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第162話「古代遺跡、再び」

 俺たちが玄関口へ回ると、今まで建物の左寄りにあった玄関の扉が、家の増築に伴い、ほぼ中央に位置するようになっていた。

 玄関口から左側が新たに増築された部分になるのだが、そこには観音開きの大きな扉が設置されている。つまりここが荷馬車を収めるガレージになるわけだ。



「馬小屋の反対側になってしまったな」

「向こうは離れの建物が家と隣接していますから、幅が狭くて荷馬車が通らないんですよ」


「……うむ。この納屋なやは荷馬車の他にも物が置けそうだの」


 サキさんは観音開きの大きな扉を開いて中を見渡す。俺も興味津々に覗いてみた。



 ガレージは十畳ほどのスペースがあり、調理場や風呂場と同じような石畳になっている。

 ガレージに入ってすぐ、右側の壁にはスライド式のドアがある。この位置は本来木窓があった場所だ。ユナがドアを開けると、階段の手前に繋がっているのがわかった。

 玄関と階段とガレージのドアが隣接しているのは使いやすいかもしれないな……。


 このガレージは左右の壁に物置きの棚として使える頑丈な板が設置されていたり、武器類を掛けておくフックのような物まで用意されている。


「階段の廊下に置いてある私たちの弓はここに置けそうね」


「ガレージの奥は壁一面がになってるようだが?」

「この引き戸は奥の部屋を仕切るパーティションなんです。戸を全部外してガレージと繋げたら、荷馬車を四台くらい収めることもできますよ」



 俺が引き戸を開けると、ガレージと同じ石畳の床をした六畳ほどの部屋に繋がる。


「こっちの部屋は家の中に繋がるドアが無いんだな。部屋の奥に見えるスライド式のドアはトイレの方に繋がっているのか?」

「離れに続く廊下の手前に出ます。ガレージの中で荷車と馬を切り離したあと、ここを通れば馬だけを馬小屋まで連れて行くこともできるんです」

「家を半周せんで良いのか? それは便利だわい」


 サキさんが馬小屋に繋がるドアを開け放つと、外で作業しているガオラさんたちと目が合った。今は馬小屋の拡張工事をしているようだ。



「もう帰ってきたんか? 家の方は出来とるんじゃが、馬小屋は夕方までかかるぞい」

「お疲れ様です。俺たちはまた用事で出掛けるので引き続きお願いします」


 俺はガオラさんと少し話をしてから家の中に入った。つまるところ費用の話なんだが、最終的には銀貨4万2000枚近く掛かったので、俺は金貨60枚を追加で支払う。

 実際には金貨数枚が余分だったが、施工の後はきれいに清掃もされていて、その日のうちから利用できることに感動したので打ち上げの飲み代にと収めて貰った。


 元の世界でもやりっ放しの酷い業者があるくらいだ。片付けだって楽ではないからな。






 俺が家の中をぐるりと見渡すと、階段の手前にガレージへ続くドアがある以外は、一階の見た目は特に変わった様子がなく……いや、階段下に設置したミシンの前にあった木窓が埋められて、ただの壁になっていた。


「これだと階段側からは光が差し込まなくなるな」

「そうだの。これからミシンをするときは、昼間でも魔法のランタンを使うしかないわい」

「というか、鎧を着込んでいるのはサキさんだけなのか?」

「うむ。彼奴きゃつ対峙たいじするのはわし一人だからの」


 サキさんはプレートアーマーの下にチェインメイルまで着込んで準備万端の様子だ。



 俺がガオラさんと話しているうちに着替えを終えていたティナとユナは、花壇に水をやったり、風呂場の掃除をしているようだ。


 一応俺も着替えておくかと、階段を上って自分たちの部屋へ戻ることにした……が、階段を上りきった所にあったはずの木窓を確認すると、その場所には一階のガレージへ続くドアと同じデザインの、スライド式のドアに作り変えられていた。

 このドアの向こう側には、ガレージの真上に建てられた部屋があるのだろう。


 さっさと着替えないといけないと思いつつも、俺はドアを開けて新しい部屋の中を確認してみた。



 新部屋の大きさは、俺たちの女子部屋と全く同じ十二畳のスペースと、部屋の奥には一段……二段ほど高くなった四畳そこらのスペースがある。

 これは何と言えばいいのか、小さなステージを備えた宴会場のイメージに近い。で、この部屋は一体何に使うのだろうか? やはり宴会で使うのだろうか?


