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第20話「コイス村」

 昨晩は早めに寝たのだが、戦闘訓練の疲れもあって日の出を過ぎてから目が覚めた。

 俺たちは朝の支度を済ませると酒場で軽い朝食をとってから部屋を引き払い、馬に荷物を載せているところだ。


 道中おかしなモンスターと遭遇したときは、馬で逃げ切るか弓で対応するという段取りにしたので、防具の類は全員身に付けていない。


「コイス村までは馬だと夕方頃には到着できるようだ」

「食材はいらないかしら?」

「夜間は狼が出るらしい。少し遅くなっても村まで走った方が良いかもな」


 コイス村へは、通常なら王都の北門から出発する。

 俺たちが泊まっている冒険者の宿は王都の南西に位置しているので、一度カナン方面へ続く西門から出て馬を走らせたほうが早く王都から出られるだろう。






 白髪天狗には俺とサキさん、ハヤウマテイオウにはティナとユナが乗っている。それぞれの背負い袋を馬の左右にぶら下げ、テントと毛布を分担して詰み込んだ状態だ。

 王都の西門から川沿いを北上し、農業地帯を走り抜けて、北へ続く街道を進んでいる。


 馬の後ろに乗った俺は暇を持て余して精霊石のテストを繰り返していた。追い風を作ってやると馬の負担が減るのではないかとか、そんな感じだ。

 ユナの方はおしゃべりで盛り上がっているので、特に暇を持て余す様子もない。こっちはずっと無言なので正直羨ましい気がする。


 何か珍しい物があるたびに双方の馬を近づけては会話が弾み、また自然と距離を離すようなことを繰り返していると、休憩できそうな場所を見つけた。


「街道と川が合流しているな。そろそろ馬を休ませよう」



 俺たちは川のほとりまで移動すると、馬に水をやりながら靴を脱いで、冷たい川に足を浸していた。ズボンをまくるだけで良い俺とサキさんは楽だが、ティナとユナはいちいちタイツを脱がないといけないから面倒そうだ。

 もう脱いでいれば良いのに、日焼けしたら足がツートンカラーになると言って穿いているんだよな。ティナだけならまだしも、ユナまで同じことを言い出すし……。


「こっちに来てから魚食ってないよな」


 四人並んできれいな川を見ていると、俺は魚の味が恋しくなってしまった。


「街で売ってるのも見たことがないわ」

「そういえば見ませんね」

「今度ナカミチに釣り道具でも作って貰うか……」

「釣りに興じるか……悪くない」


 こっちの世界の川魚は食べても大丈夫だろうか? 今度調べておこう。






 川での休憩を終えた俺たちは、街道をさらに北へ向けて進んだ。

 前を向いても後ろを向いても街道しか見えない。旅人の姿もない。茶屋もない。この世界の移動は護衛付きの乗合馬車で行うのが一般的だ。


「あの山の向こうにコイス村があるらしい」


 平坦な街道に傾斜が付き始めた。山の外周をぐるっと半周するような形で街道が作られているため、峠越えのようなハードな移動をしなくても良いのが救いだ。

 止むをえず徒歩で抜ける場合は、山の入り口付近で野宿をするらしい。ここから先は水を確保するのが難しくなるからだ。ただし、夜には狼が出るので危険な場所でもある。


「もうお昼を過ぎた頃ですね」

「相当でかい山だが、どうするのだ?」

「進もう。最悪の場合でも魔法で何とかなる」


 本日二つ目の休憩地点で馬を休ませたあと、俺たちはこのまま進むことに決めた。休憩の加減がわからないので、長く取りすぎたせいだろう。予定より遅れている。



 山道に入った直後は暫く登り坂が続いていたが、そこを抜けると再び平坦に近い街道に戻った。

 道の山側は岩ばかりの急斜面になっている。その反対側は谷底になっていて、ガードレールも無い危険な道だ。垂直の崖ではないが馬に乗ったまま落ちたら大変だろう。


 俺は念のため、暗くなる前に光の精霊石を9個に増やしておいた。


「谷の下を見て。凄い魚がいるわ」

「……あ! 大きいですよ! イルカくらいありそうです!」


 ティナと一緒に谷底を見ていたユナが興奮した口調で言うので、俺とサキさんも谷底を覗いてみた。確かにありえない大きさの魚が泳いでいるのが見える。


「川魚であのサイズは気持ち悪いな」

「……あれは駄目であろう」


 谷底に広がる川には、ユナが言う通りイルカのように丸々とした巨大魚が泳いでいた。

 これが海なら平気だが、淡水魚だと思うと気持ちが悪くなってくる。あのサイズには命知らずのサキさんでも少し引いたみたいだ。



 どれくらい進んだのか見当も付かないが、そろそろ日が沈もうとしている。

 コイス村は山道を進んだ先にある大きな湖に面した村だ。途中で街道が別れていて、川沿いに続く脇道を進めば辿り着けるらしい。


 いつも思うが正確な地図もわかりやすい標識もないので道中は不安が付きまとう。


 恐らく山中にいるせいだと思うが、思ったよりも早くに日が沈んだ。俺は光の精霊石を使って街道を照らしている。

 偽りの指輪は便利だが、ずっと集中を維持するのは難しい。いきなり明かりが消えると危険なので、辛くなったらサキさんをつついて休憩の指示を出すといった具合で歩を進めている。


