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第18話「偽りの指輪」

 ユナの買い物とポップコーン作りに成功した翌日、俺たちは朝の支度を済ませると普段着に着替えてから冒険者の服をせっせと洗濯し、調理道具と動物の餌を持って魔術学院に向かっていた。

 魔術学院は王都の壁の外にあるので、街から出た所で火を起こしてポップコーンを作ってからエミリアの元へと向かう。


「このくらいでいいかしら?」

「そうだな」


 この世界には使い捨ての紙コップのような物がないので、俺は昨日のうちに用意しておいた麦わらの小さなバスケットにポップコーンを入れていた。

 昨日は植物油だけで作ったが、今日はバターを混ぜて作ったせいか一段と香ばしい匂いが漂っている。






 俺たちは再び魔術学院の門番に案内してもらい、早速エミリアの元へと向かった。


「みなさんおはようございます……ユナさん? ああ、すっかりきれいになって……」

「はい。ミナトさんたちに助けていただきました」


 小奇麗になったユナを見て、エミリアは胸を撫で下ろしている。

 そんなに心配だったのなら三日前の時点で無理にでも保護しておいてやれよと思ったが、ユナの置かれた状況を知らなければそうも言えんか……。



「早速だがエミリア、例の指輪はどうなった?」

「あ、そうでした。鑑定は終わっていますよ……これは偽りの指輪というエスタモル時代のマジックアイテム……魔道具でした」


 なんだかキナ臭い名前の道具だな。俺たち四人は一斉に引いた。


「……呪われたりしないだろうな?」

「正しく使えば危険なアイテムではないので、実際に試してみるのが早いと思いますよ」



 偽りの指輪を受け取った俺は、自分の指にはめてみた。特に何も起こらないようだ。


「その状態で指輪に意識を集中するんです。難しい時は目を閉じてみてください」

「こうか?」


 俺は軽く目を閉じると、指輪の感触がする指を通して意識を集中させた。すると俺の感覚ではない別の感覚を通じて、俺の周囲にある力のようなものを感じ取れるようになった。

 例えば足元の地面に広がる土の温度とか、壁のように押し寄せる風の動きとか、掴めないはずの光が感触として伝わってきたりとか……。


「目を開けても良いですよ……どうですか? 精霊力の存在を感じたでしょう?」

「なんか不思議な感じだった」

「これは指輪の効果の一つで精霊力感知です。魔術師なら魔力感知も同時に行えるのが普通ですが、この指輪は精霊力感知に限定されています」

「限定とはいえ、一般人でも身に付けた瞬間から使えるようになるのか」

「はい。ですが精霊力感知は効果の一部で、本来の効果は精霊力の行使です」



 エミリアはポケットからビー玉のような物……精霊石か? を取り出すと、目を閉じて念じ始めた。

 すると掌に乗せた精霊石が透明から綺麗な緑色に変わっていく。


「ミナトさんも自分の精霊石でやってみてください。風を捕まえて精霊石に吸い込ませるイメージでやると簡単ですよ」

「んーーーーー……」


 さっき感じた精霊力の感覚を覚えていたので、エミリアの説明は簡単に理解できた。

 俺が風っぽい力を精霊石に吸い込ませるイメージをすると、精霊石の中に異質な風の力を感じるようになった。

 目を開けて手の中を確認すると、俺の精霊石はエミリアと同じ緑色になっている。


「これが水晶玉や精霊石に精霊力を封じ込める方法です。優秀な魔術師なら純粋な魔力を封じ込めることもできるようになります」

「へえ、これが……」


 緑色になった精霊石を指で転がしながら、俺は太陽に透かしてみたりした。中に液体が入っているような感じにも見える。



「では、最後に精霊力の解放です。精霊石に感じる風の力を外に逃がすイメージで解放できます」


 エミリアの方から意志を持ったようにうねる風が俺の髪を揺らし始めた。


「一気に解放すると突風になって危険ですから、隙間風を作るようなイメージでやってみてください」

「やってみる……」


 精霊石の中に感じる風の力を、隙間風のようなイメージで逃がしてやると、俺がイメージした通りの方向へ風が流れて行くのがわかる。

 ゆっくり目を開きながら続けてみたが、そのくらいでは集中が途切れたりはしない。窓を閉めるようなイメージをすると、風も止まった。

 精霊石はまだ緑色のままだ。少ししか解放しなかったせいかな? 俺は充電式の乾電池やガスライターのような物を連想してしまった。



「なるほど。こうやって使うのか」

「この指輪を嵌めると、普通の人でも魔術師のように振る舞うことができるのです。ただし精霊石を通してしか使えないので、本物の魔術師のように直接精霊力を操ったり、魔力を付与して効果を固定することはできません」


 いやいや、それでも十分強力だろう。


「エスタモル時代の貴族は魔術師しか認められていなかったので、魔法の資質を持たない子供が生まれると、魔道具の力で偽らせていたという文献もあります。真偽のほどは不明でしたが、実際にこういう魔道具が存在するとわかったので貴重な発見でした」


