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第163話「アイアンハンマー」

 ミスリル銀の魔剣を振りかざしたサキさんが、地面から頭を出しているはがねのゴーレムにその刃を振り下ろすと、まるで反発する磁石のように魔剣が弾かれそうになった。


「ぬ!?」

「大丈夫か?」

「魔法かの? 反発しおるわい!」


 最初は地味なやり方に不満の表情を浮かべていたサキさんだったが、思いもよらぬ抵抗があったので真面目な顔に戻った。


 一旦叩き切るのをやめたサキさんが、ゴーレムの頭に対して垂直に魔剣を突き立てると、魔剣の切っ先から派手な火の粉が飛び散り始めた。

 ──火の粉というよりは光の粒子みたいだが、派手な見た目に反して無音なので何とも間の抜けた気分になる。



「エミリア、あの光の粉は大丈夫なのか?」

「ゴーレムに施されている魔法の防御壁が削られているんです。あれのせいで魔法の矢が通じなかったんですよ」

「俺が足で蹴った時には、特に反発するような感触はしなかったんだけどな」

「本体に傷を付けるほどの力を加えないと、反発しないのだと思います」

「……そういうものなのか」


 暫くサキさんの様子を見ていたが、突き立てた魔剣の柄を叩いたり殴ったりしたあと、もう一度はがねのゴーレムを渾身の力で何度も斬りつけてから──諦めた。


「だめかー?」

「剣が軽すぎて力が入らぬ。やっと突き立てても鉄をえぐるまで行かんわい」

「その魔剣で本体までは到達できるんですか?」

「うむ。そこから力の入れようがないの」

「まあちょっと上がってこい。休憩にしよう」






 俺たちはユナのお茶で一息入れながら、穴の下のゴーレムを眺めている。


「ここまで守りが堅いと戦う以前の問題だな」

「うむ……」


 本体に傷を付けるような攻撃をすると、魔法の防御壁が邪魔をする。借り物のミスリル銀の魔剣なら防御壁を相殺して本体にタッチする所までは行けるようだ。

 いくら本体にタッチできても、剣の先っぽでぐりぐりやる程度ではがねの本体をどうにかできるとは考えにくいが……。

 このゴーレムを作った古代の魔術師は相当な自信を持っていたようだが、ここまで凄いと素直に褒め称えるしかないだろう。


 普通にやったら人間の太刀打ちできるところじゃない。製作者の魔術師は、今頃あの世で笑い転げているかもしれないなあ……。



「ティナとユナはどうしたのだ?」

「もう飽きてご飯作りに帰ったんじゃないのか?」

「…………」


 流石のサキさんも肩を落としたが、それでも諦めずに鋼のゴーレムが埋まっている穴に飛び降りて行く。



 それから少し経って、ティナとユナが家から戻ってきた。どこから手に入れたのか、ティナは鉄製の大きなハンマーを持っている。


「ガオラさんから借りてきたんです」

「それはいいけど重くないのか?」

「魔法を使わないと厳しいわね。一体何キロあるのかしら?」


 ティナとユナは穴に降りて、何やらサキさんと作戦会議を始めたようだ。何をするのか大方予想できた俺は、エミリアにお遣いを頼むことにした。



「エミリア、すまんがミラルダの町まで行ってエビを買ってきてくれ。伊勢エビじゃない方の小さいやつがいい。あと魚介類を適当に頼む。今日の晩は家の改装記念をやろう」

「わかりました。何だか久しぶりな感じがしますね!」


 エミリアはその場でテレポートしてミラルダの町へと飛んでいった。テレポーターを使わずに任意の場所へテレポートできるのはやはり便利だな。


 エミリアの姿が消えたのを確認した俺は、みんながいる穴へ降りていった。






「とりあえずエミリアを退席させたぞ。その魔剣をゴーレムの頭に突き立ててから、鉄のハンマーで打ち込むつもりだろう? 流石にエミリアには見せられん光景だな」

「ありがとうございます。エミリアさんなら勝手に卒倒すると思って放っておいたんですけど、助かりました」


 相変わらずユナはエミリアに手厳しい。いつか理由を聞いてみたいものだ。



「段取りは理解したのであるが、わし一人では難しいわい」

「私の魔法で魔剣の位置を固定しておくわ」

「俺だけ何にもしないのは悪いから、打ち込みやすいように足場を作ってやろう」


 俺はサキさんが魔剣を叩きやすい高さになるまで、砂の魔法で足場を作ってやった。


「……うむ。皆、もう一度下がっておれ」


 俺とティナとユナは、サキさんの斜め後ろに避難してからそれを見守る。

 ティナは魔法で魔剣の位置を固定しているし、今はエミリアもいない。不手際で魔剣がすっ飛んできたときは俺が何とかするしかない。

