく三人で一息ついたのは、四人分の服を洗濯してからである。


「今日は色々なハーブと素材を買ってきました」


 ユナは元から趣味のハーブティーをこっちの世界でもやるみたいだ。あまり飲み物の種類がないので、こういう趣味ならありがたいと思う。

 ティナは箱に入った調味料のセットを買ってきた。これで調理場さえ確保できれば毎日ティナの手料理が食える可能性も出てきたので、やはり家は欲しい。


「混み始める前に銭湯へ行くか」

「そうね」






 三日ぶりに銭湯に入れたのが嬉しくて念入りに体を洗っていると、なんとティナたちと同じくらいの時間が掛かってしまった。


「ちゃんと洗うとこのくらいの時間が掛かってしまうのか」

「あまり強く擦らない方がいいわよ。こことか……ほら……」


 湯船に浸かろうとしていた俺にぴたっとくっ付いて、ティナの小さな手が俺の内股の辺りを撫でて来た。鞍を挟んで蒸れたのか、妙に痒くて擦りすぎてしまった部分だ。

 俺もティナも裸なので、こんなにぴったり密着されると……風呂場で温まってきた体温と、ティナの柔らかくてしっとりとした肌の感触が絡み付くように伝わってくる。


「ホントですよ。せっかくきれいな肌なんですから、もっと大切にしてください」


 今度は反対側からユナが抱き付いてきて、擦りすぎた内股の辺りを撫で始めた。こちらは脇の辺りから俺とユナの胸が密着して、何とも言いようのない感触がある。


 ティナとユナは風呂場でも良く抱き合ったりしてキャッキャ騒いでいるが、いつもこんな感じなのか……女の子同士のもちっとした弾力とつるつるの肌がお互いに密着するのは凄く気持ちがいい。


 俺は放浪の旅に出た将軍様の付け根の奥がしっぽり濡れてくるような感触を覚えて、慌てて湯船にヘナヘナと座り込むのだった。


「肌の手入れも大切だなあ……」



 銭湯から上がった俺たち三人は、帰りに雑貨屋へ寄っていた。肌の話をしていると、爪の手入れはどうするんだろうという話になって、それらしい道具を探しにきたのだ。


「小さいナイフか、このやすりで整えるんだよ」


 店のオバちゃんは刃渡り3センチくらいのナイフと、木の棒に目の細かい鮫革のような物が貼ってあるやすりを持ってきた。

 流石に爪切りはないか……俺たちはナイフ一本と、やすりを三本買って宿に帰った。






 宿の部屋に戻ると、あの尻突きバカ侍はまだ銭湯から戻っていなかった。


「あいつも飽きんなあ」


 俺たちはベッドの上で輪になると、雑貨屋で買ってきたやすりを使って手と足の爪を整えた。きれいに仕上がった爪を見せ合っていると、やがてサキさんも帰ってきた。


「何の儀式か?」

「爪のお手入れよ。サキさんもする?」

「爪切り用のナイフあるから使えよ。やすりとか女々しいのは好かんのだろ?」

「うむ」


 サキさんはナイフの方が気に入ったらしい。延びた爪を器用に切り取っていた。


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