 こんな魔道具が蔓延し始めたら体制も崩れるだろうな。まさに偽りの指輪だ。






「ありがとうエミリア。これは俺たちでは使い方がわからなかっただろう」

「いえいえ、いいんですよ。私も新しい発見ができて有意義でした」

「早速だけど珍しいお菓子を持ってきたので受け取って欲しい」


 俺はエミリアにポップコーンの入ったバスケットを手渡した。恐らく初めて見るだろう不思議な食べ物を一つ摘まんで、まじまじと観察している。


「ユナの提案でな、俺たちの世界のお菓子を作ってみた。この世界で一番珍しいお菓子だ。素材はサキさんが見つけて、ティナが作った」

「確かにこれは珍しいです。最初はキノコの一種かと思いました」


 一つ摘まんでゆっくり味わったあと、もう一つ摘まんで、さらにもう一つといった具合に食べていたら……結局、エミリアはその場で全部食べてしまった。



「面白いお菓子ですね。素朴な塩味で……甘いお菓子とはまた別の魅力があります」

「気に入って頂けたかの?」

「はい。ちょっと意地悪な課題だったかなと思っていたのですが、見事にクリアされましたね。やはり冒険者を希望されるだけのことはあると思いました」


 ユナの言う事が正しかったようだ。それなら……と思って、俺はユナが言っていたもう一つの答えをエミリアに聞いてみることにした。


「エミリアってどっかのお嬢様だったりする?」

「お嬢様と言えるかはわかりませんが……一応貴族の家の生まれですよ。私の名前はエミリア・ベント・フェルフィナ。代々国王陛下に仕える魔術師の家系です」


 エミリアはお嬢様っぽい仕草で自分の名前を明かした。ユナが感じた通り、エミリアはお嬢様だった。なるほど、こういう勘は鋭いんだな。



「精霊石の元になる水晶玉が欲しいときは、どこで買えばいいのかしら?」

「そうだな。色々試したいし何個かあると良いな」

「水晶玉なら雑貨屋を回れば同じサイズの物が見つかると思いますよ。私は使わないので精霊石ばかりでも良ければ差し上げますけど」


 そう言えば前にくれるって言ってた気がする。俺が遠慮せずにくれと言うと、建物に戻っていったエミリアは、麻袋をぶら下げて戻って来た。


「これをどうぞ。水晶玉がいくつかあったので、それも入れておきました」

「悪いな……なんか多くないか?」

「私が担当しているところでは誰も使わないので……」


 麻袋に入った精霊石は、ざっと見ても二十個くらいあった。






 エミリアと別れた俺たちは、一度宿に戻って装備を整えたあと、馬で街の外へ出て戦闘訓練をすることにした。いきなりゴブリンと戦ったときに後悔したので、今回はその反省を踏まえて事前に練習しようということになった。


「この指輪は解放するときの加減が難しいわい」

「サキさんには合わんか? まあ十分強いし、馬上訓練でもやったらどうだ?」

「そうさせてもらおう」


 サキさんはロングスピアとロングソードで馬上訓練を始めた。結構激しい動きだ。



「弓の威力は凄いですけど、矢の品質が悪くて安定しないです」

「矢の方も関係するのか」

「はい。いい加減な矢が混じっているので、弓の調整も難しいです」


 あとで矢筒を買い足して、実戦用と練習用の矢を選別させるのも手だな。練習しないと気付かなかった問題だ。それでもユナは30メートル程度の距離なら殆ど外さない。

 試しにどこまで狙えるかを確認すると、出来の良い矢なら50メートル近くはある目標にも当てることができた。



「俺としてはティナが指輪を使うのが一番良いと思ったのだがな……」

「実はちょっと期待していたのに残念だわ」


 なぜかティナだけは偽りの指輪が使えなかった。精霊力感知が働かなくて指輪の能力を使えなかったのだ。魔道具にも個人差があるのだろうか?


「私もサキさんと同じく接近戦を……」

「駄目だ。せめて俺の弓を使ってくれ。接近戦は最後の手段にして欲しい」

「仕方ないわね」


 ティナはサキさんの次に接近戦で強いが、やっぱり危ないので俺の弓を持たせることにした。撃たせてみるとユナには敵わないがそこそこ当ててくる。

 弓はユナの次に上手いのだな。ティナには二人の支援戦闘に回って貰おう。



 接近戦も射撃もろくに出来ないのは俺だけになってしまった。こうなったら偽りの指輪を駆使してパーティーの役に立つしかない。


 俺は一日中魔法の練習をした。


 練習の甲斐あってか、目的の精霊力の吸収と解放のコントロールには自信が付いた。


 俺は27個ある精霊石のうち、風を3つ、土を3つ、光を3つ吸収しておいた。物は試しにやってみたが、光も吸収できるとは思わなかった。

 精霊力というから四大元素だけかと思っていたのだが、扱える精霊力の種類くらいは聞いておくべきだったな。暫くは自力で試行錯誤を続けてみよう。


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