 俺は砂の精霊石を持ったまま、いつでも砂の魔法でバリケードが作れるように身構えた。



「……そぉれ!」


 サキさんは鉄の塊で出来た大きなハンマーを力いっぱい振り下ろして魔剣のの部分を叩く──遺跡はすこぶる吸音性が悪い。当然ながら、もの凄い音が響いた。


「これはうるさい! 耳がバカになりそうだ!!」

「我慢せえ!」

「ミナトさん、魔剣とゴーレムの頭の周りを真空に出来ないんですか?」

「どうだろう? 良くわからんがやってみる」


 俺は土の精霊石から風の精霊石に持ち替えて、科学番組の実験のようなイメージで真空状態を作った……と思う。

 俺がサキさんに頷いて合図をすると、再び鉄のハンマーが振り下ろされた。



 ……音量は抑えられたが、やっぱり結構うるさい。


「何もしないより全然違います! この状態を続けてください」


 サキさんは何度も何度も鉄のハンマーを振るう。最初のうちは変化がないように見えていたが、徐々に魔剣がゴーレムの頭に突き刺さっていき、ある所を境にして一気に魔剣が押し込まれた。






「抵抗がなくなったわい」


 ハンマーを地面に置いたサキさんは、はがねのゴーレムの頭に突き刺さった魔剣の柄を持って、その場で何度か抜き差しをしてから鞘に収めた。


「魔剣の方は壊れてないか?」

「傷も付いておらんの。柄の宝石など粉々に砕け散るかと思うておったが……」


 あれだけやって傷一つ付かないとは、やはり魔法の品の耐久力は計り知れんな。


「ゴーレムの機能は停止したんでしょうか?」

「……魔力自体は今も感じるわよ」

「でも、もう魔剣を当てても火花は出ないよな?」

「出んの」


 光っている目が消えるとか、外見的にもわかりやすい状態になればいいのだが、これではいまいち確信が持てないぞ。こういうのはエミリアに任せた方が良さそうだ。



「エミリアが帰ってくるまで待つしかないな。サキさんは鎧を脱いでこいよ」

「うむ」

「私はハンマーを返してくるわね」

「俺はトイレ行ってくるかなあ……」


 俺たちは見張り役に残ったユナに魔剣を渡して一度家に帰った。






 俺がトイレに行くと、馬小屋の拡張工事も終わって瓦礫がれき端材はざいを片付けているガオラさんたちが居た。


「もう日が傾きかけてるのか」

「思ったよりも長く遺跡にいたみたいね」


 ティナが鉄のハンマーを返している間に、俺はトイレで用を済ませた。



 トイレ兼馬小屋の離れがどうなったのか、まだ日のあるうちに見ておきたいと思った俺は、ガレージの方から勝手口までをぐるりと回ってみた。


 今までは調理場の勝手口から幅1メートル、長さ2メートルほどの屋根付きの通路で繋がっているだけだったので「離れ」と呼んでいたが、今ではガレージの外壁とツライチになったので完全に「家」と同化している。


 相変わらず屋根付きの通路を歩くことには変わりないが、ガレージに続くドア側にも屋根が延長されたことで、今までのように雨風あめかぜが吹き抜けるようなことにはならないだろう。

 この屋根の横には以前取り付けたオーニングテントがあるので、それを展開すればサキさんの部屋と同じような横長の六畳間に近いスペースが確保できる。


 ちなみに肝心の馬小屋は横に延長して約二倍の広さになった。こちらは調理場や風呂場がある方の外壁とツライチになっているようだ。



「どうであるか?」

「馬小屋も広くなったぞ。早速馬を入れてやろう。ずっと森の木に括り付けていたからな」

「広うなったがわらが足りんの。うて来るわい」


 サキさんは首にタオルを掛けたまま、白髪天狗に荷車を付けて街へ出かけてしまった。

 ゴーレムの確認作業には立ち会わないつもりだろうか?


 ……まあいいか。


 調理場ではティナが夕食の準備を始めている。俺が家の外を歩いている間にエミリアが食材を運んできたらしい。俺はハヤウマテイオウを馬小屋に入れてから、急ぎ足で遺跡に戻った。






 俺が遺跡に戻ると、ユナとエミリアは穴の中に降りてはがねのゴーレムの状態を確認しているところだった。


「どんな感じだ?」

「活動は停止していると思います。私は専門外なので、後ほど依頼主に確認して貰うのが確実でしょう」

「じゃあ、このままの状態で引き渡そう。下手に穿ほじくり返さない方がいいな?」

「そうしてください。私は殿下に魔剣を返してきますね」


 エミリアは俺とユナの目の前でテレポートした。


「俺たちも帰ろう」

「…………」

「どうかした?」

「あ。いえ……」


 俺とユナもテレポーターの子機に乗って家の中にテレポートした。


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