 日が沈んで四十分ほど進んだ頃だろうか? 街道と別れて続くもう一本の道が見えてきた。


「あの別れ道かしら?」

「間違いなかろう」


 俺は魔法の集中を切らさないようにサキさんをつついた。意味は通じたようだ。



 街道から別れた脇道は、先程までの山道とは違って植物が多く見られる。魔法の明かりで照らしているので、範囲内であれば昼間と同じように確認することができた。

 コイス村への脇道に入ってから二十分ほど進んだだろうか? 魔法で照らしながら一時間あまり。光の精霊石は7個消費した。

 馬二頭分が安全に動けるだけの広範囲を照らしているので消耗が激しい。


 もう谷底に落ちる心配もなさそうなので、俺は明るさを加減した。村に入ったとき、昼間のように明るい一行が入ってきたら騒ぎになるしな。


「村の明かりでしょうか?」


 俺は村に近づくほど光を弱めていき、村の入り口に到着するタイミングで光を消した。






 村の入り口にはかがり火が焚かれていて、入り口には兵士のような男が立っている。その男は俺たちに気が付くと、走ってこちらに近づいて来た。


「この村は現在立ち入り禁止だ! 旅の者なら立ち去られよ!」

「ミノタウロス討伐に来たニートブレイカーズである。責任者に取り次いで貰いたい」

「そうでありましたか! 暫くお持ちください!」


 やたら声のでかい兵士は、くるっと回って気を付けをすると、駆け足で村の奥へと走って行った。



 その男はすぐに戻ってきて、俺たちはそのまま村の奥へと案内された。俺たちは馬から降りて手綱を引きながら、その男のあとを追う。

 村の中でもいくつかのかがり火が焚かれ、大きな木のテーブルを数人の兵士が囲んでいる。その上座には、デブでチビでハゲでやたら派手な服で着飾った男が立っていた。


「カルカス様! 冒険者を連れて参りました!」

「うんむ、ご苦労。お前は見張りに戻って良いぞ」

「ハッ!!」


 カルカスと呼ばれたデブでチビでハゲで派手な服を着たおっさんは、偉そうに兵士に命令するとこちらに向き直り、すたすたと歩いて来る。


「私が領主のカルカス・ペペルモンドである。貴公らがミノタウロス討伐を志願した冒険者で違いないか?」

「はい。俺がニートブレイカーズのリーダー、ミナトです。早速ですが詳しい話を聞かせてください」

「随分若くて美しい女性がリーダーなのだな。おんや? 後ろのお嬢さん方もお美しい。冒険者など辞めて、私の屋敷で働かんか?」

「カルカス様!!」

「冗談じゃ。実のところ困っておったのだ。来てくれたことに感謝するぞ。そこへ腰掛けて貰いたい。早速説明に入らせて頂こう」


 見た目もあって一瞬ダメな人かと思ったが、領主のカルカスは真面目な顔に戻ると俺たちに説明を始めた。

 俺たちは大きなテーブルを囲んで話を聞く。馬の世話は兵士が引き受けてくれたようで、目の前には酒と果物と軽い食事が運ばれてきた。






 話の大筋は宿の親父が説明した通りだ。新しく領主に任命されたカルカスの耳に、毎年ミノタウロスに生贄を捧げている村があるという噂が入り、兵を連れて討伐に向かったものの返り討ちにあったらしい。


「わしらはミノタウロスを見たことがない」

「牛の頭をした半人半獣じゃ。体長はゆうに2メートルを超え、肩幅ですら1メートルを超える化け物である」

「でかいな……」

「棍棒の一振りで兵二人が倒された。あれでは手に負えん……」

「ほかに特徴はないのかしら?」

「ないはずじゃ。とにかく力が強い。足も速くて弓兵も役に立たん」

「うーむ……」


 話を聞く限り、サキさんでも真正面から戦うのは無理だろう。ユナくらいの遠距離射撃ができれば良いが、ユナ一人では倒し切る前に突進を食らう危険がある。

 策を練るしか方法はなさそうだ。いつものような行き当たりばったりではだめだ。



「ミノタウロスの住処周辺の地形を詳しく知りたいな……」

「兵の中に絵の上手い者がいるので、描かせてみよう」

「それから、どうやって生贄を捧げていたのかも詳しく教えてください」

「村長に話をさせよう」

「戦術に必要な物が出てくるかもしれません」

「全て用意する」


 カルカスは話が早かった。現状戦力では倒せないので、全て俺たちの方法に委ねるということだろう。



 兵士の一人が俺たちの前で説明を交えながら現地の絵を描き説明してくれる。なかなか絵が上手いので驚いた。これなら危険な現地を視察しなくても良さそうだ。

 それが終わると村の村長が悲惨な生贄の話をはじめ、その場にいたカルカスも顔を歪ませながら聞き入っていた。

 刺激が強かったのか、ユナはティナにしがみ付いている。


 俺は食事として運ばれてきた干しぶどう入りのパンをかじりながら策を巡らせた。


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