 これから先寒くなると、魔法の花火で遊んだ時のように河原で飲み食いはできないだろうから、これはこれでいいのかも知れないが……。

 とりあえず俺は、自分の部屋に戻って冒険用の服に着替える。今日は微妙に足元が冷えるので下半身は長ズボンにしておこう。

 武器は──どうせ魔法の矢も通じないんだから持って行っても無駄か。通用するかもしれない方法が一つだけあるが、遺跡の中で大爆発させたら俺たち諸共もろとも黒焦げだ。


 それにしてもこの部屋、武器やらサキさんの酒やらでごちゃごちゃになってるな。これは明日あたり片付けをしないとだめだなあ……。






 俺が部屋を出て一階を見下ろすと、エミリアも準備を終えて全員広間に集合していた。


「こっちは準備できてるわよ」

「それなら二階の新しい部屋からテレポートしよう。何もない部屋のほうが安全だ」


 俺はテレポーターの親機を抱えて新しい部屋まで移動した。みんなもそれに続く。



「もう普通の武器は役に立たないから持って行かないぞ。エミリアが抱えてるつつみが例の魔剣か? 現地で初めて振りましたでは困るから、ここでサキさんに振らせてくれ」


 俺が言うと、エミリアは納得した顔で包みの中の魔剣をサキさんに手渡す。包みの大きさから察するに、若干大きめのショートソードだろう。


「うむ……」


 包みを開いて取り出したミスリル銀の魔剣は、鞘まで装飾が施されていた。柄の部分も大きな宝石が嵌っていて、まるで美術品のようだ。繊細な装飾のお陰で何とも華奢に見えるが──。


「………………」



 サキさんが魔剣を抜き放つと、ぬめりのある光沢をした刀身が姿を現す。その刀身は金属の色ではなく、どちらかと言うと白っぽい。


「セラミック包丁みたいな色ね」

「変わった色だな。俺は良くわからんが、持った感じはどうだ?」

「見た目に反して軽すぎるの。プラスチックの剣を持っておるようだわい」


 それだけ言うと、サキさんは魔剣を鞘に収めた。振ったりしなくていいのかな?


「それじゃあ、移動してもいいか?」

「うむ!」


 サキさんの返事を聞いた俺は、テレポーターの親機に……と思ったが、スリッパのまま遺跡にテレポートしそうになって慌てて足を離した。






 あれから俺たちは全員で玄関まで靴を取りに行き、今ようやく遺跡にテレポートし終わったところだ。

 遺跡の中はあらかじめエミリアが魔法の明かりで照らしておいてくれたので昼間のように明るい。前にも来た場所だが、今俺たちがいる場所は四畳半程度の広さで、部屋の左右には赤い両開きの扉があり、部屋の正面には白い石版と頑丈な鉄格子てつごうしがある。


 鉄格子の向こう側には直径10メートル以上もある円筒形の空間が広がっていて──本来はこの空間にはがねのゴーレムが鎮座していたのだが、俺たちが土の魔法で地面に埋めてしまったので今はその姿が見えない。


「久しぶりに来たわね……」

「カビというか土というか鉄っぽいというか、何とも言えん臭いがするな……こんなのだっけ?」

「……前回の探索中は気が張っていたから、臭いに気付かなかったのかもしれませんね」

「して、どのようにするのだ?」



 俺たちは鉄格子を開けて円筒形の部屋に入ったあと、鋼のゴーレムが埋まっている場所まで歩いた。

 土で埋めたあとは、その土を石化させて完全に封印してしまったので、俺たちの足元はカチカチの石になっている。

 もちろん、あとで穿ほじくり返すだなんて夢にも思っていなかったから、わりと好き放題にやってしまった感も大きい。


「これ、どうすればいいのかな?」

「とりあえず鋼のゴーレムの頭が出てくるところまで、石化を解除しながら掘り進めてみませんか?」



 俺はユナの提案通り、ティナと協力して鋼のゴーレムが埋まっている場所を慎重に掘り進めることにした。掘り進める事によって動けるようになったゴーレムが暴れ始めた時の保険として、エミリアには少し離れた所でバックアップを頼んでおく。


「なかなか見えんな。こんなに深く埋めたっけ?」

「浅いと這い上がってくるから少し深めに掘ったけど、やりすぎたと思うわね」


 なおも俺とティナは慎重に地面を掘り進め、すっかり緊張の解けたサキさんとエミリアが雑談を始めた頃になってようやく鋼のゴーレムの頭部らしき部分が見え始めた。


「これ頭だよな? 触っても平気かな?」



 俺は足でゴーレムの頭を踏み付けるが、地面の石を割って動き出すような気配はない。


「もう壊れてるのかな?」

「魔力感知でわかりますよ」


 こっちの会話をちゃっかりと聞いていたエミリアが、穴の上からアドバイスをくれる。






「…………凄い魔力だわ」

「未だ健在か……これ以上掘ったら本当に暴れ始めると思ったほうがいいな。地面の石化を一気に解除して、一度この部屋から退散するのがいいのか?」

「この状態のまま、鋼のゴーレムの頭に魔剣を突き刺してみるのはだめなの?」

「あ……いいかもしれません。サキさん出番ですよ!」


「うむ!!」



 ユナに呼ばれたサキさんは気合一発、両手でバシンと頬を叩いて、部屋の中央に空いた大穴に飛び降りてきた。


「……ゴーレムはまだ出ておらんのか?」

「出てるだろ、ここに……」

「どこであるか?」

「いや、ここ、頭……その魔剣で突き刺してみて」


『…………』


 俺とティナとユナとサキさんの間で、なんとも言えない空気の沈黙が流れる。



「わしは鋼のゴーレムとは戦えぬ訳かの?」

「そう言わずに、ちょっと魔剣で頭を叩いてもらえませんか? 攻撃が通用するなら、どんなふうになるのか確かめたいですし」

「……むう。何が起こるかわからんから、三人は下がっておれ」


 俺とティナとユナは、穴を昇りきった安全な場所でサキさんを見守ることにした。


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